ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

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第10章 一人、足んない

踊り場にて

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「もうやめてえぇ――――ッ!!!!! パンツが破れるぅ――!!!」
「うるせーよォ! オメーがそんなこと言える立場かァ! こっちは生き恥晒したんだぞッ! 約束通りとっととしこしこ踊りやれって!」
「ぼ、僕は絶対絶命の望海ちゃんを助けたんだぞッ! 恩を仇で返すなよッ!!!」
「だからって悪魔に懐中電灯渡すこたぁねーだろォ!!! 自慢じゃねーが、ウチは今まで道具使ってオナニーしたことなんざ生まれてこの方一度もねーんだよォ!!! アレじゃ、実際にこのウチがやったみてーじゃねーかァ!!!」
「渡したんじゃないよッ! 鏡を割ろうとし」「問答無用!!! 八年前からオメーばっか一方的にウチの見てんじゃねーか!!! 不公平にも程がある! 約束通りやれってんだ! ホラ、踊り場でしこしこ踊り、最後まで見せやがれッ!」


 地下一階を何とかクリアした僕達。
 パーティが安堵と精神的疲労で寡黙になる中、階段を下りる途中で望海パンダが元通りの望海ちゃんに戻った……まではよかった。
 僕達は抱き合って喜んだものの、当の望海ちゃんに笑顔はなかった。
 まあ、悪魔の術が解けたばかりだから、しばらく放心状態が続くんだろうくらいに思ってたんだ。
 
 だけど、彼女は突然牙をむいてきた。

 一息ついたところで踊り場でジーンズを穿こうとしたら、今まで一言も喋らなかった望海ちゃんがいきなり僕のブリーフを脱がしにかかってきたんだ。
 完全に逆セクハラだ。
 このままじゃ、女の子三人の前で下半身を露出しちゃう。
 なのに、花子さんは関わらないよう目を背けてるし、猫助は興奮してハァハァしながら正座でワクワクテカテカ状態。……た、助けてよ!
 今なら、普通に第三のスペル魔だって召喚できるかもしんない。マジでピンチだもん!

 ただ、それよりも確実で手っ取り早い方法を僕は選んだ。

「白衛門! このエロ金髪を何とかしろッ!」
「御意」

 白衛門は暴れまくる望海ちゃんを赤ちゃんの高い高いの要領でひょいと持ち上げて、踊り場から階段の中段まで難なく移動させた。
 ……何で僕が命令する前に助けてくれなかったんだよ? 
 おかげで今までずっと半ケツ状態だったじゃないか! ブリーフのゴム、ゆるゆるになっちゃったし。

 僕がジーンズを穿き終えると、ようやく花子さんは眼鏡のブリッジを触りながら地下一階での出来事を総括し出した。

「想像以上でしたね。地下一階の悪魔が望海さん一人に絞ってあそこまで様々な手を使ってくるとは……。ただ、それ以外の者に危害が及ばないと実際にわかったのは大きな収穫だと言えます」
「にょじょみはパンダになっても意識はあったのかにゃん?」

 猫助の質問に、階段上に座りこんだ望海ちゃんは「あったよ」とふてくされながらも答えた。

「気がついたら、いつもと違うリアルパンダになってた。だけど、体の自由が全く利かない。自己催眠にかかったのとはまた違う。突如現れた鏡面の自分自身に心を奪われてたんだ。『やべぇ』って思いつつも、ウチにはどうすることもできなかった」
 
 だったら、もうちょっと僕に感謝すべきじゃないのか?
 こっちだって恥を忍んであんなことしたんだ。なのに、何でミッションクリア直後にパンツずり下ろされなきゃなんないんだよ!

 そう声に出したら、絶対に第二ラウンドが始まっちゃうから言わないけどさ。

「望海さんは姿見から逃れようとしたものの、それを魔力によって阻まれた。……だとすれば、体を支配された当事者はどうすることもできない。術にかかっていない者に身を委ねなければならないことが、これでますます顕著になりましたね」
「次は誰だろう……? これで三人に絞られたから、対策を講じやすくはなったけど」
「待てよ。本当に三人か?」

 頬杖突く望海ちゃんが僕に異議を唱える。

「そこのも対象にはなんねーのか?」
「白衛門に白鬼!」

 僕はムッとして訂正する。

「いい加減に覚えてよ! 僕の召喚したスペル魔を”しこ”で括るのやめてもらえる? 競走馬の冠名じゃあるまいし」
「うるせーよ。そもそもスペルマ自体、精子のことじゃねーか。まあ、精子も白だから”白”って認めてやってもいーけどな」
「何で上から目線なんだ! 白衛門に白鬼の”白”はティッシュの色が由来だよ!」
「あたしは拓海様のパンツ、白いブリーフを期待したにゃんな」
「黒で悪かったな!」
「やめてください」

 そこで、花子さんは僕達を順番に睨みつける。

「三人とも、もう少し緊張感を持ってこのダンジョンに挑んでもらえませんか? そんなに死にたいのですか?」

 望海ちゃんに猫助、すぐに反省してシュンと項垂れる。
 ……心外だな。僕はその二人と一緒にされたくないぞ。
 真面目さをアピールするために、僕はすぐに議論を再開させる。

「白衛門はともかく、白鬼までは考えなくていいんじゃないですか? アイツらを僕らのパーティとして換算したら、このダンジョンは優に地下百階を超えますよ?」
「……そうですね」

 熟考した上にそう言った花子さん、

「そう言う意味では、やはり白衛門様も数には入らないと思います」
「どうしてそう言いきれるんですか?」
「以前、白衛門様は御自身を”無”だと仰っていました。”無”の者を誘惑するトラップなど果たしてあるでしょうか? それに、白衛門様を亡き者にするには、その支配者である拓海様の命を奪えばよいのですし」

 花子さんが割れたレンズで白衛門を見やる。

「どう思われます?」
「些かの興味もござらん。某の存在は種主様の御身があればこそゆえ」
 確かに僕の中の”俺”もそう言ってたもんな。
 ティッシュマスターの俺が死んだら、オマエらタダのゴミだぞって……。

 でも、何故だろう?
 僕は”俺”のことが大嫌いなのに、”俺”の発言をやたら信頼してる。だからこそ、さっきのピンチを脱することだってできたんだけどさ。


 僕達はそのまま踊り場でペットボトルの水を飲んで、わずかな休憩をとった。
 次の階についてその後もいろいろ論じてみたけれど、結局は出たとこ勝負にしかならないと誰もが感じてた。
 悪魔が何を考えてるのかなんて、結局はわかりようがないから。


 僕達ができることは、事前に心の準備をしておくだけ……次は自分の番なのだ、と。






 階段を下りていよいよ地下二階に足を踏み入れた僕達は、そこでいきなり出鼻をくじかれた。


 お茶を招かれたんだ。

 ……タキシードを着た八頭身の猫人間に。


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