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第15章 キューティクルが足んねえ

キューティクルが足んねえ 1

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 この大海原がどんだけ広いのか知らねーが、あれ以来サッパリ敵艦に遭わねえ。
 それもその筈、いくさすりゃどっちかが吸収されて消えちまうんだ。
 島(軍艦)化された鴉王の愛人――増えはしねえで減る一方。
 そりゃ、遭遇率だって徐々に減るだろ。馬鹿でもわかる。


 あの日、二つのレベル3を吸収したのが嘘みてえに平穏な日々が続きやがる。白鬼も白鮫人もこれといった情報掴んでこねーしな。


 軍艦レベル7になったフレールの甲板デッキで、やることもねえ俺は日毎夜毎ゴロゴロと寝っ転がって過ごしている。

 何で船室に籠んねーかって?

 決まってるだろ。籠ったらオナニーしちまうからだよ。

 ……いや、俺の場合はハンパねえ精子工場の生産力に加えてティッシュマスターのたまを確保するためにも一日五回(ティッシュ1000枚分)ソレやんなくちゃなんねーんだが、さすがに白いの出すネタが尽きちまった。
 硬くならねーと、さすがのシコシコマシーンである俺でも精子は出せねえ。半永久的にフニャフニャの肉棒こねくり回してるだけだ。

 久々に白衛門の姿をセーコに変えさせ射精したものの、相変わらずの武士言葉で俺を萎えさせるもんだから重ねて利用しようとは思わねえ。
 何が「いざ、某の乳を鷲掴みするでござる」だ!
 そもそもその乳だって、俺の精子が染み込んだティッシュの塊じゃねーかよ。肉の乳を揉ませろ!

 黒リータ?

 その巨乳はセーコと違って確かに本物だが、ありゃ寄せ集めの作り物だ。
 第一、性格が最悪ときてる。
 他種族のチ○コ輪切りにして俺に食わせようとしやがった山姥やまんば同然の子分に、俺の愛しい精子が出せるかってんだ!

 やっぱ俺は完全な生身の女体が好きだ。

 最近は男が女体化したヒロイン(?)モノが好かれる傾向にあるようだが、とどのつまり相手は男じゃねーか。
 だってよ、実際はチ○コも生えてりゃキ○タマだってぶら下がってんだぜ? 脛毛も伸びりゃ髭だってほっときゃボーボーになるんだ。マンガみてえにツルツル肌の男なんざそうそういねーよ。
 一時期だけ美人なねーちゃんの格好してるからって、よくそれで萌えられるな。
 だとしたら、ソイツはプチホモだ。
 その自覚がねーか、女男に対する想像力が欠落してんだ。

 ……何に対して毒づいてんだろうな。
 俺だって母親に欲情しちまうド変態なのに。

 その母親――サキュバスの咲柚がいねえ世界に俺は来ちまった。まあ、望んでこうなったんだが。

 だからというワケじゃねーが、今の俺は小園に惹かれちまっている。決して消去法じゃねえ。
 実質、俺にとっての初恋(咲柚除く)……告白こそしてねーが、頭の中は小園でいっぱいだ。これはこれで青少年として健全なんだが。

 俺はずっと以前から強くなりてえと思ってた。
 "僕ちゃん”の方はそうじゃねーだろうが、野心家の俺がそう願うのは当たり前だ。
 結果、俺は”岩清水拓海”の体を乗っ取り、ティッシュマスターとして数体のスペル魔を召喚させた。
 裏切り者も出しちまったが、最低限我が身を守れるくらいには成長できた。
 挑発した小園にいとも容易くサブミッションを極められた時、強さに対する願望がますます増した。

 

 

 今もその考えは変わらねえ。
 そして絶対にアイツを戦闘の場に出させねえ。
 小園は強い。
 だが、いつか死ぬレベル。
 ヤツの強さは所詮、対人間止まりだ。敵も正攻法で来るとは限らねえ。
 俺みてえな飛び道具繰り出す規格外の野郎だって、この先必ず出て来やがる。

 尤も、こんなところに来た時点で小園は命を捨ててやがるだろうがな。咲柚の命令を忠実に守るってだけで……。
 悔しいが、そこに俺は含まれていねえ。
 咲柚の指示がなければ、小園がついて来なかったのは明白だ。

 それでもいい。
 好きになっちまったモンはしょうがねーだろが。恋愛は惚れた方が負けなんだ。

 俺こと岩清水拓海は人を愛せねえ処女には興奮しねえ特性を持つ。
 小園佳純は処女じゃねえし、人だって愛せる。
 ゆえに俺は小園に興奮できる。

 この三段論法に基づき、絶好の標的――小園を思い浮かべてシコシコすりゃいーんだが、どういうワケかこれがうまくいかねえ。
 何度試しても、妄想の中の小園は前世で俺が絞殺したあの女に入れ替わりやがる。……何でだ?

 謎が解けねえ。

 まあ、謎なんてはなからねーのかもな。
 たまたま二人ともよく似た翡翠のペンダントを身につけてたって事実が俺を惑わせてるだけなんだ。

 ん、違うか。

 似てるのは翡翠のペンダントだけじゃねえ。

 だ!

 だが、顔ならともかく、首なんざそんなに強く印象に残るかよ?
 しかも前世の話だぜ。ソイツの名前さえ思い出せねーのに。

 えぇい、やめだやめッ!

 前世のことなんざ思い出したくもねえ。
 今を生きろ。
 そして、どうしたら小園を落とせるかを考えやがれ。


 フレールに作らせたデッキチェアに寝そべりながら、俺は農作業に励む小園と黒リータをぼんやり眺めている。
 今や農作物には困らないくらいの規模になった甲板デッキに二人は真面目に収穫してんのかと思いきや……どうも小園は黒リータの隙を見てツヤツヤのロングストレートを触りまくっている。
 性癖だから仕方ねーが、おかげで黒リータの髪は土でドロドロだ。
 鬱陶しそうな表情の黒リータだが、割れた眼鏡の奥のまぶたは閉じない。
 閉じられねーんだ。完全な人間じゃねーからな。

 その黒リータのドロドロ髪を見て、俺は羨ましくさえ思っている。

 小園はトリコフィリア――毛髪性愛者だ。


 ……何で俺の髪を触らねえ?

 俺だって伸びてんぞ、髪!



――ハッ!

 伸びてるだけじゃ興奮しねえのか。
 だったら今の俺みてえなボサボサ髪じゃダメだ。


 キューティクルが足んねえ!
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