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第16章 何かが足んねえ
何かが足んねえ 2
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また出てきやがったか、その名前……。
どんだけ俺の周囲をうろちょろすりゃ気が済むんだよ、サルガタナスめ!
「あのジジイを”様”呼ばわりってことは何か? オメーはサルガタナスの飼い猫か何かだって言うのかよ?」
「飼い猫どころか、あのお方は僕に命を吹き込んでくれた恩人だよ。サルガタナス様の下僕より更に下の身分だと、この僕は考えている」
「知るか! 勝手に卑屈になってろや。それに”恩人”て、人じゃねーだろが。オメーもサルガタナスもよ!」
「揚げ足を取らないでくれ。元々、僕はガラス管に閉じ込められた標本に過ぎなかった。つまり、僕はタダの被験体……それも死骸だったのさ。そこからケットシーになれたのは、サルガタナス様の錬金」「いいから服寄こせっての! 錬金術より俺のキンがこれ以上縮こまってやべえことになる前にな?」
話の腰を折られたアンドリューは不満そうに肩を竦めるも、出てきたばかりの部屋にいったん引っ込んで、隠す物を俺に手渡した……ってオイ!
「何だこりゃッ!? オメー、ふざけてんのかよッ!」
「とりあえずそれで我慢してくれ。キミのアーモンドサイズなら十分隠れるだろ?」
「ああ、お釣りがくらあ……って、だからって雑巾なんか寄こすんじゃねーよ! 雑巾とタ○キンでうまいこと言ってるつもりか?」
「やれやれ、発言全てがはしたない。キミを拾った途端、我が艦の品性が格段に落ちたよ。わかった。早急に着替えを用意させよう」
そう言って、アンドリューはパンパンと手を打ち人を呼んだ。
「ではそれまで、さっきの部屋で待機してくれたまえ」
は? さっきの部屋って……ザーメンまみれのあそこに戻れってか?
「そんなことできねーよ。いいぜ。俺はフリチンのまま甲板で待たせてもらう。そこに俺の子分もいるみてーだしな」
「とんでもない。そのような破廉恥な格好で艦内を自由に徘徊されては困るのだ。我が艦の舵輪は人一倍シャイなお方なのだからな」
「よく言うぜ! 俺を今までスッポンポンのまま放置してやがったクセによ!」
「致し方あるまい。上着は破けていたし、ジャージの下と下着は救出時に既に穿いていなかったのだから」
あの大海の流潮に持っていかれたか。
それはそれで頷けるが、ならば、それより簡単に失いそうな統治の王冠が俺の頭にくっついたまま救助されたってのは……奇跡とかじゃなく、やっぱ花子が必死にしがみついた結果なんだろーな。
わかんねえ。どうしてそこまで俺に拘る?
”統治”ったって、この多島海の世界じゃ何の役にも立たねーしよ。ここに半悪魔がいるのならともかく……。
そんなことを考えていたら、やがて人の近づく気配がした。
「アンドリューの旦那、御呼びでごぜぇやすかい?」
――ッ!?
わかんねえ。
何でオメーがこの世界にいるんだ。チャキチャキの江戸訛りが懐かしい。……畜生、せっかく忘れてたのに思い出しちまったじゃねーか。小園のことをよ!
相手はさほど驚いた様子もねえ。
「おう、久し振りじゃねえかよ、このクソ王子! その粗末なイチモツ晒してこっ恥ずかしくねぇのかい? ちゃんちゃらおかしいや。見てるコッチが赤面しちまわぁ」
「フニャチンのオメーが言うな! つーか、俺とオメーらの上下関係どーなってんだ? もうワケわかんねーよ!」
ヘンリーもアンドリュー同様、俺の喋りに面食らう。
「……こいつはおったまげたな。王冠手に入れたら、人はこうも変わっちまうもんかえ。猫も杓子もこれだから手にするといけねぇや、権力ってヤツをよ。剣呑剣呑」
「断っておくが、俺はオメーが知ってる岩清水拓海じゃねえ」
「ほう、するってぇとテメーは偽者ってワケかい?」
「馬鹿野郎! 俺の方こそ本物だ! オイ、アンドリュー! そこんとこちゃんと子分に説明しとけや!」
「無茶言わないでくれ。僕だってサルガタナス様から『プリンセス・レイチェフの御子息を遠くからサポートするように』と命じられただけなんだ。そして僕の知っている唯一の岩清水拓海は、あのダンジョンで接触したおとなしそうな彼だけなんだからね」
「ありゃ、自分が拓海であることを放棄して引っ込んじまったんだ」
「『引っ込んだ』? 人間とはそのような芸当ができるのか?」
「できねーよ。オメーの親分が人間とサキュバスの間に産まれた赤ん坊に別世界で死んだ俺を組み込みやがったんだ。文句があるなら、サルガタナスに言えってんだよ!」
「じゃ、やっぱりテメーは偽王子なんじゃねぇか、このスットコドッコイ!」
腹立つな。
コイツ、いずれ俺が統治する世界の住人だろ? 生意気過ぎやしね……いや、違う。
ヘンリーはハーフ・インキュバスじゃねえ。
人化しやがったんだ。黒リータの話が本当ならば、だが。
そうか、だからコイツには統治の王冠が効かねーんだ。
お宝ゲットして孤児院に戻った時、待ち構えていた半悪魔である指導士の態度が豹変したみてえにならねーのも、そう考えると頷けるぜ。
コイツ、今は小園のことどう想ってるんだろ?
ヘンリーはともかく、小園はリアルガチのレズになっちまったが。
どうでもいいか……。
告白してもねーのにフラれた女のことなんか。
ただ、ヘンリーの立ち位置が微妙だ。
元ハーフ・インキュバスのヘンリーは咲柚の温情――自分の中の悪魔を否定して呪いが解けたことで命を助けられたと仮定する。言わば、咲柚サイドにいる筈だろ?
なのに、咲柚を裏切ったサルガタナス、その飼い猫の配下にいるのはどういうことだ?
そうそう、アンドリューだけじゃねーな。
サルガタナスにとってこの俺も”ティッシュマスター”という被験体なんだってことを。
そして更に忘れちゃなんねえ。
俺を死なせねえと、ここまで導いた大鴉の存在だ。
ハゲの立ち位置を気にしてる場合じゃねーや。
俺の立ち位置は一体どこにあるんだ(この間、ずっとフリチンに王冠)。
どんだけ俺の周囲をうろちょろすりゃ気が済むんだよ、サルガタナスめ!
「あのジジイを”様”呼ばわりってことは何か? オメーはサルガタナスの飼い猫か何かだって言うのかよ?」
「飼い猫どころか、あのお方は僕に命を吹き込んでくれた恩人だよ。サルガタナス様の下僕より更に下の身分だと、この僕は考えている」
「知るか! 勝手に卑屈になってろや。それに”恩人”て、人じゃねーだろが。オメーもサルガタナスもよ!」
「揚げ足を取らないでくれ。元々、僕はガラス管に閉じ込められた標本に過ぎなかった。つまり、僕はタダの被験体……それも死骸だったのさ。そこからケットシーになれたのは、サルガタナス様の錬金」「いいから服寄こせっての! 錬金術より俺のキンがこれ以上縮こまってやべえことになる前にな?」
話の腰を折られたアンドリューは不満そうに肩を竦めるも、出てきたばかりの部屋にいったん引っ込んで、隠す物を俺に手渡した……ってオイ!
「何だこりゃッ!? オメー、ふざけてんのかよッ!」
「とりあえずそれで我慢してくれ。キミのアーモンドサイズなら十分隠れるだろ?」
「ああ、お釣りがくらあ……って、だからって雑巾なんか寄こすんじゃねーよ! 雑巾とタ○キンでうまいこと言ってるつもりか?」
「やれやれ、発言全てがはしたない。キミを拾った途端、我が艦の品性が格段に落ちたよ。わかった。早急に着替えを用意させよう」
そう言って、アンドリューはパンパンと手を打ち人を呼んだ。
「ではそれまで、さっきの部屋で待機してくれたまえ」
は? さっきの部屋って……ザーメンまみれのあそこに戻れってか?
「そんなことできねーよ。いいぜ。俺はフリチンのまま甲板で待たせてもらう。そこに俺の子分もいるみてーだしな」
「とんでもない。そのような破廉恥な格好で艦内を自由に徘徊されては困るのだ。我が艦の舵輪は人一倍シャイなお方なのだからな」
「よく言うぜ! 俺を今までスッポンポンのまま放置してやがったクセによ!」
「致し方あるまい。上着は破けていたし、ジャージの下と下着は救出時に既に穿いていなかったのだから」
あの大海の流潮に持っていかれたか。
それはそれで頷けるが、ならば、それより簡単に失いそうな統治の王冠が俺の頭にくっついたまま救助されたってのは……奇跡とかじゃなく、やっぱ花子が必死にしがみついた結果なんだろーな。
わかんねえ。どうしてそこまで俺に拘る?
”統治”ったって、この多島海の世界じゃ何の役にも立たねーしよ。ここに半悪魔がいるのならともかく……。
そんなことを考えていたら、やがて人の近づく気配がした。
「アンドリューの旦那、御呼びでごぜぇやすかい?」
――ッ!?
わかんねえ。
何でオメーがこの世界にいるんだ。チャキチャキの江戸訛りが懐かしい。……畜生、せっかく忘れてたのに思い出しちまったじゃねーか。小園のことをよ!
相手はさほど驚いた様子もねえ。
「おう、久し振りじゃねえかよ、このクソ王子! その粗末なイチモツ晒してこっ恥ずかしくねぇのかい? ちゃんちゃらおかしいや。見てるコッチが赤面しちまわぁ」
「フニャチンのオメーが言うな! つーか、俺とオメーらの上下関係どーなってんだ? もうワケわかんねーよ!」
ヘンリーもアンドリュー同様、俺の喋りに面食らう。
「……こいつはおったまげたな。王冠手に入れたら、人はこうも変わっちまうもんかえ。猫も杓子もこれだから手にするといけねぇや、権力ってヤツをよ。剣呑剣呑」
「断っておくが、俺はオメーが知ってる岩清水拓海じゃねえ」
「ほう、するってぇとテメーは偽者ってワケかい?」
「馬鹿野郎! 俺の方こそ本物だ! オイ、アンドリュー! そこんとこちゃんと子分に説明しとけや!」
「無茶言わないでくれ。僕だってサルガタナス様から『プリンセス・レイチェフの御子息を遠くからサポートするように』と命じられただけなんだ。そして僕の知っている唯一の岩清水拓海は、あのダンジョンで接触したおとなしそうな彼だけなんだからね」
「ありゃ、自分が拓海であることを放棄して引っ込んじまったんだ」
「『引っ込んだ』? 人間とはそのような芸当ができるのか?」
「できねーよ。オメーの親分が人間とサキュバスの間に産まれた赤ん坊に別世界で死んだ俺を組み込みやがったんだ。文句があるなら、サルガタナスに言えってんだよ!」
「じゃ、やっぱりテメーは偽王子なんじゃねぇか、このスットコドッコイ!」
腹立つな。
コイツ、いずれ俺が統治する世界の住人だろ? 生意気過ぎやしね……いや、違う。
ヘンリーはハーフ・インキュバスじゃねえ。
人化しやがったんだ。黒リータの話が本当ならば、だが。
そうか、だからコイツには統治の王冠が効かねーんだ。
お宝ゲットして孤児院に戻った時、待ち構えていた半悪魔である指導士の態度が豹変したみてえにならねーのも、そう考えると頷けるぜ。
コイツ、今は小園のことどう想ってるんだろ?
ヘンリーはともかく、小園はリアルガチのレズになっちまったが。
どうでもいいか……。
告白してもねーのにフラれた女のことなんか。
ただ、ヘンリーの立ち位置が微妙だ。
元ハーフ・インキュバスのヘンリーは咲柚の温情――自分の中の悪魔を否定して呪いが解けたことで命を助けられたと仮定する。言わば、咲柚サイドにいる筈だろ?
なのに、咲柚を裏切ったサルガタナス、その飼い猫の配下にいるのはどういうことだ?
そうそう、アンドリューだけじゃねーな。
サルガタナスにとってこの俺も”ティッシュマスター”という被験体なんだってことを。
そして更に忘れちゃなんねえ。
俺を死なせねえと、ここまで導いた大鴉の存在だ。
ハゲの立ち位置を気にしてる場合じゃねーや。
俺の立ち位置は一体どこにあるんだ(この間、ずっとフリチンに王冠)。
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