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第8章 リーダーシップが足んない
リーダーシップが足んない 10
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朝の食事時でも、花子さんは一言も喋らなかった。
寝不足のせいだけじゃない。
明らかに昨晩から塞ぎ込んでる。
その異変は二人の女の子にも伝わってるみたいで、どよんとした重々しい空気が洞窟内に流れてる。
「はにゃん、ごはん食べたらもう寝るにゃんよ? 今日の見張りはにょじょみがやるにゃんから」
「ちょい待てェ!」
異議アリとばかりに望海ちゃんが立ち上がる。
「ウチはやるけどオメーもやれよ! いくら何でも一晩中起きてられっか!」
「あたし? あたしは無理にゃんよ」
当然とばかり、目をパチクリさせる猫助に「あぁン?」とキレる望海ちゃん。……完全に水と油だな、この二人。
「だって猫は14時間の睡眠が必要にゃんよ。コレ食べたら、はにゃんと一緒にもう一眠りするにゃんな?」
「『するにゃんな』じゃねーよ! どんだけ寝るんだッ! そしてオメーは猫じゃねえし!」
「それ言うにゃら、にょじょみは熊パンダじゃにゃいのにゃ!」
「こちとら自覚してんだよ! ウチのはオメーみたいに道楽でやってんじゃねーんだ!」
「あたしのも道楽にゃにゃいにゃん!」
ああ、うるさい。
朝から異常にテンション高い。
それに対して、完徹した花子さんはぼんやり二人のやり取りを見てるだけ。
「今日の予定はありますか?」
僕がそう質問すると、ようやく「何も」とだけ花子さんは答えた。
この洞窟は仮想ダンジョンであり、みんなとここで過ごすこと自体が僕達の精神面を鍛える効果がある。
その通り。何もしなくてもいい。
こうして簡単な食事をして馬鹿な会話をしてるだけで、僕達は結束力がどんどん高まってる。そして、ダンジョン攻略の一番の武器になるのがその結束力なんだから。
ただし、トラップに対処する具体的な訓練まではできないけど。
そこんとこはぶっつけ本番だ。
でも、僕だけは違う。
ダンジョンに挑む前に、ティッシュマスターとして自分のレベルをできる限り上げなければならない。
そのためにも、いろいろと試したいことがある。
「食事が済んだら、ちょっと洞窟を出ていいですか?」
花子さんにそう訊いたら、どうしてですかという表情で僕を見た。
満足に声も出せないくらい、たった一晩で憔悴しきってる。
「大丈夫。麓まで下りませんし、それにこの狭い空間だといろいろ試せないので」
「試す? 何を?」
そう訊いたのは、座り直してレトルトの梅粥をすすってる望海ちゃん。
「新たな技を開発したいんだ」
「しこしこの?」
「今更そんなモン開発してどーすんだよッ! 真面目にティッシュマスターとして、ダンジョン攻略に役立つスキルを身につけようとしてんだッ!」
ふぅん、とつまらなさそうな表情。
「じゃあ、ウチが見ててもいーよな?」
「は?」
「いや、そう嘘ついてコッソリしこしこするかもしんねーし。今なら拓海のしこしこ見れる千載一遇のチャンスじゃん」
「にゃあぁぁッ! あ、あ、あたしも拓海様のシショシオ見るにゃんぞッ!」
「興奮して噛むな! そんなのしねえったらッ! つーか、何ですることが二人の中で既定路線になってんだ? 逆にオマエらがいたらできるモンもできなくなっちまう!」
すると、猫助がスプーンをくわえながら上目遣いでジッと僕を見る。
「あたし達、邪魔にゃん?」
「ああ、邪魔だな」
「しこしこできねーからだろ?」
……頭が痛くなってきた。
確かに彼女達との距離は縮まった気はするけれど、目的がソレじゃちっとも嬉しくない。
「もういいよ。別にやましいことないし、来たいなら来れば?」
「ホントにゃんか?」
「やったぜェ! 八年越しのリベンジだァ!」
リベンジって……。だから一方的にそっちが見せたんだろ!
「ただし、一人限定な?」
途端に固まる二人の少女。
「何でだよ?」
「どうしてにゃんか?」
僕は元気のない花子さんを一瞥してからその理由を告げる。
「花子さんを一人にはできない。眠ってる間に半悪魔が来るかもしんないしさ。本当なら白衛門をここに置いていきたいけど……?」
白衛門をチラ見するも、
「某は種主様と一心同体でござる」
やっぱりな。
その忠誠心はありがたいんだけども、こんな時まで融通が利かないのはちょっと難儀だよな。
「というワケで、どっちか一人はここで留守番しててよ」
「……」
「……」
不気味な静寂の後に、取っ組み合いの喧嘩が始まった。
片や般若ヅラの金髪ヤンキー、片や盛りのついた雌猫……不毛なバトルだな。
これが僕を取り合う女同士の喧嘩ならば男冥利に尽きるんだけど、実際は僕のオナニーシーンを見たいだけという恥ずかしくも情けない理由なのでちっとも嬉しくない。
しかも、オナニーしないし!
リップアーマーそのものの人間の前じゃ勃ちもしないし!
どうせなら、花子さんに来てほしいな。
でも来ないだろう。
僕なんかには興味がないから……。
勝者は望海ちゃんだった。
当然だよ。
猫助もジャンケンかにらめっこで挑めば勝機はあったのにさ……。
寝不足のせいだけじゃない。
明らかに昨晩から塞ぎ込んでる。
その異変は二人の女の子にも伝わってるみたいで、どよんとした重々しい空気が洞窟内に流れてる。
「はにゃん、ごはん食べたらもう寝るにゃんよ? 今日の見張りはにょじょみがやるにゃんから」
「ちょい待てェ!」
異議アリとばかりに望海ちゃんが立ち上がる。
「ウチはやるけどオメーもやれよ! いくら何でも一晩中起きてられっか!」
「あたし? あたしは無理にゃんよ」
当然とばかり、目をパチクリさせる猫助に「あぁン?」とキレる望海ちゃん。……完全に水と油だな、この二人。
「だって猫は14時間の睡眠が必要にゃんよ。コレ食べたら、はにゃんと一緒にもう一眠りするにゃんな?」
「『するにゃんな』じゃねーよ! どんだけ寝るんだッ! そしてオメーは猫じゃねえし!」
「それ言うにゃら、にょじょみは熊パンダじゃにゃいのにゃ!」
「こちとら自覚してんだよ! ウチのはオメーみたいに道楽でやってんじゃねーんだ!」
「あたしのも道楽にゃにゃいにゃん!」
ああ、うるさい。
朝から異常にテンション高い。
それに対して、完徹した花子さんはぼんやり二人のやり取りを見てるだけ。
「今日の予定はありますか?」
僕がそう質問すると、ようやく「何も」とだけ花子さんは答えた。
この洞窟は仮想ダンジョンであり、みんなとここで過ごすこと自体が僕達の精神面を鍛える効果がある。
その通り。何もしなくてもいい。
こうして簡単な食事をして馬鹿な会話をしてるだけで、僕達は結束力がどんどん高まってる。そして、ダンジョン攻略の一番の武器になるのがその結束力なんだから。
ただし、トラップに対処する具体的な訓練まではできないけど。
そこんとこはぶっつけ本番だ。
でも、僕だけは違う。
ダンジョンに挑む前に、ティッシュマスターとして自分のレベルをできる限り上げなければならない。
そのためにも、いろいろと試したいことがある。
「食事が済んだら、ちょっと洞窟を出ていいですか?」
花子さんにそう訊いたら、どうしてですかという表情で僕を見た。
満足に声も出せないくらい、たった一晩で憔悴しきってる。
「大丈夫。麓まで下りませんし、それにこの狭い空間だといろいろ試せないので」
「試す? 何を?」
そう訊いたのは、座り直してレトルトの梅粥をすすってる望海ちゃん。
「新たな技を開発したいんだ」
「しこしこの?」
「今更そんなモン開発してどーすんだよッ! 真面目にティッシュマスターとして、ダンジョン攻略に役立つスキルを身につけようとしてんだッ!」
ふぅん、とつまらなさそうな表情。
「じゃあ、ウチが見ててもいーよな?」
「は?」
「いや、そう嘘ついてコッソリしこしこするかもしんねーし。今なら拓海のしこしこ見れる千載一遇のチャンスじゃん」
「にゃあぁぁッ! あ、あ、あたしも拓海様のシショシオ見るにゃんぞッ!」
「興奮して噛むな! そんなのしねえったらッ! つーか、何ですることが二人の中で既定路線になってんだ? 逆にオマエらがいたらできるモンもできなくなっちまう!」
すると、猫助がスプーンをくわえながら上目遣いでジッと僕を見る。
「あたし達、邪魔にゃん?」
「ああ、邪魔だな」
「しこしこできねーからだろ?」
……頭が痛くなってきた。
確かに彼女達との距離は縮まった気はするけれど、目的がソレじゃちっとも嬉しくない。
「もういいよ。別にやましいことないし、来たいなら来れば?」
「ホントにゃんか?」
「やったぜェ! 八年越しのリベンジだァ!」
リベンジって……。だから一方的にそっちが見せたんだろ!
「ただし、一人限定な?」
途端に固まる二人の少女。
「何でだよ?」
「どうしてにゃんか?」
僕は元気のない花子さんを一瞥してからその理由を告げる。
「花子さんを一人にはできない。眠ってる間に半悪魔が来るかもしんないしさ。本当なら白衛門をここに置いていきたいけど……?」
白衛門をチラ見するも、
「某は種主様と一心同体でござる」
やっぱりな。
その忠誠心はありがたいんだけども、こんな時まで融通が利かないのはちょっと難儀だよな。
「というワケで、どっちか一人はここで留守番しててよ」
「……」
「……」
不気味な静寂の後に、取っ組み合いの喧嘩が始まった。
片や般若ヅラの金髪ヤンキー、片や盛りのついた雌猫……不毛なバトルだな。
これが僕を取り合う女同士の喧嘩ならば男冥利に尽きるんだけど、実際は僕のオナニーシーンを見たいだけという恥ずかしくも情けない理由なのでちっとも嬉しくない。
しかも、オナニーしないし!
リップアーマーそのものの人間の前じゃ勃ちもしないし!
どうせなら、花子さんに来てほしいな。
でも来ないだろう。
僕なんかには興味がないから……。
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当然だよ。
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