ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

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第14章 ピンチが足んねえ

ピンチが足んねえ 2

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 もういい。
 今はレベル1の軍艦に戻ることより、敵艦でどう振る舞うかに専念しなきゃなんねえ。

 腑に落ちない点がある。

 転生(寄生)後の俺の体――岩清水拓海は小柄な帰宅部男子のもやし野郎。体重は46キロ……中学二年生の平均体重を大きく下回る。
 その身軽な俺が板梯子を渡るのはともかく、あんな屈強な顔面表裏の四つ腕戦士が何人乗っても折れなかった板(最終的には白虎丸が切っちまったが)……特別頑丈そうには見えなかったが。
 足元のたった今し方、首を刎ねられた奴隷が横たわっている。ドクドクと血が流れてるが、そんなもの前世で見慣れてる。
 その肉塊を蹴ってみたが、思った通りビクともしねえ。ちゃんと重みがある。
 コイツらは四つ腕じゃねえ。俺や小園と見た目が変わらねえ種族で、敗戦後に後からこの軍艦に加わったんだろう。
 そして、コイツらは板梯子を渡って来なかった。奴隷だから?
 いや、奴隷だからこそ危険な特攻隊に使うべきじゃねーのか? 
 海に目を落としてみると、同じく白虎丸に首を刎ねられドボンした四つ腕の死体共がプカプカ浮いてやがる。胴体とオサラバした顔面表裏も同様だ。
 妙だぜ。切られた板梯子ならともかく、人が浮くなんて……。塩分濃度が高いアラビア半島の死海じゃあるめーし。


 試してみるか。


 非力な俺は、首のねえ奴隷の亡骸一体を海に沈めてみた。
 すると、アッサリ海底に沈みやがった。
 なるほどな。道理で奴隷に板梯子を渡らせなかったワケだぜ。
 持ち上げた時にも思ったが、四つ腕は軽い。のみならず密度スカスカ種族だ。少なくとも、ここの海水より密度が小せえ。
 となると、腕力も大したことねーかもな。見た目のハッタリだけで、よくレベル3までのし上がってこれたな。
  艦内にまだ複数待機していると思われるその四つ腕共だが、白虎丸を恐れて小動物みてえに引っ込んじまいやがった。
 クソ、見せしめの斬首がここまで効果的とは逆に誤算だぜ。

 オイオイオイオイ、ピンチが足んねえ。
 まるで全然からっきしちっともナッシングだ! もう終わりかよ!
 
「四つ腕のバケモノ、出て来いやッ! 俺はチートじゃねえ! この世界最弱の島主だ! 嘘じゃねーぞ! 試しにちょこっと襲ってみやがれ! いや、襲ってください! 頼みます!」

 この俺が下手したてに出てやったが変化はねえ。
 向こうで齷齪あくせくと鎮火に必死な白衛門や小園、それに黒リータの方がよっぽど賑やかだぜ。……即席のバケツリレー、サマになってんじゃねーか。
 それに比べて、こっちはお通夜会場かってくらい静まり返ってやがる。 
 これじゃ、スペル魔召喚なんてできやしねえ。
 それを喜ぶのは思惑通りの白虎丸だけだ。

 チッ、だったら早急にこの軍艦ふね吸収してレベル4の島主になってやろうじゃねーか。
 ザコいヤツらにゃ興味はねえ! 得物版スペル魔召喚は次の機会にとっといてやる!


「白鬼! どこだ、ここの首領は? 俺をいざなえ!」


 見える。
 屋内……やはり操舵室ブリッジか。
 野郎、さっきまで余裕こいて腕組みしながらケツ掻いてやがったのに、今じゃ縮こまってブルブル脅えてやがる。もはや肥やしほどの価値もねーな。

 召喚を諦めた今の俺に用があるのはここの舵輪ラットのみ。
 かつての鴉王の愛人の一人……オメーを本当の意味で葬ってやるぜ!

 
 操舵室ブリッジの手前、何だと思って近づき目を凝らして見てみると、海上では場違いなビニールハウスが建っている。
 ウネウネした蔓とたわわに実ったブドウ……驚いた! コイツら、軍艦で呑気にワイン作ってやがった。
 甲板デッキに酒瓶転がってるくらいだから、ねえこともねーか。
 レベル3の軍艦おんなめ、島主や乗組員クルーに酒を振る舞ってやったか執拗にせがまれたかは知らねーが、ここは心底腐ってやがんぜ。

 酒が悪いとは言わねえ。

 俺が言うのも何だが危機意識がねーんだよ、どいつもこいつもここのヤツらは。
 火矢を放って鬨の声を上げてりゃ、いつかは軍艦レベル777になると思ってんならそりゃ酔っ払いの甘美な夢だぜ。
 向上心無き者は戦場から消えちまえ!
 どうせ、ここの島主やレベル3の舵輪ラットを滅するのは俺じゃなく白虎丸だ。残念ながら今の俺にその力はねーからよ。
 だが、俺には向上心があるんだ。
 ここのヤツらとはそこんとこが根本的に違う。
 初陣は俺の作戦ミスだが、それでいて得た物もある。
 それは白虎丸の狙いが明るみになったことだ。対策さえ講じればいつかは俺の望み通りになる。
 次の海戦、白虎丸を封じればいいことだろ? ……無論、その方法は今のところ見当もつかねーが。




《そこの子、お願い。私と手を組まない?》



 何だあ?
 
 レベル3の舵輪ラットが、操舵室ブリッジの中から俺に語りかけてきやがった。



《いきなりごめんなさい。私の名はタギ。たった今、私はみっともない臆病者の島主を捨てたわ。……嘘じゃなくてよ?》


 タギとかいう調子こいた舵輪ラットが黙った途端、操舵室ブリッジから辮髪頭の四つ腕が転がるようにして出てきやがった。追い出されたか。

「て、てめえ! 未来の亭主であるこのオレを捨てやがるのか? 薄情者ッ!」

 さっきまでいた操舵室ブリッジ目掛けて、表裏二つの口が口角泡を飛ばしてやがる。

《黙りなさい! 子供相手に震えあがっているような根性無しに用はないの! アンタも手下同様に斬られるといいわ》

 みっともねえ痴話喧嘩……。
 そんな醜いところに、見た目中学生の俺を巻き込むな!
 と、ここで早くも名案が生まれた。
 俺って、やっぱ悪知恵働くわ。


「オイ、ババア! 悪いが、俺はオメーみてえなヤリカスに興味はねえ!」

《な、何ですってえ!? あんな名前もないみすぼらしい女のどこがいいのよッ? 私は高貴な生まれなのよ!》

 わかってねーな。そういうところだぜ。
 いくらレベル1の金髪女をディスったからって、オメーの魅力が上がるわけじゃねーのによ。

「白虎丸! オメーに手柄くれてやる。舵輪ラットの破壊を命ずるぜ!」


 白虎丸、無言でそのままスーッと操舵室ブリッジに向かいやがった。……馬鹿だから助かる。


「さーてと、オッサン。邪魔者はいなくなった」


 腰砕けの元島主――辮髪野郎に俺は言う。


「オメーに仇討ちの機会を与えてやる。その戦斧でこの俺の首を刎ねてみろ」



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