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第13章 レベルが足んねえ
レベルが足んねえ 3
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地球から見えるのとソックリな月が夜空に浮かんでやがる。
少し歪だが、一応これでも満月みてえだな。
その月明かりを背に浴びながら俺は白虎丸の峰を右肩に、白衛門を従えて操舵室へとやって来た。小園と黒リータは二人で朝まで何かやり続けるだろう。知ったこっちゃねーや。
「なあ、白衛門」
「何でござろう?」
「ちょっと前までの俺はこの”岩清水拓海”を乗っ取るタイミング、今か今かと窺ってたんだ。だからすげーわかるぜ。……白虎丸の考えてることが逐一よ」
「……」
沈黙する白衛門。
静かな月夜に聞こえてくるのは重たい波音のみ。
陸も敵艦も何も見えねえ。
果てしなく広がるこの不気味な大海原が、軍艦含めて俺達を圧倒的に囲繞してやがる。
何も起きねえという意味で航海は極めて順調だが……。
そうじゃねーだろ。
何か起こすために俺はここへ来たんだからよ。
「オメーも部屋に戻るか? 言っとくが、オメーには何の役割もねーぞ」
「いえ、某が種主様のお側を離れるわけにはいかんでござる。護衛こそ某の務めゆえ」
「相変わらずおカタイねえ。そう返すと思ったぜ。……じゃあ、何があっても黙って見てろよ? 絶対に手出しすんな?」
「御意」
ニヤリと笑んだ俺はその場で胡坐を組むと、躊躇なく自分の土手っ腹に白虎丸を突き刺して風穴を空けた。
「……ッ! た、種主様ッ!」
へ、へへへ……ッ!
少しだけ痛えな。
白虎丸の野郎、気づくのが遅えんだよ。意思の疎通がまだまだだ。
そんなんじゃ、岩清水拓海は乗っ取れねーぞ。
《……ちょっとキミ、何やってんの? 頭、おかしくなっちゃった?》
さすがに現れたな、ぶっかけ女め。
最初に見た民族衣装的な服のままだ。望海とは違った本物の金髪が美しく夜の潮風になびきやがる。
まごつく白衛門を尻目に、俺は何事もなかったように、腹に白虎丸を貫通させたままスックと立ち上がる。不思議と出血はない。
「心配して出てきやがったか? それとも、俺の奇行に度肝を抜かれたか?」
ぶっかけ女はそれに答えず、
《……無傷なの?》
「ああ、何でこうなるか仕組みまではわかんねえ。だがな、野心があろうがなかろうが、どんなスペル魔であろうと奴らは俺を死なせるワケにはいかねーんだよ。何故なら、ティッシュマスターであるこの俺――岩清水拓海が死んじまったら、スペル魔も一緒に死んじまうからだ。だから白虎丸は慌てて途中でティッシュの棒に戻りやがった。それどころか、どうやら治療までしてるみてえだぜ」
だからと言って、俺は不死身じゃねえ。
少なくとも、スペル魔に殺される心配はないってだけだ。
《おかしな言い草ね。まるで助かる確信がなく、いきあたりばったりの行動で割腹したように感じるんだけど?》
「だとしたら何だ?」
《……ッ》
フッ、絶句してやがる。
「覚えてっか? 俺は一度死んだんだ。大勢の群衆が見守る中、でっけぇギロチンで首を刎ねられてな。だから、覚悟さえすりゃ”死”は怖くねえ。俺が本気で恐れてんのは”退屈”だ。毎日毎日、何の変化もねえ環境でオナニー繰り返してジジイになるのを待ってる人生だけはゴメンなんだよ。オメーにわかるか? 時空を超えて積もりに積もったこの俺のイライラをよッ?」
ぶっかけ女は俺の心の叫びに圧倒されてたみてえだが、やがてクスリと笑ってこう言いやがった。
《負けたわ……。キミの命懸けのラブコールにね》
「そうこなくっちゃ。じゃあ、今すぐ俺を操舵室に案内しろ」
《一つ条件があるんだけど?》
何だよ! 負けを認めて全面降伏したんじゃねーのかよ!
声高にそう叫びたかったが、ここはグッと我慢……折角の賭けに勝ったんだ。短気もほどほどにしねーとな。
「何だよ? 呑んでやるぜ」
軍艦は俺の腹を指さして言いやがった。
《その白虎丸、ワタシがもらう》
……ちょっと待て。
それじゃ、俺はタダの丸腰中学生……この先、敵と遭遇したところで絶対に戦えねえ。
「他のにしろ。コレばっかりはダメだ。俺の片腕同然だからな」
《考えてもみて? ワタシは全てをキミに投げ出すの。『誰のものにもならない』と言ったワタシがだよ? だったら、キミもケチケチしないで片腕くらい差し出しなさい》
「断る。オメーにコイツが扱えるとも思えねーしな。……今の状態って幽霊みてえなモンなんだろ? 物持てねえじゃん」
《……どうかしら?》
軍艦がスッと右腕を持ち上げ、そして勢いよく引いた。
それと同時に、俺の腹に刺さっていた白虎丸をいとも簡単に抜きやがった。
腹に傷口が全くない事実に瞠目したが、俺の召喚した曲者のスペル魔を雑作なく捌いた相手の能力には思わず舌を巻いちまった。
《直接触れることはできなくても、浮遊させて操るくらいならできるわよ?》
確かに白虎丸を宙にフワフワ浮かせて遊んでやがる。マジだな。
だが、何を企んでやがる?
「……オメーの目的は何だ? 俺から白虎丸を奪ったら、我が軍は大幅な戦力ダウンになるぞ?」
《キミが殺す乗組員の数くらい大丈夫だよ。ワタシならその倍は稼ぐ》
「余裕ぶっこいてんな」
《キミこそ己の力を知った方がいい。キミ、白虎丸がなければここの中じゃ最弱だよ? それに、そんなのどうでもいいの。キミが舵輪を操ってワタシを掌握するように、ワタシはキミを乗っ取ろうとしているこの刀を所有することで、今のキミの存続にかなりのプレッシャーをかけることができる。……どう、悪くない取り引きでしょ?》
「大陸統一が成され俺が真のリデリア王になったとして、この拓海が白虎丸に乗っ取られたとしたら、オメーは鴉王じゃなくその白虎丸版拓海と夫婦になるんだぜ? それでもいいのかよ?」
《その直前でワタシは拓海を殺す。中身はキミだろうが白虎丸であろうがそんなの関係ない。リデリアの統治者が男である必要はないからね》
レベル1のままでいいと言ってたヤツがいきなり女王宣言か。
コイツはコイツで野心持ってやがんだな。
ギリギリまで駆け引きが続きそうだ。
この中だけでも、俺と白虎丸と軍艦の覇権争い……望むところだぜ!
「いいぜ。ソイツはオメーにくれてやるよ」
《交渉成立ね。じゃあ、約束通り今から操舵室に入れてあげる。ワタシの名前を知ったその瞬間から、キミは正式にここの島主になるのよ》
「……だとよ。よし、これでようやく一歩進んだぜ」
背後の白衛門は項垂れながら、
「無計画にも程があるでござる」
と、愚痴をこぼしやがった。
馬鹿だな。
刀なんざ、また別なの召喚すりゃいいじゃねーか。
少し歪だが、一応これでも満月みてえだな。
その月明かりを背に浴びながら俺は白虎丸の峰を右肩に、白衛門を従えて操舵室へとやって来た。小園と黒リータは二人で朝まで何かやり続けるだろう。知ったこっちゃねーや。
「なあ、白衛門」
「何でござろう?」
「ちょっと前までの俺はこの”岩清水拓海”を乗っ取るタイミング、今か今かと窺ってたんだ。だからすげーわかるぜ。……白虎丸の考えてることが逐一よ」
「……」
沈黙する白衛門。
静かな月夜に聞こえてくるのは重たい波音のみ。
陸も敵艦も何も見えねえ。
果てしなく広がるこの不気味な大海原が、軍艦含めて俺達を圧倒的に囲繞してやがる。
何も起きねえという意味で航海は極めて順調だが……。
そうじゃねーだろ。
何か起こすために俺はここへ来たんだからよ。
「オメーも部屋に戻るか? 言っとくが、オメーには何の役割もねーぞ」
「いえ、某が種主様のお側を離れるわけにはいかんでござる。護衛こそ某の務めゆえ」
「相変わらずおカタイねえ。そう返すと思ったぜ。……じゃあ、何があっても黙って見てろよ? 絶対に手出しすんな?」
「御意」
ニヤリと笑んだ俺はその場で胡坐を組むと、躊躇なく自分の土手っ腹に白虎丸を突き刺して風穴を空けた。
「……ッ! た、種主様ッ!」
へ、へへへ……ッ!
少しだけ痛えな。
白虎丸の野郎、気づくのが遅えんだよ。意思の疎通がまだまだだ。
そんなんじゃ、岩清水拓海は乗っ取れねーぞ。
《……ちょっとキミ、何やってんの? 頭、おかしくなっちゃった?》
さすがに現れたな、ぶっかけ女め。
最初に見た民族衣装的な服のままだ。望海とは違った本物の金髪が美しく夜の潮風になびきやがる。
まごつく白衛門を尻目に、俺は何事もなかったように、腹に白虎丸を貫通させたままスックと立ち上がる。不思議と出血はない。
「心配して出てきやがったか? それとも、俺の奇行に度肝を抜かれたか?」
ぶっかけ女はそれに答えず、
《……無傷なの?》
「ああ、何でこうなるか仕組みまではわかんねえ。だがな、野心があろうがなかろうが、どんなスペル魔であろうと奴らは俺を死なせるワケにはいかねーんだよ。何故なら、ティッシュマスターであるこの俺――岩清水拓海が死んじまったら、スペル魔も一緒に死んじまうからだ。だから白虎丸は慌てて途中でティッシュの棒に戻りやがった。それどころか、どうやら治療までしてるみてえだぜ」
だからと言って、俺は不死身じゃねえ。
少なくとも、スペル魔に殺される心配はないってだけだ。
《おかしな言い草ね。まるで助かる確信がなく、いきあたりばったりの行動で割腹したように感じるんだけど?》
「だとしたら何だ?」
《……ッ》
フッ、絶句してやがる。
「覚えてっか? 俺は一度死んだんだ。大勢の群衆が見守る中、でっけぇギロチンで首を刎ねられてな。だから、覚悟さえすりゃ”死”は怖くねえ。俺が本気で恐れてんのは”退屈”だ。毎日毎日、何の変化もねえ環境でオナニー繰り返してジジイになるのを待ってる人生だけはゴメンなんだよ。オメーにわかるか? 時空を超えて積もりに積もったこの俺のイライラをよッ?」
ぶっかけ女は俺の心の叫びに圧倒されてたみてえだが、やがてクスリと笑ってこう言いやがった。
《負けたわ……。キミの命懸けのラブコールにね》
「そうこなくっちゃ。じゃあ、今すぐ俺を操舵室に案内しろ」
《一つ条件があるんだけど?》
何だよ! 負けを認めて全面降伏したんじゃねーのかよ!
声高にそう叫びたかったが、ここはグッと我慢……折角の賭けに勝ったんだ。短気もほどほどにしねーとな。
「何だよ? 呑んでやるぜ」
軍艦は俺の腹を指さして言いやがった。
《その白虎丸、ワタシがもらう》
……ちょっと待て。
それじゃ、俺はタダの丸腰中学生……この先、敵と遭遇したところで絶対に戦えねえ。
「他のにしろ。コレばっかりはダメだ。俺の片腕同然だからな」
《考えてもみて? ワタシは全てをキミに投げ出すの。『誰のものにもならない』と言ったワタシがだよ? だったら、キミもケチケチしないで片腕くらい差し出しなさい》
「断る。オメーにコイツが扱えるとも思えねーしな。……今の状態って幽霊みてえなモンなんだろ? 物持てねえじゃん」
《……どうかしら?》
軍艦がスッと右腕を持ち上げ、そして勢いよく引いた。
それと同時に、俺の腹に刺さっていた白虎丸をいとも簡単に抜きやがった。
腹に傷口が全くない事実に瞠目したが、俺の召喚した曲者のスペル魔を雑作なく捌いた相手の能力には思わず舌を巻いちまった。
《直接触れることはできなくても、浮遊させて操るくらいならできるわよ?》
確かに白虎丸を宙にフワフワ浮かせて遊んでやがる。マジだな。
だが、何を企んでやがる?
「……オメーの目的は何だ? 俺から白虎丸を奪ったら、我が軍は大幅な戦力ダウンになるぞ?」
《キミが殺す乗組員の数くらい大丈夫だよ。ワタシならその倍は稼ぐ》
「余裕ぶっこいてんな」
《キミこそ己の力を知った方がいい。キミ、白虎丸がなければここの中じゃ最弱だよ? それに、そんなのどうでもいいの。キミが舵輪を操ってワタシを掌握するように、ワタシはキミを乗っ取ろうとしているこの刀を所有することで、今のキミの存続にかなりのプレッシャーをかけることができる。……どう、悪くない取り引きでしょ?》
「大陸統一が成され俺が真のリデリア王になったとして、この拓海が白虎丸に乗っ取られたとしたら、オメーは鴉王じゃなくその白虎丸版拓海と夫婦になるんだぜ? それでもいいのかよ?」
《その直前でワタシは拓海を殺す。中身はキミだろうが白虎丸であろうがそんなの関係ない。リデリアの統治者が男である必要はないからね》
レベル1のままでいいと言ってたヤツがいきなり女王宣言か。
コイツはコイツで野心持ってやがんだな。
ギリギリまで駆け引きが続きそうだ。
この中だけでも、俺と白虎丸と軍艦の覇権争い……望むところだぜ!
「いいぜ。ソイツはオメーにくれてやるよ」
《交渉成立ね。じゃあ、約束通り今から操舵室に入れてあげる。ワタシの名前を知ったその瞬間から、キミは正式にここの島主になるのよ》
「……だとよ。よし、これでようやく一歩進んだぜ」
背後の白衛門は項垂れながら、
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