ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

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第10章 一人、足んない

一人、足んない B2―2

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 僕達はその挿げ替えのメスを見て言葉を失ってしまった。
 まだベットリと血が付着していたからだ。
 せっかくの綺麗な円卓が誰かの血液で台無しだ。

「先にする? それとも、あたしがしようか?」

 ゴスロリの猫人間――草薙マユは猫助に向かってそう訊ねた。……いや、草薙マユは猫助の本名なのか???

 何が何だかわかんない。
 
 草薙マユを名乗る猫人間はこれから何をする気だ?
 最初こそその気味悪さに脅えていたものの、この状況に慣れてきた猫助の表情がだんだん険しくなってきた。

「オ、オマエは何者にゃのにゃん? 草薙マユはあたしの名前にゃんよ!」
「拾ったの。だから”草薙マユ”はあたしのもの」

 草薙マユを名乗る猫人間は動じることなく、ポツリとそう返す。
 どうも気持ち悪いと思ったら、さっきから彼女(?)は一度もまばたきしてない。
 だけども、作り物じゃない。口はちゃんと声に合わせて動いてる。
 間違いなくそれは彼女の顔だ。
 あまりの図々しい返答に開いた口がふさがらないのか、質問者の猫助はずっと麩をねだる池の鯉みたいにパクパクさせてる。

「……拾った?」

 僕が代わりに訊き返すと、草薙マユを名乗る猫人間はコクリと頷いて猫助を指さした。

「その人が捨てたんです。道に落ちてたから拾いました」
「す、捨ててにゃんかにゃいのにゃんッ! 名前なんて物みたいに捨てられにゃいのにゃんッ!」
「でも、拾ったの。それは事実。あなたはそれ以降、ずっと”猫助”で生きてきたじゃない。……もし、レイチェフ姫の御子息様?」
「は、はあ……?」
「御子息様はその猫助の名前が、実は”草薙マユ”であることを存じ上げていましたか?」

 正直に答えるべき……かな?

 横目で猫助をチラッと見ると、小刻みにコクコクコクコク首振り人形の如く頷いてる。
 
 ……僕に嘘つけってか。
 この際、仕方ないな。

「し、知ってるよ、勿論」
「へえ?」

 信じてないな。よし、被せてやれ!

「本当だよ。もう半年も我が家に仕えてくれてるからね。ああ見えて料理だって上手なんだよ」

 これも嘘だ。
 半年前から猫助が家にいたってことはつい最近知ったばかりだし、僕の食事は全部横山さんが作ってくれたもん。 ……今となっては、横山さんが悪魔だなんて信じらんないな。
 
 う、寒気が……。
 
 何となく視線を感じたので、僕は紳士の方の猫人間に目をやった。
 って、元ケットシー、笑いを噛み殺すのに必死じゃんか。
 ……ダメだ、完全にバレちゃってるよッ!

「では、そちらの方はどうですか?」

 望海ちゃん、後は頼んだ!

「ウ、ウチも知ってるに決まってるだろ。仲間だからよォ。なあ、花子のアネキ?」

 よし、ナイス!

「では、そちらのお姉さまは?」

 花子さんなら大丈夫。


「いいえ。私は今、初めて知りました」





 14歳トリオ、一斉に白目になる。

 は、花子さんてば………………KY!





「猫助さん、みんなに協力してもらっても無駄ですよ。あの方々もすっかりお見通しのようですから」

 割れたレンズの眼鏡が、クスクス笑う二人の猫人間を捉える。

「それよりも、その挿げ替えのメスでこれから何をしようとしているのか、それを確かめることが肝心です」
「簡単なことです。言葉通り、挿げ替えるんですよ」
「……挿げ替える?」
「ええ」

 草薙マユを名乗る猫人間は、円卓上に置かれた挿げ替えのメスを右手に取った。

「じゃあ、猫助が遠慮してるみたいだから、あたしが先にやるね?」

 刃がキラリと光る。




 え、ちょっと待て……。





 草薙マユを名乗る猫人間は何も躊躇うことなく、顎のラインに沿ってメスを入れ出した……。

 当然、ポタポタと赤い血が石畳に落ちる。

 そのまま頭頂部の耳――猫耳にまで、まるで画用紙に線を引くようにスーッとメスを深く、それでいて滑らかに進ませる。
 コップに入ったトマトジュースをこぼしたようなドロドロの血液が、黒いゴスロリ衣裳を容赦なく汚していく。
 更にメスはズブズブとより深く己の肉を切り刻み、やがて右半分の猫の顔が蝶番ちょうつがいのドアみたいにペランとめくれだした。
 右の眼球がボトリと落ち、やがて見るも無残な剥き出しの顔が露わになる。

 あまりのグロさに、誰一人として悲鳴を上げることができない。
 いったん絶叫してしまえば、それが恐怖心を呼び起こしてしまう……本能がそう教えてた。

 僕達は……固唾を飲んで、そのセルフ顔面切除をただただ見守ることしかできなかった。


「次は左」


 草薙マユを名乗る猫人間は少しも痛がらずに同様の作業を行い、切除は程なく終了する。
 執刀主は左手に持ったかつての自分の顔、それに血だらけのメスを真っ白な円卓の上へ丁寧に置いた。

「はい、コレは猫助の。一生モノだから大事にしてね」

 更に、猫の顔を失った剥き出しの彼女はこう続ける。



「……次はあなたの番」


 ゆらりと両手を差し出して言う。





「あなたの顔、ちょうだい」



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