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2章 二人の悪人

3、ほうら、ヘルメットがいっただろう

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「いたいにっ!」

 立ち上がっていたレナが車両の前まで吹っ飛んでいき、壁にぶつかって悲鳴をあげた。
 デュアメルはレナに近づいていく。
 頭を押さえてうずくまる彼女を心配するのかと思いきや、「ほうら、ヘルメットがいっただろう」と勝ち誇ったように言ってのけた。

 車掌室から鉄道会社の社員が飛び出してきて、扉を開けて中を覗いてきた。

「大丈夫かね?」
「ああ、何があった?」

 デュアメルが応じた。
 シノはデュアメルに対応を任せ、事の成り行きを見守っていた。

「線路上に障害物が置かれていてな」

「障害物? 爆弾か?」
「分からん。今、ぐらぐら・ウィリーが様子を見に行っている」
「例の賞金稼ぎのジイさんか。大丈夫なのか?」

「大丈夫なもんか。一晩中飲んでたんだ」

 鉄道会社の社員が顔をしかめたと同時に、前方でぐらぐら・ウィリーの耳につくだみ声が聞こえてきた。
「おーい、誰か、来てくれえ。子どもが杭に縛りつけられてるんじゃがな、手が震えてようほどけん」
 深刻な状況とは裏腹にぐらぐら・ウィリーの声は間延びして、呂律がまわっていなかった。
「今行く」
 鉄道会社の社員がそれに応じ、列車から飛び降りてぐらぐら・ウィリーのもとに向かった。
「のんきな爺さんだぜ」
 デュアメルはため息をつき、

 シノは舌打ちを堪えて立ち上がった。車両前方まで進みのデュアメルとレナに合流した。
「分かってるな?」
「ええ」
 デュアメルが深刻な表情で頷いた。
 ドドドドドドドドッ――
 北方の丘から地鳴りが聞こえてきたのはそのときだった。デュアメルは窓を斜めに覗き込み、北方から群盗が馬を駆って突進してくるのを確認した。

「襲撃じゃ、襲撃じゃぞ!」

 ぐらぐら・ウィリーはそう叫ぶと、子どもを杭から外すのを諦めて列車の中に飛び込んでいった。
「持ち場につけ」
 シノの命令で威力騎馬隊の面々は背を低くして、座席の陰に息を潜ませた。デュアメルは窓から外の様子をうかがい続けた。

 鉄道会社が雇った賞金稼ぎの連中が、乗員用車両から飛び出してきて、列車を陰に左右に展開するのが見えた。

 ぐらぐら・ウィリーは有蓋車の上から迎撃するつもりだろう。

 連結部の柵に足をかけ屋根の上にあがろうとしている。

 ぐらぐら・ウィリーの酔い方は並大抵ではないらしく、柵から足を滑らせては、乗員用車両にしがみついている。

 シノは誰かが手を貸してやるべきかとも思ったが、今、騎馬隊の面々を外に出すわけにはいかなかった。

 ぐらぐら・ウィリーが天井に登らないうちに銃撃戦は始まった。

 世界は音に包まれ、地獄のような時間が始まった。

「うおおおおおおおおおおおおお」

 群盗は異常な高揚感をみなぎらせて、場違いな歓声をあげている。

 銃声が飛び交う。

 銃弾が車体にあたっては金属同士のぶつかる乾いた高音が響き渡る。

 銃声は次第に近くなり、どちらの陣営かは分からないが、被弾した人間の痛ましいうめき声が混じり始める。
 やがて群盗の騎馬が列車の周りを駆けまわるようになり、包囲された賞金稼ぎが一人、また一人と撃ち殺されていく。

 デュアメルは目を血走らせてその光景を見ていた。

「隊長、俺たちもうってでましょう」

 賞金稼ぎたちは予想以上に弱く、群盗は恐れ知らずの強さを見せた。

「いや、作戦通りに行動する」
 シノは淡々と言った。
「しかし、それじゃあ、彼らは全滅ですよ」
「そういう取り決めだったはずだ」

「やつらは分かってなかったんだ。トウセキの恐ろしさを」

「いいや、分かっていた。少なくともぐらぐら・ウィリーはな」
「酔っ払いのじいさんが何ができるって言うんです?」
「さあな。どっちにしてもそういう取り決めだったはずだ」

 シノはこの地に派遣され、手始めにもっとも被害を受けていたベルナード・ヴァスケイル間を走る列車の護送を申し出た。

 列車の中で待機し、襲撃にきた群盗を返り討ちにし、そのままトウセキを捕獲する作戦だった。

 しかし、鉄道会社が自前で雇った賞金稼ぎの連中、主に冒険者や、この地の血気盛んな若者がこの作戦に不平を漏らし始めた。

 自分たちはこの列車を護送し、トウセキを打ち負かすことで報酬を得ることになっている。それを横取りされては困ると。

 シノは連中を仕切っていた冒険者の一人と協議し、トウセキが現れれば彼らがはじめに対処すると取り決めをかわした。
 群盗を退却させることができれば、そこからシノたちがトウセキを追跡する。

 彼らを打ち負かすことができなければ、座席に身を潜めていた討伐隊が、トウセキを捕獲する。

 この車両にはVIP専用の個室があり、その中で鉄道会社の社員が高密度の龍鉱石を抱えて座っている。

 トウセキもそれを知らないはずはなく、この列車が襲われることは明らかだった。

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