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3章 荒野の麗人
3、なんだ、もう来たのかよ
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しかし、結果的には、トウセキはマッチをこすることをしなかった。
家の戸口にさっと影が差したかと思うと、その影は音もなくユーゴの横を突っ切り、二手に分かれて左右からトウセキをはさんだ。
カチャリと撃鉄を起こす音が聞こえ、トウセキはマッチを落として手をあげた。
「なんだ、もう来たのかよ」
「動くなよ」
シノが術式小銃をユーゴに向けた。
「動いたら頭を吹き飛ばしてやるに!」
レナが二丁拳銃をトウセキに向ける。
「ああ、分かったよ。追いかけっこにも飽きてきたところなんだ。腹から血も出てるしな」
「かっこつけても無駄だに。部下に裏切られるなんて一番ダサいに」
レナがにっと唇をゆがめた。
「なに、初めてのことじゃない」
トウセキはゆっくり振り返ると、シノに両腕を突き出し、不敵な視線を向けた。
◇
トウセキは抵抗することなく拘束された。
かなりの傷を負っていたため、抵抗する気力がなかったのかもしれないし、捕まったところでいつでも逃げられると思っていたのかもしれない。
討伐隊のメンバーにしてもトウセキに手錠をかけたくらいで、油断をするものは一人もいなかった。
特にシノは険しい表情をしていた。
アヴィリオンまで逃げられたのは想定外だった。
作戦としては成功の範囲内だが、思っていたよりも損害が出た。
さっきの戦闘で死んだ者、追跡の際、群盗の反撃にあって落馬し、そのまま荒野に取り残された者、ケガを負って戦線を離脱したもの。ほとんどは安否も分からないまま散り散りになり、十六名いた騎馬隊は今では十名になっていた。
朝までに何人かは戻ってくるかもしれないが、それを期待するわけにはいかなかった。
今いるメンバーでトウセキを警護し、ベルナードまで輸送しなければならなかった。
シノはトウセキを医者の家から宿屋に移すことにした。
宿屋の主人は何があったのかすっかり気落ちした様子で、「もうどこなと好きな部屋に泊まってください。ただし、扉の壊れている部屋には入らないでくださいよ」と投げやりに言って、全員を通した。
◇
シノはトウセキを宿屋の二階に預け、デュアメルとレナに監視を任せた。
シノとジョーは町の中心部に向かって歩いていた。
討伐隊のメンバー全員の食料を調達し、明日に備えて物資を整えておく必要があった。
ただアヴィリオンは死の町と呼ばれるだけあって、開いている店の数も少なく、品ぞろえも悪かった。
二人は八百屋を覗いてイモを買うことにした。しかし、人数分のイモがなく、店にある分をすっかり買いに切ってしまうと、残りはカボチャで代用することになった。
「フカシカボチャなんて食べさせたら、デュアメルが文句を言うわよ」
ジョーがシノに忠告した。
「あいつは物資の不足には慣れっこだ」
「そうかしら。私にはカボチャだけは我慢ならないって怒り出す様子が目に浮かぶけど」
たしかにデュアメルには王都出身者特有のこだわりがあって、間抜けなものを嫌う傾向があった。
だが、何が間抜けで何が間抜けでないかは、本人にしか判断がつかない。
ジョーの言う通り、本来我慢強いデュアメルがカボチャに関しては一歩も譲らない可能性もある。
シノは「どっちにしても我慢してもらうしかないさ」とつぶやいた。
その後、二人は肉屋に回り、店先につるされたソーセージを買った。それも討伐隊のメンバー全員の食料を賄うには至らず、ソーセージを買い占めようとしたところで、肉屋の猛反対にあった。
肉屋を出たところで、二人は八百屋の前がやけに騒がしいことに気が付いた。
どういうわけか八百屋の前には大きな人だかりができている。
その真ん中で太った中年男が、五、六歳の少女を突き飛ばし、突き飛ばされた少女は負けん気になって中年男に向かっていく。
野次馬たちは困ったようにその光景を見ているが、二人の間に止めに入るようなものはいかなかった。
「なにかしら」
「行ってみるか」
シノとジョーは野次馬をかき分けて、中に入った。
家の戸口にさっと影が差したかと思うと、その影は音もなくユーゴの横を突っ切り、二手に分かれて左右からトウセキをはさんだ。
カチャリと撃鉄を起こす音が聞こえ、トウセキはマッチを落として手をあげた。
「なんだ、もう来たのかよ」
「動くなよ」
シノが術式小銃をユーゴに向けた。
「動いたら頭を吹き飛ばしてやるに!」
レナが二丁拳銃をトウセキに向ける。
「ああ、分かったよ。追いかけっこにも飽きてきたところなんだ。腹から血も出てるしな」
「かっこつけても無駄だに。部下に裏切られるなんて一番ダサいに」
レナがにっと唇をゆがめた。
「なに、初めてのことじゃない」
トウセキはゆっくり振り返ると、シノに両腕を突き出し、不敵な視線を向けた。
◇
トウセキは抵抗することなく拘束された。
かなりの傷を負っていたため、抵抗する気力がなかったのかもしれないし、捕まったところでいつでも逃げられると思っていたのかもしれない。
討伐隊のメンバーにしてもトウセキに手錠をかけたくらいで、油断をするものは一人もいなかった。
特にシノは険しい表情をしていた。
アヴィリオンまで逃げられたのは想定外だった。
作戦としては成功の範囲内だが、思っていたよりも損害が出た。
さっきの戦闘で死んだ者、追跡の際、群盗の反撃にあって落馬し、そのまま荒野に取り残された者、ケガを負って戦線を離脱したもの。ほとんどは安否も分からないまま散り散りになり、十六名いた騎馬隊は今では十名になっていた。
朝までに何人かは戻ってくるかもしれないが、それを期待するわけにはいかなかった。
今いるメンバーでトウセキを警護し、ベルナードまで輸送しなければならなかった。
シノはトウセキを医者の家から宿屋に移すことにした。
宿屋の主人は何があったのかすっかり気落ちした様子で、「もうどこなと好きな部屋に泊まってください。ただし、扉の壊れている部屋には入らないでくださいよ」と投げやりに言って、全員を通した。
◇
シノはトウセキを宿屋の二階に預け、デュアメルとレナに監視を任せた。
シノとジョーは町の中心部に向かって歩いていた。
討伐隊のメンバー全員の食料を調達し、明日に備えて物資を整えておく必要があった。
ただアヴィリオンは死の町と呼ばれるだけあって、開いている店の数も少なく、品ぞろえも悪かった。
二人は八百屋を覗いてイモを買うことにした。しかし、人数分のイモがなく、店にある分をすっかり買いに切ってしまうと、残りはカボチャで代用することになった。
「フカシカボチャなんて食べさせたら、デュアメルが文句を言うわよ」
ジョーがシノに忠告した。
「あいつは物資の不足には慣れっこだ」
「そうかしら。私にはカボチャだけは我慢ならないって怒り出す様子が目に浮かぶけど」
たしかにデュアメルには王都出身者特有のこだわりがあって、間抜けなものを嫌う傾向があった。
だが、何が間抜けで何が間抜けでないかは、本人にしか判断がつかない。
ジョーの言う通り、本来我慢強いデュアメルがカボチャに関しては一歩も譲らない可能性もある。
シノは「どっちにしても我慢してもらうしかないさ」とつぶやいた。
その後、二人は肉屋に回り、店先につるされたソーセージを買った。それも討伐隊のメンバー全員の食料を賄うには至らず、ソーセージを買い占めようとしたところで、肉屋の猛反対にあった。
肉屋を出たところで、二人は八百屋の前がやけに騒がしいことに気が付いた。
どういうわけか八百屋の前には大きな人だかりができている。
その真ん中で太った中年男が、五、六歳の少女を突き飛ばし、突き飛ばされた少女は負けん気になって中年男に向かっていく。
野次馬たちは困ったようにその光景を見ているが、二人の間に止めに入るようなものはいかなかった。
「なにかしら」
「行ってみるか」
シノとジョーは野次馬をかき分けて、中に入った。
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