上 下
14 / 71
2章 二人の悪人

5、あんたはもうおしまいだ

しおりを挟む

 座席の下から姿を現すと、低い姿勢を維持したまま疾走する。その後ろにレナが続き、二人は背後からトウセキのまとった毛皮を掴むと、列車の中に引きずり込んだ。

 レナが二丁拳銃をトウセキのこめかみにあてた。

 カチリ。

 判決を言い渡すように輪胴式に銃弾が装填される音がした。
 群盗たちは一斉に銃を構えた。
 それに対抗するかのように、討伐隊は座席の窓から一列に銃を覗かせる。

「お前たちの大将は捕まえたに。大人しく銃を下ろして退散するに!」

 レナがその場に似つかわしくない溌剌とした声を出した。
 レナの目は面妖な輝きを放っていた。
 群盗たちはどうしていいものか決めかねて、真ん中にいた色白で瘦せぎすの男と、トウセキの顔を交互に見た。

「ダン様、どうしますか」

 色白の男は返事をしなかったが、彼がダンであることは一目瞭然だった。
 奇妙な沈黙が続いていた。
 誰もがトウセキの顔色を伺いながら、ダンの言葉を待っていた。
 ダンは黙ったままではいたが、トウセキの指示を待っているようでもないらしい。

「ダン様……聞いてますか?」

 彼は沈黙のうちにもっとも良い結果が得られる機会をうかがっていた。
 狙撃手が風向きを読むように、賭博師がツキを読むように、瘦せぎすの男はじっと展開を見極めようとしていた。
 シノは自分が間違えられない状況にいることを悟った。
 トウセキが人質になった今、群盗の指揮権はその男に移ったようだ。
 少なくとも一部の忠実な配下を除いて、ほとんどの男たちはダンの言葉を待っていた。
 ここで出方を間違えば、多くの部下を失うことになる。

 シノの首から一筋の汗が垂れた。

 異様な拮抗状態だった。
 客観的にはシノらが主導権を握っていた。群盗らは馬に乗って体を晒しているのに対して、討伐隊は列車から銃口だけを覗かせている。
 群盗のボスもシノらの手の中にある。
 シノはいつでも撃てるように、用心鉄の中で引き金の感触を探る。
 トウセキを生かすも殺すもすべてはシノとレナの指先一つだ。

 それでいながら、群盗たちは一人として銃を手放そうとはしない。

 二人が一人を道連れにすれば勝てる。いつでも暴れてやると意気込んでいるようだたった。

「部下に武装の解除を言い渡すんだ」

 シノはトウセキの背中に銃口を押し付けた。
 トウセキは笑った。

「ダン!!」

 ダンが顔をあげると、トウセキは手の中で弄んでいた龍鉱石を親指で弾いてダンに渡した。
「しばらく列車の旅を楽しもうと思う」
 龍鉱石がダンの手に渡ったのを見るや、ぐらぐら・ウィリーがシノらのもとに駆け寄ってきた。

「何を考えている! あれが渡っちゃ何にもならんじゃろう!」
「私たちはあんなものどうでもいいに! トウセキさえ捕まればそれでいいに」
 レナのセリフを聞いて、トウセキはダンに指示を出した。
「ということだそうだ。銃を捨ててアジトに戻れ。俺は列車の旅に飽きたら戻っ――」

「撃て」

 ダンはトウセキの言葉を聞き終わることもなく、冷たく言い放った。

 次の瞬間、群盗たちはいっせいに引き金を引いた。

 あるものは窓から銃を構える討伐隊に、そしてある者は、トウセキを盾にとるシノらに向かって。

 魔晶石が爆ぜ、その煙がカーテンのように彼我の間を覆う。
 討伐隊も反撃に出た。
 群盗らは馬に活を入れ、討伐隊の反撃をかわそうとした。ある者は成功し、ある者は失敗して、落馬した。
すべては運次第だった。
 銃弾が入り乱れ、列車の中も外もあちこちで甲高い金属音と枕を叩いたような鈍い音があがる。

 シノはトウセキの毛皮を引っ張り、なんとか扉から遠ざけようとした。

 その瞬間、ダンがトウセキに向かって引き金を引くのが見えた。魔晶石が爆ぜ、ダンの銃が火を噴く。
トウセキの腹部から血しぶきがあがる。

 シノは血の煙の中を泳いでいた。

「ぐはっ」
 シノの耳元で野獣のような呻きが聞こえた。

「ダアアアアアアアン!!」トウセキが叫んだ。
 怒りに身を任せた、耐えがたい咆哮だった。

「裏切ったな、この野郎!」
「あんたはもうおしまいだ」
「クソ、どうなるか分かってるんだろうな」

「あんたこそどうなるかよく考えるべきだったんだ」

「なに?」
「自分から命綱を切ってしまうとは思わなかったな。あんたはこれの価値を分かってたはずだ。これを手放した時点であんたの価値はなくなったんだよ」
 ダンは龍鉱石を握りしめる。
 その握り具合を堪能するかのように笑い、馬に気合いをかけ、その場から立ち去ろうとした。
「なめんなよおおおおお! ダアアアアアアン!」

 トウセキは激高すると素早く動いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ノアの『異』世界一周旅行〜元関西人が来たこの世界、白は遅くて黒は長いみたいです〜

コウ
ファンタジー
ある日森の中、熊さんにじゃなくて 主人公は目を覚ますと森の中にいた。 記憶を巡るが何故森に居るのか覚えがない。 そして小さな体。 目線に入るほど長く伸びた白銀の髪の毛。 そして主人公は自分が関西の大阪で 育った事を思い出す。 更に憶えているのは年齢は25歳働き盛りで 仕事をこなす毎日だった筈。 頭によぎるのは死んで違う世界に 飛ばされる異世界なんちゃら。 でも死んだ記憶も無ければ 自分の名前も思い出せずに  そのまま森の中を彷徨っていると そこで新たな出会いが。 新たな世界にやってきた人間が違う世界で どんな事が出来るのか。何をするのか。 森でのこの出会いがこの後の人生を大きく変える出来事となる。 そしてこの世界で旅をして生きていく事になった 主人公がどんな人生を歩んでいくのか? サクサク読めるストーリー! 面白おかしい主人公に目が離せない? どんどんと話が進んでいく物語を是非楽しんでいってください! この小説を見てくれている皆様ありがとうございます! 良かったらSNSで拡散して貰えると凄く嬉しいです。 プロフィールにTwitterのURL貼ってあるので 是非フォロー待ってます!

冒険者なら一度は行きたい月光苑〜美味しい料理と最高のお風呂でお待ちしております〜

刻芦葉
ファンタジー
夜の六時から十時までメインホールの宴の間にて、新鮮な食材を贅沢に使ったバイキングをお楽しみください。さらに八時からは利用者様から差し入れられた食材の中で、一番素晴らしい物を使ったタイムサービスを開催しています。当館自慢の源泉掛け流しの天然温泉は二十四時間いつでもご利用ください。招待状をお持ちのお客様を異世界の旅館『月光苑』はいつでもお待ちしております◇主人公は章ごとに切り替わります。食べ放題と温泉に身も心もホッコリする人々の話です。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

見知らぬ世界で秘密結社

小松菜
ファンタジー
人も足を踏み入れぬ『緑の谷』 その奥には人知れず佇む大きな屋敷があった。そこに棲むのは…… 一回1000字程度の更新となります。

処理中です...