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ゴブリンのトリオ

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「…ここ…何処だ?」
 
周りを見渡す限りの木、木、木。
薄暗く不気味で、今にも何かが出てきそうな雰囲気だ。
僕は自分の手を見てみた。
黒い金属板で構成されたフルプレートアーマー。
僕は自分の体を確認するために左の手甲を外してみた。
傷一つ無い一つ無い綺麗な骨が。
何が起きているのか信じられず、グッパッグッパと手を開いたり閉じたりする。

「------なん、だと…!?」

落胆して地面に膝を突いた。
 
「い、異世界転送とかそう言うやつなのか…?…勘弁してほしいよもう…」
 
その手の作品は腐るほど読み漁ってきたが、あれはあくまで他人の話だから笑っていられたわけで。
まさか自分が異世界に転生するなんて思いもよらず、今出来るのはただ現実逃避をすることだけだった。
頭を抱えて踞り、地面に『の』の字を描いていると目の前に小人のような生物が現れる。
緑色の汚い肌、鉛筆の芯のような据えた臭い。
ぎょろりとして濁った目とよだれを垂らす半開きの口から察するに知性は無さそうだ。
 
「ゴブリン…?」
「…」
 
何をするわけでもなくじっと僕を見つめている。
おもむろに差しのべられた手を握ろうと腕を伸ばした瞬間、
 
「ギギャ!!!(特別意訳:へっ!!馬鹿め!!頂いたぜ!!)」
 
伸ばした腕は宙を泳ぎ、腰に提げられた剣をあっさり奪われてしまった。
あっと叫ぶ間も無く茂みに逃げていくゴブリンを追いかけて走る僕。
いくら錆び付いて使い物にならなそうとは言え今はどんなものも失いたくない。
ボクとゴブリンとの逃亡劇が始まった。
 
「ギャギググ!!(訳:そんな走りでこの俺に追い付けるかよ!!ヒャッハーー!!)」
 
しかしぐんぐんと差をつけられ、結局茂みへと逃げ込まれてしまう。
 
「ま、待てコラァ!!」
 
僕は負けじと必死に追いかける。

○○○○○○

「ギャグギギャ!!(訳:やりましたね兄貴!!)」
「グギャギ!!(訳:さっすが兄貴!!人間なんて目じゃありませんね!!)」
「ググギギャ!!(訳:当たり前だろ!!あんな奴ぁ敵じゃねぇよ!!ガハハ!!)」
 
森を騒がすゴブリントリオ。
森の開けた所に座り込み、先程の黒い騎士から奪った戦利品を品定めしている最中だった。
 
「ギグ!?グギャー…(訳:何だこれ!?錆び付いてやがるぜ…)」
 
鞘から抜いてみた剣は、ボロボロに錆び付き今にも折れそうな雰囲気を放つがらくただった。
落胆するトリオ。
だが彼らはそんなことではへこたれないだろう。
彼らは馬鹿ではないが酷く間抜けなのだから。
 
「ググ…ギャギャー。(訳:どれ…さっきのやつからもう一回、頂いてくるかな。)」
 
疾風がもう一走りするかと意気込んだその時。
突然草むらから黒い影が飛び出してきた。
 
「お前ら…ぶっ殺してやるからな!!」
「「「ギャーーーーーッ!?(訳:ぎゃーーーーーっ!?)」」」
 
赤く輝く双眸を一層輝かせて叫ぶ僕。
投げ捨てられた自分の剣を手に取ると、錆び付いたそれをバットのように握って斬りかかった。
 
「オラァ!!」
「ゴバァ!?」
 
一番偉そうなゴブリンの首に食い込む刃。
錆び付いたそれは、彼の命を啜るようにその輝きを取り戻していく。
 
「!?」

突然の事に驚くが、種族の説明に書いてあったある一文を思い出した。
『その肉体と鎧、そして剣は一心同体で、生者の命を喰らいその力を増していく。』
つまり、僕は種族の特性ゆえに、言い方は悪いが殺せば殺すほど強くなっていくらしい。
 
「カ…ギ…」
 
息絶えるゴブリン。
生々しいその光景に、僕は不思議な事に、元の世界では有り得ないような高揚感を覚えていた。

 「ふーっ…ふーっ…」
 
呼吸など必要そうもない肺が空気を取り込み、まるで心臓が鼓動を取り戻したかのように感じる。
必然的に僕の微かな呼吸は荒くなり、自覚はしていないが、その虚ろな眼球からは赤い光が強く漏れていた。
 
「死ね!!」
「グ…ギ…ギャァァァァア!!」
「死ねっ!!死ね!!」
「ガァァァァ!?」
 
怯える二匹のゴブリンを貪るように引き裂き、その血を体に浴びる。
 
「はははははは!!」

まるで自分が自分じゃ無くなったような高揚感!! 

「ひひっ…うまい…うまい…」
 
冑を脱ぎ捨て、零れたゴブリンの腸を喰らう。
その姿は、まさに血肉に飢えた不死者そのもの。
 
そこで気が付いた。
 
「ぼ…僕は…一体、何を…」
 
自分の外套で口を拭い、冑を乱暴に被るとその場から逃げ出すように走り出した。
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