ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

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第9章  ティッシュが足んない

ティッシュが足んない 2

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 とりあえず、気持ちを集中させるべく、再び目を閉じて座禅を組んでみる。
 鳥の囀りや葉擦はずれ……その向こう側にきっと控えてるであろう、スペル魔の声を聞くために。


「へっくしょん!」
 

 ……何てベタなクシャミで妨害すんだよ、橋本望海ッ!

 と、ここは我慢だ。
 いちいちこんな瑣末なことで反応してたら、肝心な時にスペル魔召喚なんてできやしない。集中集中……



「へっくしッ!」


 オイィィィィィィィィィ――ッ!
 天丼かましてんじゃねえッ! 昭和のコントか!

 もはや限界だ! 
 仏の顔も三度? 僕は二度だ!

 早くも座禅を解き、涅槃仏のように寝そべってる望海ちゃんに文句を垂れる。

「ちょっと! 何でこんなタイミングでクシャミすんだよッ?」
「クシャミじゃねーよ」

 堂々と嘘ついてますけど、このコ。

「どう考えてもクシャミだろッ?」
「ちげーよ。クシャミした
「余計悪いよッ! ワザとそんなことしないでくれる? こっちは真面目にスペル魔の声聞こうとしてんのにさ」
「オメーはいいよ。やることあってさ。ウチだけ暇じゃん? なあ、古今東西でもやんねーか?」
「帰れッ!」
「ヤダね。洞窟に帰ってもどうせ暇だし」

 ダメだ。このヤンキー女には何言っても無駄だな。

 この手だけは使いたくなかった……。

 白衛門の方に振り向き、ダレまくってる望海ちゃんを親指でさして僕は命令する。

「つまみ出せ」
「御意」
「わあああああああああああああぁ――ッ! 待て待て、ウチが悪かったって! 拓海ィ、このしこしこ魔人こっちにやんなァ!」
「じゃあ、僕の言うこと聞いてくれる?」

 ここでウンと返事したらかわいいのに、

「あぁン? 拓海の分際で調子こいてっと、オメーの目ン玉デザートスプーンでくり抜いて剥き出しの眼窩がんかに溶かしたチョコレート流し込み冷凍室にぶちこんでガチガチに固まったところをバレンタインデーにレーシック手術受けさせんぞコラァ!」

 ――長ッ!

「レーシックさせるんなら、まず目玉くり抜いちゃダメだろ……てか、自分の立場わかってんの? そんなに泡吹きたいんなら仕方ないな」
「や、やめろっつってんだろォ! いい加減にしねーとドタマかち割んぞッ、このクソ拓海ィ!」

 これでも謝ってるつもりなんだろう。望海ちゃんなりに。
 もう許してあげよう。

「白衛門、もういいよ」
「さようでござるか?」

 表情はないけれど、何となく物足りなさそうな様子だ。
 正直、僕もまだまだ消化不良なんだけども、これ以上やっちゃうと苛めになる。望海ちゃん、怖気けて腰ヘナヘナになってるし。

「ふと考えたんだけどさ」

 突然、命令を解除され手持ち無沙汰になった白衛門に、僕は話しかける。

「このまま闇雲やみくもにスペル魔の声を聞こうとしても、無駄に終わる気がするんだ」
「はて?」
「さしあたって、僕は何も危機に瀕してない。白衛門が側にいてくれるだけで大抵のことは解決できると思うんだ」
「身に余るお言葉でござる」
「だけど、この先には何が起こるかわからない……もっとたくさんの使用済みティッシュ、つまりはスペル魔の召喚が必要だとキミは説いた」
「いかにも」
「だからさ、キミじゃ解決できない困難に直面しないと、その声は聞けないんじゃないかな? こんなのどかな環境で座禅したくらいじゃ、向こうだって僕を守りたいとも思わないだろうしさ。……ほら、キミを召喚した時だって、僕はさっきゅんに襲われてただろ?」
「なるほど」

 白衛門はポンとボウリングの玉のような拳で手を打った。

「ならば、あえてその困難を引き起こす必要があるでござるな?」
「そう。だからさ、誰かが僕を襲う必要があるんだ。例えば、キミとかさ」
「それだけは絶対できんでござるよ。種主様あっての某ゆえ」

 予想通りの答えが返ってくる。
 そりゃそうだし、無意味だ。
 スペル魔召喚のためにスペル魔である白衛門に襲わせたところで、最終的に同族間の戦いに発展してしまい、警護してくれる味方の軋轢あつれきを僕自ら招くだけだ。

 そこで、格好の適任者――望海ちゃんに白羽の矢が立つ。

「望海ちゃん、お願いがあるんだけど?」
「あぁン?」
「……いきなり何キレてんだよ? まだ何も言ってないだろ」
「拓海の分際でウチに頼みごとすんのがムカつくんだよ!」

 どうやらマジで、自分は僕の家に仕える使用人という認識がないらしい。

「望海ちゃんはここにあのパンダのジャンプスーツ一式、持ってきてる?」
「ああ、一応な。アレがねーと、ウチは鏡ばっか見てるからな。今だって、このお姫様みてーな顔見てオナニーしてぇもん」

 もう発言が過激すぎて逆に慣れた。……どうでもいいけど今の顔、お姫様ってより般若寄りだぞ。

「そんなこと始めないうちに、今から望海ちゃんには熊パンダ人間になってもらいたい」


 何秒か間があって、


「……あぁン? それって何のためだよッ?」
「狂暴な熊パンダ人間になってこの僕を襲ってほしいんだ。……そしたら、僕はきっとスペル魔の声を聞くことができると思うから」

 
 呆然となる望海ちゃんの口から洩れる、弱々しい「あぁ……ン」。



 顔や言葉の勢いがないと、何だか悶えてるみたいでエロく聞こえる。


 萌える。
 でも勃たない。



 これが正しいんだ。

 ならば、どうして僕の中の小さな僕は、あの時の花子さんだけに反応したんだろう。

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