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時辰儀なき戦い
時辰儀なき戦い 9
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ひょうきんな藤色ハッチバックが時辰儀組に到着するや、一足先に車を降りたあたしはお母様(砂翁)の袖を掴んでヒソヒソ話。
「ねえ、ちょっと確認したい事柄があるのだけれど」
「何ですかな、きざみお嬢様?」
「ここだけの話、あたしお爺様から米齢時を頂戴しようと思っているの」
「承知。あの役立たずな空腹丸を連れ出した時点で気づいておりましたですぢゃ。なれど、先のない老いぼれから寿命を奪うとは、きざみお嬢様も随分と節操のないことで」
「そうよ。しかも標的はたった一人の身内だし。……呆れて?」
「いや、実にお嬢様らしいと。で、ワシに確認したいこととは一体何ですぢゃ?」
「あなた、以前に言ったわよね? 『奪った寿命――つまり食べた米齢時は排便したらそれは全て元通り相手に帰す』って……」
「いかにも」
「ねえ、それって例外はあるのかしら?」
「はて? 例外とはどのような?」
「そうねえ。例えば……死んだ人間とか?」
******************************
自ら蒔いた種と言えど地獄だわ。
何故って、出しても出しても止まらないんですもの!
さすがは超強力下剤……しかも小児(6~12歳)1回1錠のところ一気に1箱全部(24錠)服用したものだから出る量半端ないって。
仕方なかったのかもしれないけれど、今となっては死ぬほど後悔してる。
だって、ヤドカリみたいにかれこれ30分は便座にスポと一体化してうんうんを出し続けているのよ。
おなかはズキズキ、出口部分はヒリヒリ、痛みの二重奏が容赦なくあたしを苦しめている。
おまけに自分から出ている物体の臭いに臭くて臭くてさっきから惨めで涙が止まらない。
海亀の産卵じゃあるまいし。
それにしても疑問だわ。
何故こんなにも出るのかしらん。
どう考えても尋常じゃない。
たったお茶碗半分にも満たない米齢時を出すために、その数十倍の排泄物が要求されるなんて納得いかない!
一体全体何が出てるのよ、あたしの中から。
ひょっとしたら、五臓六腑全てがおしりの穴から抜け落ちているのではなくて?
などと思考回路の麻痺したあたしが馬鹿な考えに行き着いたところで、突然おトイレの向こうからとてつもなく大きなどよめきが起こったの。
おそらく、あたしが排出した米齢時がお爺様の命となって彼を蘇生させたのだわ。
砂翁が言うには肉体が保存されている限り、命の出し入れはさほど難しくも珍しくもないのだそう。
世界的に見ても、人が蘇る例は多数あるしね。
余命わずかのお爺様から米齢時を奪い、それをすぐさま彼に戻すため超強力下剤を1箱空にした目的は、今のどよめきを聞きたかったからに他ならない。
さっきの喧騒に驚いたおしりの穴が、その弾みで閉じてくれたのは幸いだわ。
ならば、いつまでもおトイレの住民に徹している場合じゃないことよ。
さりとて、このままみんなの前に出るなど愚の骨頂。
だって、今のあたしは強烈な異臭を放つ肉便器でしかないもの。
……おっと、レディコミで学び得た不埒な語彙をうっかり誤用してしまったわ。
とにかく、この臭いを消さなくては!
失禁した政のことをとやかく言えないもの。
金木犀の強烈な匂いが漂う芳香剤を躊躇なく手に取ったあたし、下着は勿論のこと鶯色のベルベット・ワンピースとブラポシェット、おまけにおかっぱにもこれでもかと言わんばかりに振りかけた。
嗚呼、高級でなくていいから真っ当な香水がほしい。
でも哀しいかな、芳香剤があたしの現状なのね。
おトイレを出て、念のため鼻をつけてお洋服の肩口をくんくん嗅いでみる。
完璧ね。
もはや金木犀の匂いが強すぎて、おトイレに籠ってたのを逆アピールしてしまってるほどに……ってアピールしてどうするの!
考えてみれば、金木犀ってトイレの芳香剤の代名詞みたいなものじゃない。
などと、己の失態を嘆いたところで後の祭り……戻ろうっと。
お爺様の寝室では、それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎが繰り広げられていて、誰もあたしの帰還に気づかない。
それもその筈、死んだと思っていたお爺さまが土下座する蟹銀を踏みつけて激高しているもの。
どっちにしろ余命わずかなのに、お爺様ってば随分なハッスルぶりだこと。
一方、蟹銀は弁解の余地なし。ひたすら謝るしかないわね。
だってあなたの蛮行、全てこの部屋の防犯カメラが捉えているのだから。
ほほほ、お気の毒さま。
こちらの望み通り、都合よく暴れてくれてありがとう。
一方、形勢逆転の政はいまだ放心状態、
狐につままれながらも偶然にあたしを確認したみたい。
四つん這いでこっちにやって来て、激しく肩を揺すってきた。
あらま、これで政も金木犀の仲間入り。
「お、お、おい、一体どうなってんだ? 伯父貴……生き返ったみてえだが?」
「あら、そう? ならばよかったのではなくて? ご覧なさいな、あの蟹銀の哀れな姿を。これであなたは晴れてこの組の跡取りになれたも同然なのだし」
「け、けどよぅ……」
政はまだ釈然としないながらも、しまりのない顔でチラリとお母様(砂翁)を盗み見た。
何を考えているか手に取るようにわかるわ。
この勢いで、お母様(砂翁)を口説いてしまおうという算段ね。
ふふふ、そうはいかなくってよ。
このあたしが蟹銀ではなく政に味方したのは、当然ながら理由があってのこと。
あなたみたいなマイルドヤ○ザが組の跡取りになれば、確実に潰れるからよ。
それこそがあたしとお母様(本物・故人)の悲願だもの。
ところが……。
「銀二、そんなにこの組が欲しいのなら全部くれてやるわい!」
はああ?
そんな馬鹿なことがあってたまるものですか!
破壊寸前にまで陥ったあたしのおしりの穴、どうしてくれるのよ!
こういうのを無駄死にならぬ"無駄尻"って言うのかしらん。
「ねえ、ちょっと確認したい事柄があるのだけれど」
「何ですかな、きざみお嬢様?」
「ここだけの話、あたしお爺様から米齢時を頂戴しようと思っているの」
「承知。あの役立たずな空腹丸を連れ出した時点で気づいておりましたですぢゃ。なれど、先のない老いぼれから寿命を奪うとは、きざみお嬢様も随分と節操のないことで」
「そうよ。しかも標的はたった一人の身内だし。……呆れて?」
「いや、実にお嬢様らしいと。で、ワシに確認したいこととは一体何ですぢゃ?」
「あなた、以前に言ったわよね? 『奪った寿命――つまり食べた米齢時は排便したらそれは全て元通り相手に帰す』って……」
「いかにも」
「ねえ、それって例外はあるのかしら?」
「はて? 例外とはどのような?」
「そうねえ。例えば……死んだ人間とか?」
******************************
自ら蒔いた種と言えど地獄だわ。
何故って、出しても出しても止まらないんですもの!
さすがは超強力下剤……しかも小児(6~12歳)1回1錠のところ一気に1箱全部(24錠)服用したものだから出る量半端ないって。
仕方なかったのかもしれないけれど、今となっては死ぬほど後悔してる。
だって、ヤドカリみたいにかれこれ30分は便座にスポと一体化してうんうんを出し続けているのよ。
おなかはズキズキ、出口部分はヒリヒリ、痛みの二重奏が容赦なくあたしを苦しめている。
おまけに自分から出ている物体の臭いに臭くて臭くてさっきから惨めで涙が止まらない。
海亀の産卵じゃあるまいし。
それにしても疑問だわ。
何故こんなにも出るのかしらん。
どう考えても尋常じゃない。
たったお茶碗半分にも満たない米齢時を出すために、その数十倍の排泄物が要求されるなんて納得いかない!
一体全体何が出てるのよ、あたしの中から。
ひょっとしたら、五臓六腑全てがおしりの穴から抜け落ちているのではなくて?
などと思考回路の麻痺したあたしが馬鹿な考えに行き着いたところで、突然おトイレの向こうからとてつもなく大きなどよめきが起こったの。
おそらく、あたしが排出した米齢時がお爺様の命となって彼を蘇生させたのだわ。
砂翁が言うには肉体が保存されている限り、命の出し入れはさほど難しくも珍しくもないのだそう。
世界的に見ても、人が蘇る例は多数あるしね。
余命わずかのお爺様から米齢時を奪い、それをすぐさま彼に戻すため超強力下剤を1箱空にした目的は、今のどよめきを聞きたかったからに他ならない。
さっきの喧騒に驚いたおしりの穴が、その弾みで閉じてくれたのは幸いだわ。
ならば、いつまでもおトイレの住民に徹している場合じゃないことよ。
さりとて、このままみんなの前に出るなど愚の骨頂。
だって、今のあたしは強烈な異臭を放つ肉便器でしかないもの。
……おっと、レディコミで学び得た不埒な語彙をうっかり誤用してしまったわ。
とにかく、この臭いを消さなくては!
失禁した政のことをとやかく言えないもの。
金木犀の強烈な匂いが漂う芳香剤を躊躇なく手に取ったあたし、下着は勿論のこと鶯色のベルベット・ワンピースとブラポシェット、おまけにおかっぱにもこれでもかと言わんばかりに振りかけた。
嗚呼、高級でなくていいから真っ当な香水がほしい。
でも哀しいかな、芳香剤があたしの現状なのね。
おトイレを出て、念のため鼻をつけてお洋服の肩口をくんくん嗅いでみる。
完璧ね。
もはや金木犀の匂いが強すぎて、おトイレに籠ってたのを逆アピールしてしまってるほどに……ってアピールしてどうするの!
考えてみれば、金木犀ってトイレの芳香剤の代名詞みたいなものじゃない。
などと、己の失態を嘆いたところで後の祭り……戻ろうっと。
お爺様の寝室では、それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎが繰り広げられていて、誰もあたしの帰還に気づかない。
それもその筈、死んだと思っていたお爺さまが土下座する蟹銀を踏みつけて激高しているもの。
どっちにしろ余命わずかなのに、お爺様ってば随分なハッスルぶりだこと。
一方、蟹銀は弁解の余地なし。ひたすら謝るしかないわね。
だってあなたの蛮行、全てこの部屋の防犯カメラが捉えているのだから。
ほほほ、お気の毒さま。
こちらの望み通り、都合よく暴れてくれてありがとう。
一方、形勢逆転の政はいまだ放心状態、
狐につままれながらも偶然にあたしを確認したみたい。
四つん這いでこっちにやって来て、激しく肩を揺すってきた。
あらま、これで政も金木犀の仲間入り。
「お、お、おい、一体どうなってんだ? 伯父貴……生き返ったみてえだが?」
「あら、そう? ならばよかったのではなくて? ご覧なさいな、あの蟹銀の哀れな姿を。これであなたは晴れてこの組の跡取りになれたも同然なのだし」
「け、けどよぅ……」
政はまだ釈然としないながらも、しまりのない顔でチラリとお母様(砂翁)を盗み見た。
何を考えているか手に取るようにわかるわ。
この勢いで、お母様(砂翁)を口説いてしまおうという算段ね。
ふふふ、そうはいかなくってよ。
このあたしが蟹銀ではなく政に味方したのは、当然ながら理由があってのこと。
あなたみたいなマイルドヤ○ザが組の跡取りになれば、確実に潰れるからよ。
それこそがあたしとお母様(本物・故人)の悲願だもの。
ところが……。
「銀二、そんなにこの組が欲しいのなら全部くれてやるわい!」
はああ?
そんな馬鹿なことがあってたまるものですか!
破壊寸前にまで陥ったあたしのおしりの穴、どうしてくれるのよ!
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