ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

文字の大きさ
102 / 176
第10章 一人、足んない

独房にて

しおりを挟む
 誰も入って来れねえ独房の中にソイツはいた。
 汚物と虫と鼠と病原菌の蔓延する腐臭に満ちたこの空間に看守が寄りつくとしたら、それは死刑執行のお迎え以外考えられねえ。飯さえ食わせねーんだからな、ここは。
 
 もしも看守だとしたら、後ろ手に縛られて寝っ転がってる俺の頭を無遠慮に蹴飛ばすくらいするだろう。
 だが、ソイツは突っ立ってるだけで何もしやしねえ。
 やれやれ、俺もついに幻覚を見るまでになっちまったか。
 
 我ながら、悪の限りを尽くしてきたと思う。
 窃盗、強盗、強姦、殺人、放火、通貨偽造、ついでに立ちション……一番大きいのはやっぱ、王妃誘拐レイプ殺人だよな。だからこそ、こんな厳重に監禁されたんだし。
 
 大体、ここ地下何階だよ?
 
 お天道様も当たらねえのは勿論のこと、酸素がまるで足りやしねえ。
 痰がからんで息苦しいのもあるが、酸欠で頭がぼんやりしてあらゆる感覚がおかしくなっちまってる。脳の機能低下どころか、脳細胞が次々と死んじまってんだろうな。

 さっさと殺せよ。
 王立裁判所の判決に則って、俺は民衆の面前でギロチン台にかけられんだろ? 
 いいじゃん、やれって。俺はそれにサインしたぞ。
 早くしねえと、俺の体はいよいよ蛆虫共に穴だらけにされちまう。エメンタールチーズみてえにな。

「人間として生を受けたのが貴様の不幸の始まりだ」

 幻覚野郎が喋りやがった。だとしたら、今のは幻聴だ。
 
「どうした、死に損ない? 聞こえないか? それとも声を失ってしまったか?」

 うるせえな……。

 死ぬ前に誰でもいいから話相手が欲しかったんだが、このうざってえ幻聴のせいで考えが変わっちまった。静かに逝きてえ。

「まあいい。どのみち、貴様にはどうすることもできないのだ。この宣告も飽くまで形式上……転生後、どこまで覚えていられるかわかったもんじゃない」

 テンセー……? 何だ、それ?

「もしも貴様が悪魔ならば、このような酷い仕打ちを受けずに済んだのだ。実に惜しい。人間にしておくには貴様は惜しいのだよ」

 はッ! 何言ってやがる。
 もうすぐその人間も終わんだよ! 同情すんなら、今すぐこの俺を悪魔にでもしてみろってんだ!
 そしたら、こんな臭い場所とはとっととオサラバだ。そこらの女を捕まえて嬲り殺しながら犯してやる。
 ひゃっひゃっひゃっひゃ! 想像しただけでたまんねえや。久しぶりに勃ってきやがった。
 さあ、早く俺を悪魔にしてみろよ! 何ならオメエと一緒に女漁りに行ってもいいぜ? 
 俺よ、こう見えてもナンパで失敗したことねえんだ。……ああ、言い方変えればレイプってヤツな。

「それはできない相談だ。間違いなく貴様はこの世界で死ぬ。死んでもらわなければ転生はできないからな」

 何だよ、喋らなくても聞こえてんじゃねえか。
 悪魔にできねえだあ? 
 チッ、期待させやがって。とっとと帰れ、このヘボ悪魔め!

「死に損ないの分際で、この私に向かって悪態をつくとは……さすがだ。だからこそ、私は貴様を選んだのだがな」

 選んだって何だよ?
 どうせ俺を助けられねえんだろ?

「いかにも。繰り返しになるが、私は王家や民衆同様、この国一番の嫌われ者である貴様の死を望んでいる。だが、その理由は大きく異なる」

 この国一番の嫌われ者か……。
 自覚はしてるが、やっぱ面と向かって言われると傷つくもんだな。しかも、相手が悪魔となると笑えねえよ。

 オメエ、お呼びじゃねえんだよ! 早く消えやがれッ!
 
「ああ、消えてやるさ。私もこんな便所以下の拘置所、すぐにでも御暇おいとましたいもんだ。だが、最後まで聞け。貴様は死ぬより他はないが、別の世界、別の時代で生き返ることができるのだ」

 はあ? それが”テンセー”ってヤツか?

「そうだ。……どうだ、嬉しいか?」

 嬉しかねえよ。要は人生やり直しってことだろ?
 冗談じゃねえや。俺は今の俺が好きなんだ。ようやく好き勝手にできる肉体とスキルを身につけて、さあこれからだって時に調子に乗って王家にまで手を出しちまった。
 どうせやり直しできるなら、あの時に戻してくれよ?

「無理だな。宣告第一、貴様に選択権はない。宣告第二、貴様はもうこの世界に戻れない。宣告第三、貴様の転生は一定の年齢まで”寄生”という形をとってもらう。とある理由でな。宣告第四……」

 おい、まだあるのか?

「これが最後だ。貴様は今度別世界で生き返っても男になるが、残念ながら死ぬまで女を抱くことはできない。……以上だ」

 ケッ!
 そんならこのまま死んだ方がマシだぜ。つまんねえ修行僧みてえな人生、こっちから願い下げだ。帰れ帰れ!

「記憶力あるか? 貴様に選択権はないのだ」

 そう言うと、悪魔は跪いて俺の口に何かを無理やり入れて呑み込ませた。
 衰弱しきったこの俺に、もはやそれを吐き出す力は残っていなかった。
 ……味しねえ。何だこりゃ?

「”転生の実”だよ。これで用事は済んだ。では、また会おう」

 また?
 またその、何だ、別世界でオメエと会うってのか?

「ああ。おそらくずっと身近な存在として接触すると思うぜ」

 名前は? オメエの名は何だ?

「教えても、死んでしまえば忘れる可能性大だぞ」

 それでもいい!
 俺はこうして生きてる間、オメエのこと恨み続けっからよ! テンセーなんてくだらねえことに巻き込みやがって!
 言えよ! オメエの名前は何だ?

 去り際、悪魔は振り向いてこう言いやがった。


「では、仮に”ヨコヤ魔”……と」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...