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第一章 英雄の序曲
第8話「配下たちの暴走1」
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情報収集開始から3日。玉座の間に配下たちを集めて報告を聞く。
「周囲の村には武器や防具の類がほぼありません。周囲30キロ圏内に敵対勢力はいないと推察されます。村で暮らす者は人間と思われますが、特別な能力があるかどうか判断することはできません」
現地住民との直接的な接触は避けるように厳命しているから、これ以上の情報は入手困難か。やはり接触してみる必要がある。
「……わかった。神無月、下がってくれ。別命を下すまでダンジョンの警備を頼む」
「畏まりました」
それにしても、少し慣れてきたとはいえ偉そうにするのは疲れるな。上司に媚び諂うよりはずっと楽だけど。いつかこの態度が馴染んでしまうと、あんな人になってしまうのだろう。あぁ、恐ろしい。
家族や友人、恋人といったたくさんの人に囲まれる現実世界とは違って、配下たちには俺しかいない。俺は絶対にそんな嫌な奴にはならないぞ。泣き言は厳禁だ。
「ただちに危機が迫るとは考えにくいけど、それはこちらの物差しで測っただけのこと。気を引き締めて警備してくれ」
続々と配下たちが退室する中、ウロボロスだけが残って俺を見ている。まるで心の奥底まで覗き込まれているような思いがした。まさか、何も言っていないのに俺が現地に行く計画がバレているのだろうか。
「我が君はどうされるおつもりですか?」
「今後の策を練る。今日の20時にまた集まってくれ。以上、解散」
半分は嘘だけどな。俺はどういう訳か嘘を見破られやすい。そんな中で見つけた打開策は、少し本当のことを織り交ぜる話し方だった。多少後ろめたい気持ちはあるものの、こうすれば顔に出にくい。
「左様で御座いますか。もしご用がありましたら、いつでもお呼び下さい。何でしたらこれから子作りでも――」
聞き終わる前に寝室へワープする。あれ以上は危ないと心の警笛が鳴っていたからな。女の子はあんな場合、どうやって切り抜けているんだろう。
さて、ここを経由して外にワープすれば誰にも悟られない。装備で外見を全くの別人にすれば見つかってもわからないだろう。
「やっぱり、情報は自分の目で確かめないとな」
配下に安全性を確認させてから行くのはちょっと卑怯だけど、何回提案しても却下されたからな。魔王は俺のはずなのに。それに、こんな不似合いの演技を続ける訳にもいかない。息抜きがてら偵察と洒落込もうじゃないか。
「魔王様、どちらへ行かれるつもりですか?」
突然の声に心臓が跳ね上がる。振り返るとメイドが1人、文月が立っていた。そういえば、ここにも警備を配置することになったんだったな。
「俺のことはただちに忘れろ。これは命令だ」
「いえ、その命を聞く訳にはいきません。我々は魔王様を守るために生きております故、御身に何かあれば生きる意味を喪失します」
それもおかしな話だ。ステータスは俺の方がずっと高い。一撃死するトラップが無いなら、俺が出るのが最も被害が少ないというのに。
「これはお前たちの身を案じてのこと。真の忠誠心を持つ者ならば、この意味、理解してくれるな?」
こう言ってしまえば嫌でも頭を縦に振るだろう。そう思ったのも束の間。
「我が君、この身に余る勿体なきお言葉、慈愛の心。ありがたく頂戴致しました」
なんでウロボロスまで。さっきまで玉座の間にいたじゃないか。まさか、俺の真意を見抜いていたというのか。
「……ウロボロス、お前にはダンジョン内の警備を任せたはずだけど?」
「最優先任務は我が君の護衛。オラクル・ナイツの団長として、最強の剣として、この身は常に御身の傍に」
つまるところ、外出するのはバレていると。さて、どうやって切り抜けるべきか。
「魔王様、出立と聞いて参上したのじゃ」
カルマまでやって来た。これはもう、全配下が俺の計画を見抜いていたとしか考えられない。きっと必死に考えているところを見られたのだろう。俺のプライベートはどこへいったのか。
「カルマ、今は取り込み中です。下がりなさい」
「出立とあれば私が同伴する。魔王様の言を忘れたのかのう? 脳みそにカビでも生えてしもうたか?」
部屋の気温が一気に下がる。どうして2人が争うんだよ。こんなところで暴れられたら寝室が吹き飛ぶぞ。
「2人とも、静まれ」
「申し訳ありませんでした」
「つい蛇女の毒牙にかかるところじゃった」
だから、カルマさん。お前はどうして火に油を注ぐようなことを言うんだ。最高だよ。でもな、それはディスプレイの向こうから見るから楽しいのであって。
「……殺す」
ウロボロスさん、そんなボソッと恐ろしいことを言わないで欲しいな。宥めつつ、どうやって言いくるめるか考えた。
「周囲の村には武器や防具の類がほぼありません。周囲30キロ圏内に敵対勢力はいないと推察されます。村で暮らす者は人間と思われますが、特別な能力があるかどうか判断することはできません」
現地住民との直接的な接触は避けるように厳命しているから、これ以上の情報は入手困難か。やはり接触してみる必要がある。
「……わかった。神無月、下がってくれ。別命を下すまでダンジョンの警備を頼む」
「畏まりました」
それにしても、少し慣れてきたとはいえ偉そうにするのは疲れるな。上司に媚び諂うよりはずっと楽だけど。いつかこの態度が馴染んでしまうと、あんな人になってしまうのだろう。あぁ、恐ろしい。
家族や友人、恋人といったたくさんの人に囲まれる現実世界とは違って、配下たちには俺しかいない。俺は絶対にそんな嫌な奴にはならないぞ。泣き言は厳禁だ。
「ただちに危機が迫るとは考えにくいけど、それはこちらの物差しで測っただけのこと。気を引き締めて警備してくれ」
続々と配下たちが退室する中、ウロボロスだけが残って俺を見ている。まるで心の奥底まで覗き込まれているような思いがした。まさか、何も言っていないのに俺が現地に行く計画がバレているのだろうか。
「我が君はどうされるおつもりですか?」
「今後の策を練る。今日の20時にまた集まってくれ。以上、解散」
半分は嘘だけどな。俺はどういう訳か嘘を見破られやすい。そんな中で見つけた打開策は、少し本当のことを織り交ぜる話し方だった。多少後ろめたい気持ちはあるものの、こうすれば顔に出にくい。
「左様で御座いますか。もしご用がありましたら、いつでもお呼び下さい。何でしたらこれから子作りでも――」
聞き終わる前に寝室へワープする。あれ以上は危ないと心の警笛が鳴っていたからな。女の子はあんな場合、どうやって切り抜けているんだろう。
さて、ここを経由して外にワープすれば誰にも悟られない。装備で外見を全くの別人にすれば見つかってもわからないだろう。
「やっぱり、情報は自分の目で確かめないとな」
配下に安全性を確認させてから行くのはちょっと卑怯だけど、何回提案しても却下されたからな。魔王は俺のはずなのに。それに、こんな不似合いの演技を続ける訳にもいかない。息抜きがてら偵察と洒落込もうじゃないか。
「魔王様、どちらへ行かれるつもりですか?」
突然の声に心臓が跳ね上がる。振り返るとメイドが1人、文月が立っていた。そういえば、ここにも警備を配置することになったんだったな。
「俺のことはただちに忘れろ。これは命令だ」
「いえ、その命を聞く訳にはいきません。我々は魔王様を守るために生きております故、御身に何かあれば生きる意味を喪失します」
それもおかしな話だ。ステータスは俺の方がずっと高い。一撃死するトラップが無いなら、俺が出るのが最も被害が少ないというのに。
「これはお前たちの身を案じてのこと。真の忠誠心を持つ者ならば、この意味、理解してくれるな?」
こう言ってしまえば嫌でも頭を縦に振るだろう。そう思ったのも束の間。
「我が君、この身に余る勿体なきお言葉、慈愛の心。ありがたく頂戴致しました」
なんでウロボロスまで。さっきまで玉座の間にいたじゃないか。まさか、俺の真意を見抜いていたというのか。
「……ウロボロス、お前にはダンジョン内の警備を任せたはずだけど?」
「最優先任務は我が君の護衛。オラクル・ナイツの団長として、最強の剣として、この身は常に御身の傍に」
つまるところ、外出するのはバレていると。さて、どうやって切り抜けるべきか。
「魔王様、出立と聞いて参上したのじゃ」
カルマまでやって来た。これはもう、全配下が俺の計画を見抜いていたとしか考えられない。きっと必死に考えているところを見られたのだろう。俺のプライベートはどこへいったのか。
「カルマ、今は取り込み中です。下がりなさい」
「出立とあれば私が同伴する。魔王様の言を忘れたのかのう? 脳みそにカビでも生えてしもうたか?」
部屋の気温が一気に下がる。どうして2人が争うんだよ。こんなところで暴れられたら寝室が吹き飛ぶぞ。
「2人とも、静まれ」
「申し訳ありませんでした」
「つい蛇女の毒牙にかかるところじゃった」
だから、カルマさん。お前はどうして火に油を注ぐようなことを言うんだ。最高だよ。でもな、それはディスプレイの向こうから見るから楽しいのであって。
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