ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

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第10章 一人、足んない

一人、足んない B3―4

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 僕にとって、これは勿論ファーストキス。
 対物性愛者である処女の花子さんも初めてだろう……対人間には。
 かつての夫、電柱や高圧送電用鉄塔には幾度もキスしただろうけど。
 その初めて同士の二人に、この濃厚な大人のキスは刺激が強すぎる。
 少なくとも、この僕には。


 ……どうして?


 悪魔の魔力によってメロメロにされたこの僕を救おうとしてくれて、花子さんがやむなく唇を捧げてくれたことは何となく理解できる。
 おかげで、偽物の咲柚さんの誘惑を無事に回避できた……と思う。
 これは飽くまで目的を果たすためのキスであって、それ以上の感情はない。

 キスの相手が普通の女の子なら、それだけで十分に説明がつく。
 
 ずっとずっと疑問に感じてた。
 僕のムスコが花子さんに反応したのは何故だ?

 花子さんからニオイがしない……つまり彼女は今、人を愛せる処女になってるとしか考えられない。

 それって、まさか花子さんがこ、この僕を……?



「私でも出せますか?」




 あれってどういう意味だろう?

 勿論、すっごく溜まってる。これまでにないくらい。
 だって、あの会議室以来、全然出してないから。ざっと見積もっても、ティッシュ12箱分の白いのが僕の中で待機してることになる。

 花子さんの舌が大胆に僕の口内を這い回り、僕の舌を夜会のダンスに誘う。
 お互いの唾液が縦横無尽に行き交い、忽ち僕の脳をとろけさせる。
 僕は自然に、花子さんの華奢な腰に腕を回した。
 ジーンズ越しに、花子さんは再び感じてるだろうか? 硬くてあったかくなった僕の……ソイツに。


 もう我慢できなかった。
 咲柚さんの全裸を見た時点で既にお膳立てはできてたんだ。

 このままだと、ジーンズがビチャビチャになる。
 コンビニのトイレ……クリェーシェルさんにほっぺをツンと触れられて射精してしまったあの悪夢が脳裏によぎるけども、もはや後戻りできる状態じゃなかった。

 思わずと両目を瞑る。





 ……………イッてしまった。


 


 おそらく、これまでの生涯で一番気持ちよく出すことができた。
 こんな非常時に僕は馬鹿だ! 
 快感の絶頂にいながら、自分が情けなくて涙が出る。少しの恥ずかしさも感じないくらい、自己嫌悪の方がずっとずっと強い。

 花子さん。早く、早く僕から離れて……。
 濡れちゃう。汚れちゃいますよ?


 その願いが通じたのか、花子さんは僕の首に回してた腕を解くと、何事もなかったかのようにスッと離れていった。

 ……あれ? 

 何か今、花子さんからいつものニオイがしたような……。


「済みましたよ。これまでで一番、軽いトラップでしたね」

 何事もなかったかのように、花子さんが手の甲で口元を拭って僕にそう告げた。
 切り替えが早すぎる。
 確かに偽物の咲柚さん、今は影も形もない。煙のように消えてしまった。

 ……でも、そんなもんですか?
 人生にたった一回しか訪れないファーストキスですよ? 
 僕は花子さんとの熱いキスで、膝が痙攣の一歩手前までガクガクするほど感動してるのに。
 やっぱり、相手が僕だから何も感じないんだ。
 偽物咲柚さんのように、僕も消えてしまいたい……。
 こんな緊急事態にもかかわらず、あなた目掛けて射精してしまったことに強い罪悪感を……って、花子さんのセーラー服、全然濡れてなくない? 
 てか、僕のジーンズもだ!

 ――ッ! 

 ハッと振り向く。
 白衛門が吸収してくれたんだ。以前、部屋のシーツを汚した時も助けてくれた。
 それなのに、洗脳される寸前だったとはいえ、僕はまたキミをゴミ呼ばわりしてしまったよ……。

「白衛門、ありがとう。……大変だったろ?」
「確かに想定外の量でござったな。一部の精子は白鬼に頼んで、使用済みティッシュの山へと運んでもらったでござる」

 白衛門……。

 できれば、その報告はヒソヒソ声でお願いしたかった。
 おかげで望海ちゃんと猫助にバレちゃったじゃないか。……うわ、すっごいドン引きしてるし!

「の、望海ちゃん……ち、違うんだ。こ、これは……」
「……く、来るな」
「何だよ? 人を汚いモノでも見るように」
「実際にきたねーんだよ、オメーは! まさか、しこしこせずにイッちまったのか? マジで超メジャーリーガー級の早漏だな!」
「う、うるさいなッ! 言っとくけど、メジャーリーガーに早漏なんか一人もいないからな! みんな、すごいバット持ってんだ!」
「はにゃんのチュー、そんにゃによかったにゃんか? まだ涙ちょちょ切れてるにゃんよ」
「もうやめてくれッ! キスの相手がキミらじゃなくて本当によかったよ!」
「あぁン?」
「こっちこそお断りにゃんよ! はにゃんだって涙をにょんで地雷踏んだにゃん!」
「誰が地雷だコラァ!」
「ウチらの階と比べてこんなラクなクリアあるか? 拓海は一応、この冒険の主役なのに、キスされて射精してハイ終わりってどんだけラッキーなんだ、オメー? こんなの『童貞クン、初風俗へ行く』の一コマじゃねーかァ! これがMMORPGのダンジョンだったら、ユーザーから嵐のような苦情メール食らってんぞォ!」
「望海ちゃんだって偉そうなこと言えないだろ? しこしこ踊りなんかで悪魔の洗脳が解けるんだからさ!」



「皆さん、手伝ってください」



 その冷ややかな声に一斉に振り向く14歳トリオ。
 さっきまで偽物咲柚さんが横になってたベッドを移動させようと、一人奮起する花子さんの姿がそこにあった。
 花子さんだけが当初の目的を見失ってない。
 そう、次はいよいよラスト……花子さんの番なんだ。
 僕達は恥ずかしくなって、そのまま不毛な言い争いを終了させた。

 よく見ると、ベッドの下の石畳には不自然な穴が空いてた。
 おそらく、地下四階へと通じる階段があるんだろう。

 白衛門が一人でベッドをどかせようと前に出たが、僕はそれを精子……いや、制止する。

「大丈夫だよ、こんなの。花子さんに僕と望海ちゃんの三人でやれば……ね?」

 僕のウインクにハッとなる望海ちゃん。
 キモ、と悪態つきながらも僕の思惑がわかったみたいだ。

「拓海の言う通りだ。猫助はしこえもんの側で見ててくれ」

 猫助は「何だか知らにゃいけど、サボれてラッキーだにゃん」と、白衛門の側にピタリと張りついた。
 そうそう、ここを出るまでは絶対に白衛門から離れるなよ。

 ベッドの底に手をやった僕は、正面の花子さんをチラ見する。
 ついさっき、僕と重なり合ったばかりのその唇に思わず真っ赤になる。お礼を言うべきなのに、その顔をまともに見れない……。


 違う、そんなことじゃない!


 僕には花子さんの真意がまだつかめない。
 彼女が剥き出しを手引きしてるのは間違いないんだ。
 
 それなのに、僕の命を救うためにわざわざキスをしてくれた。

 

 花子さんは本当に僕達の味方なのか、それとも……。

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