異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

文字の大きさ
上 下
19 / 71
3章 荒野の麗人

3、なんだ、もう来たのかよ

しおりを挟む
 しかし、結果的には、トウセキはマッチをこすることをしなかった。

 家の戸口にさっと影が差したかと思うと、その影は音もなくユーゴの横を突っ切り、二手に分かれて左右からトウセキをはさんだ。
 カチャリと撃鉄を起こす音が聞こえ、トウセキはマッチを落として手をあげた。

「なんだ、もう来たのかよ」

「動くなよ」
 シノが術式小銃をユーゴに向けた。
「動いたら頭を吹き飛ばしてやるに!」
 レナが二丁拳銃をトウセキに向ける。

「ああ、分かったよ。追いかけっこにも飽きてきたところなんだ。腹から血も出てるしな」
「かっこつけても無駄だに。部下に裏切られるなんて一番ダサいに」
 レナがにっと唇をゆがめた。

「なに、初めてのことじゃない」

 トウセキはゆっくり振り返ると、シノに両腕を突き出し、不敵な視線を向けた。

     ◇

 トウセキは抵抗することなく拘束された。
 かなりの傷を負っていたため、抵抗する気力がなかったのかもしれないし、捕まったところでいつでも逃げられると思っていたのかもしれない。
 討伐隊のメンバーにしてもトウセキに手錠をかけたくらいで、油断をするものは一人もいなかった。
 特にシノは険しい表情をしていた。
 アヴィリオンまで逃げられたのは想定外だった。
 作戦としては成功の範囲内だが、思っていたよりも損害が出た。

 さっきの戦闘で死んだ者、追跡の際、群盗の反撃にあって落馬し、そのまま荒野に取り残された者、ケガを負って戦線を離脱したもの。ほとんどは安否も分からないまま散り散りになり、十六名いた騎馬隊は今では十名になっていた。

 朝までに何人かは戻ってくるかもしれないが、それを期待するわけにはいかなかった。

 今いるメンバーでトウセキを警護し、ベルナードまで輸送しなければならなかった。

 シノはトウセキを医者の家から宿屋に移すことにした。

 宿屋の主人は何があったのかすっかり気落ちした様子で、「もうどこなと好きな部屋に泊まってください。ただし、扉の壊れている部屋には入らないでくださいよ」と投げやりに言って、全員を通した。


     ◇


 シノはトウセキを宿屋の二階に預け、デュアメルとレナに監視を任せた。

 シノとジョーは町の中心部に向かって歩いていた。

 討伐隊のメンバー全員の食料を調達し、明日に備えて物資を整えておく必要があった。
 ただアヴィリオンは死の町と呼ばれるだけあって、開いている店の数も少なく、品ぞろえも悪かった。
 二人は八百屋を覗いてイモを買うことにした。しかし、人数分のイモがなく、店にある分をすっかり買いに切ってしまうと、残りはカボチャで代用することになった。

「フカシカボチャなんて食べさせたら、デュアメルが文句を言うわよ」

 ジョーがシノに忠告した。
「あいつは物資の不足には慣れっこだ」
「そうかしら。私にはカボチャだけは我慢ならないって怒り出す様子が目に浮かぶけど」

 たしかにデュアメルには王都出身者特有のこだわりがあって、間抜けなものを嫌う傾向があった。
 だが、何が間抜けで何が間抜けでないかは、本人にしか判断がつかない。
 ジョーの言う通り、本来我慢強いデュアメルがカボチャに関しては一歩も譲らない可能性もある。

 シノは「どっちにしても我慢してもらうしかないさ」とつぶやいた。

 その後、二人は肉屋に回り、店先につるされたソーセージを買った。それも討伐隊のメンバー全員の食料を賄うには至らず、ソーセージを買い占めようとしたところで、肉屋の猛反対にあった。

 肉屋を出たところで、二人は八百屋の前がやけに騒がしいことに気が付いた。

 どういうわけか八百屋の前には大きな人だかりができている。

 その真ん中で太った中年男が、五、六歳の少女を突き飛ばし、突き飛ばされた少女は負けん気になって中年男に向かっていく。

 野次馬たちは困ったようにその光景を見ているが、二人の間に止めに入るようなものはいかなかった。
「なにかしら」
「行ってみるか」
 シノとジョーは野次馬をかき分けて、中に入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

処理中です...