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2章 二人の悪人
5、あんたはもうおしまいだ
しおりを挟む座席の下から姿を現すと、低い姿勢を維持したまま疾走する。その後ろにレナが続き、二人は背後からトウセキのまとった毛皮を掴むと、列車の中に引きずり込んだ。
レナが二丁拳銃をトウセキのこめかみにあてた。
カチリ。
判決を言い渡すように輪胴式に銃弾が装填される音がした。
群盗たちは一斉に銃を構えた。
それに対抗するかのように、討伐隊は座席の窓から一列に銃を覗かせる。
「お前たちの大将は捕まえたに。大人しく銃を下ろして退散するに!」
レナがその場に似つかわしくない溌剌とした声を出した。
レナの目は面妖な輝きを放っていた。
群盗たちはどうしていいものか決めかねて、真ん中にいた色白で瘦せぎすの男と、トウセキの顔を交互に見た。
「ダン様、どうしますか」
色白の男は返事をしなかったが、彼がダンであることは一目瞭然だった。
奇妙な沈黙が続いていた。
誰もがトウセキの顔色を伺いながら、ダンの言葉を待っていた。
ダンは黙ったままではいたが、トウセキの指示を待っているようでもないらしい。
「ダン様……聞いてますか?」
彼は沈黙のうちにもっとも良い結果が得られる機会をうかがっていた。
狙撃手が風向きを読むように、賭博師がツキを読むように、瘦せぎすの男はじっと展開を見極めようとしていた。
シノは自分が間違えられない状況にいることを悟った。
トウセキが人質になった今、群盗の指揮権はその男に移ったようだ。
少なくとも一部の忠実な配下を除いて、ほとんどの男たちはダンの言葉を待っていた。
ここで出方を間違えば、多くの部下を失うことになる。
シノの首から一筋の汗が垂れた。
異様な拮抗状態だった。
客観的にはシノらが主導権を握っていた。群盗らは馬に乗って体を晒しているのに対して、討伐隊は列車から銃口だけを覗かせている。
群盗のボスもシノらの手の中にある。
シノはいつでも撃てるように、用心鉄の中で引き金の感触を探る。
トウセキを生かすも殺すもすべてはシノとレナの指先一つだ。
それでいながら、群盗たちは一人として銃を手放そうとはしない。
二人が一人を道連れにすれば勝てる。いつでも暴れてやると意気込んでいるようだたった。
「部下に武装の解除を言い渡すんだ」
シノはトウセキの背中に銃口を押し付けた。
トウセキは笑った。
「ダン!!」
ダンが顔をあげると、トウセキは手の中で弄んでいた龍鉱石を親指で弾いてダンに渡した。
「しばらく列車の旅を楽しもうと思う」
龍鉱石がダンの手に渡ったのを見るや、ぐらぐら・ウィリーがシノらのもとに駆け寄ってきた。
「何を考えている! あれが渡っちゃ何にもならんじゃろう!」
「私たちはあんなものどうでもいいに! トウセキさえ捕まればそれでいいに」
レナのセリフを聞いて、トウセキはダンに指示を出した。
「ということだそうだ。銃を捨ててアジトに戻れ。俺は列車の旅に飽きたら戻っ――」
「撃て」
ダンはトウセキの言葉を聞き終わることもなく、冷たく言い放った。
次の瞬間、群盗たちはいっせいに引き金を引いた。
あるものは窓から銃を構える討伐隊に、そしてある者は、トウセキを盾にとるシノらに向かって。
魔晶石が爆ぜ、その煙がカーテンのように彼我の間を覆う。
討伐隊も反撃に出た。
群盗らは馬に活を入れ、討伐隊の反撃をかわそうとした。ある者は成功し、ある者は失敗して、落馬した。
すべては運次第だった。
銃弾が入り乱れ、列車の中も外もあちこちで甲高い金属音と枕を叩いたような鈍い音があがる。
シノはトウセキの毛皮を引っ張り、なんとか扉から遠ざけようとした。
その瞬間、ダンがトウセキに向かって引き金を引くのが見えた。魔晶石が爆ぜ、ダンの銃が火を噴く。
トウセキの腹部から血しぶきがあがる。
シノは血の煙の中を泳いでいた。
「ぐはっ」
シノの耳元で野獣のような呻きが聞こえた。
「ダアアアアアアアン!!」トウセキが叫んだ。
怒りに身を任せた、耐えがたい咆哮だった。
「裏切ったな、この野郎!」
「あんたはもうおしまいだ」
「クソ、どうなるか分かってるんだろうな」
「あんたこそどうなるかよく考えるべきだったんだ」
「なに?」
「自分から命綱を切ってしまうとは思わなかったな。あんたはこれの価値を分かってたはずだ。これを手放した時点であんたの価値はなくなったんだよ」
ダンは龍鉱石を握りしめる。
その握り具合を堪能するかのように笑い、馬に気合いをかけ、その場から立ち去ろうとした。
「なめんなよおおおおお! ダアアアアアアン!」
トウセキは激高すると素早く動いた。
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