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2章 二人の悪人
2、隊長、レナは特別ですよ
しおりを挟むいや、どちらかというとその前から起きており、議論に加わるタイミングを伺っていたというべきか。
彼女は胸部にはプレートをしているものの、あとはガントレットすらつけていない。超近距離の白兵戦になった時点で負けと考えているのだろう。
もともと小柄なレナの思想は当たらないことにあり、戦場でも三秒以上止まらないことを是としているようだ。
本人から一々装備の意図を聞くことはないが、シノはそういった意図を組んで、彼女の度を越した軽装を黙認していた。
得物も取り回しの悪い歩兵銃を嫌い、軽量な二丁拳銃をホルスターに収めている。
髪型も動きやすさを重視してか、少年と見間違えるほど短いボブで、ミニスカートは風紀的に見て短すぎる。
「あるだけマシ」と言ったところか。
薄いストッキングから透ける生足は棒のように貧相だが、本人はそれを誇りにこそすれ、引け目に感じることはないだろう。
体がより小さいことは戦場において有利だと信じているのだ。
「私もレナちゃんの意見に賛成ね」
ジョーはレナと視線をかわして笑う。
「さすがジョー様! こんな鉄の塊を背負ってるような奴はあてになりませんよね。いざとなったら、ジョー様はレナがお守りしますに!」
レナは顔をぱーっと明るくさせ、後ろの座席からジョーの腕に手を添えた。
これもレナの身分を考えれば、恐れ多い振る舞いだが、シノは敢えて咎めようとはしなかった。
「そりゃ、前線を張る人間は動きを重視するのも理屈だが、ジョー様はそうじゃねえ。後衛でとにかく死なないことが大事なんだから……」
「ううん、今回は戦争ではないわ。盗賊狩りに前衛も後衛もないわ」
「そうは言いますけどね、ジョー様にもしものことがあったら……」
「もしものことがあったらなんだっていうの? 威力騎馬隊の指揮官はシノでしょう?」
「いや、まあそうですけど……」
「私はあくまでベンチョ地方長官の要請を受けて、トウセキ討伐隊を組織しただけ」
「ですから、本来であればお城で紅茶でも飲んで報告がくるのを待ってればよろしいんですよ」
「それでは騎士道に反するわ。特に、トウセキは五度も討伐隊を派遣しながらも、五度も失敗に終わっている」
「正式には四度。五回目は確かに捕まえて、奴はベルナードで裁判を受けるはずだった」
シノが訂正した。
「どっちにしても、今回で終わりだに。デュアメルも今回は戦争じゃないんだから、もう少し装備を軽くするに」
レナがそう言ってデュアメルの鉄兜を脱がせようとしてくる。
「やめろ」
「ココ・デュアメルは卒業。今日からはサイコロ・デュアメルって呼んであげるに」
「おい、今、さりげなく俺の顔が四角いって馬鹿にしたな? やめろ、マジでやめろって」
「大人しくするに」
「隊長、やめさせてください」
デュアメルはアイアンヘルムを手で押さえながら言った。
「確かにその装備は少し重すぎるようだな」
シノは表情なく言った。
「隊長、レナは特別ですよ。それに俺の馬はこれくらいの重さじゃへばらねえ。お前らの馬よりも長く走ってみせますよ」
「どうだかな」
シノはデュアメルのセリフを適当に流して、会話を終えた。
ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ。
勢いよく走る列車の音に加えて、すきま風が悲鳴のような音を立てる。
シノは立ち上がると車両後部まで行き、窓を開けて首を突き出した。
東の空がぼんやりと白んでくるのが見えた。
「ふああ、よく寝た。隊長代わりましょうか?」
車両後部で眠っていた隊員が起き出してきて言った。
シノが率いる威力騎馬隊第七部隊は総勢十六人からなる精鋭集団だったが、個人的な信条を持ち出して勝手な恰好をしているのは、デュアメルとレナだけで、残りのメンバーはシノと似た格好をしていた。マントと腕の記章は指揮官ゆえのものだが、それ以外は第七隊の標準装備だ。
「いや、それより全員を起こすんだ。来るぞ」
シノはのぞき窓から目を離すと、全員を静かに起こして、持ち場に待機させた。
「何か見えたに?」
レナがシノの顔を見上げた。
「何が見えたというわけでもないが……恐らく……始まる」
隙間から流れ込む風の音か、匂いか、湿気か。あるいは一帯にいる者の動きが、音にならない微妙な空気の振動となって皮膚をかすめたのか。
シノ自身、上手く説明することができなかったが、あの日に感じた嫌な予感と全く同質のものを感じ取っていた。
そのときだった。
ギイイイイイイッッッ。
けたたましい音が鳴り響いた。列車が急停止し、シノは前の席に強く押し付けられた。
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