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6章 湧き出る盗人

2、群盗の襲来

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 ダダダッ。

 突如、霧の向こうで蹄の音が鳴りだした。

 それを察知し、レナの髪の毛がピンと逆立つのが見えた。

 一度認識してしまうと、耳はより鮮明にその音を聞き分けるようになる。慌ただしい蹄の音は一つ、二つではない。

 十は軽く超えている。二十はあるか?
 シノは霧の向こうにはっきりと馬の大群を見た。

「レナ! 前の車両に行って、みんなを起こすんだ! それから機関士に行って、速度を上げさせろ」
「分かったに!」

 シノは馬具を肩にかけると、馬の手綱を取って走った。

 群盗が後方から来るのは分かっていた。可能な限り、馬を囚人用車両に避難させるべきだろう。

 直にここが前線になれば頼みの馬を失うのは明白だった。
 いざとなったら列車を放棄し、トウセキを馬に乗せて逃がすしかない。
 トウセキといえど、銃を持った人間で四方を取り囲まれれば、大人しく馬を走らせてくれるだろう。
 シノは最低の結末を想定していたが、列車を明け渡すつもりはさらさらなかった。列車を明け渡した時点で、ベルナードまでの道のりは途端に険しいものになる。

「手伝ってくれ。馬を移動させる!!」

 シノは寝台車にいたデュアメルと一緒に、四頭の馬を運び出した。

 ガンッ!! ガンッ!!
 金属のぶつかる激しい音が響き渡った。

 家畜車のドアが打ち鳴らされている。
 シノは柵の隙間から外に目をやった。
 盗賊が列車と並走しながら、こん棒のようなもので激しくドアを殴りつけていた。

「急げ!! 急ぐんだ!!」
 二人目の盗賊が列車に追いついてくるのが見えた。
「あと何体ですか?」
 寝台車に避難させた馬を、のっぽの兵士に預け、そのまま囚人用車両まで運ばせた。
「四体だ!! ジョーにも手伝ってもらうように言え」
「囚人の監視はどうしますか?」
「じいさんに任せておけ」
 どう考えても、囚人の監視をする余裕はなかった。

 ガンッ、ガンッ、ガンッ――

 ドアを打ち壊す音は、寝台車からでも腹の底まで響いてくる。
 シノは走って家畜車まで引き返した。
 そして、残りの馬を運び出そうと手綱を握ったとき、家畜車の扉が打ち破られ、群盗が飛び込んできた。

「デュアメル!」
 シノは術式小銃を構え、群盗に向かって発砲した。
 意外に早い……。
 シノは自分が狙いを外したのを悟った。

 群盗の一人は一瞬で状況を判断すると、射線が通らない場所を瞬時に見わけ、餌箱の陰に飛び込んだ。
 身のこなしは正規の騎士団には遠く及ばないが、生命力は土地柄悪くないということか。
 続けざまにまた一人入ってくると、馬の陰に隠れるように家畜車両の後方に飛び退いた。

 しかし、デュアメルは攻撃の態勢を整えていた。

 デュアメルは、その男の肩を撃ち抜いた。

「ぐはっ」

 男は倒れこむように馬草に突っ込んだ。

 打ち破られた家畜車両の扉から、輪胴式魔銃が覗いているのが見えた。

 突入するものを援護しよういうことだろう。

 その背後で赤ら顔の男が列車に乗り込んでくる。

 群盗の一味はデタラメに輪胴式魔銃をぶっ放した。それはシノが手綱を握っていた馬に当たり、馬はけたたましくいなないて暴れだした。

 シノとデュアメルは馬に弾かれるようにして寝台車に退散した。

 家畜車両を出るとき、群盗が続々となだれ込んでくるのが見えた。

 家畜車両はあっけなく群盗の手に落ちた。

「どうします? 隊長」

 デュアメルは家畜車両に向かって遮二無二、銃を撃ち込むと、シノらが退避する時間を稼いだ。

 その間に寝台車にいた兵士たちは全員前方に移動した。
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