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第7章  勝算が足んない

勝算が足んない 2

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「ところで拓海、オマエ学校はどうした?」

 やっと気づいたか。一応は親としての自覚があるらしい。

「サボッたよ」
「どうして?」

 白衛門がいるから、とは言いたくない。コイツの出現はキッカケに過ぎないから。

「僕の行くべきところはそこじゃないと思ったから」

 ふむ、と納得した様子の咲柚さんは、何故かとんでもない金額を口にした。

「何ソレ?」
「私がオマエのためにあの学校へ払った額だ。そこにいるメイド三人の給料何年分だと思う?」

「……ッ!」

 イヤな言い方をする。
 それも僕に対してだけじゃない。三人巻き込んで不快にさせやがる。

「僕が頼んだワケじゃない」
「そうだよ。私が勝手に出したんだ。そうでもしないと、たった一人の息子の義務教育すら修了させてやれないからな」
「……つまり、この僕を受け入れてくれる物好きな学校なんて、そんな大金出さない限りどこにもないってこと?」
「拓海、腹減ってないか?」

 そこでいきなり話題を変えるか?
 確かに昼食時だけども、今のたった数秒で食欲なんてなくなった。

「いらないよ。それより、僕達をここに呼んだ理由は何なの?」
「まあ、メシでも食いながらじっくり話そう。……それ」
 
 咲柚さん、テーブルの下に忍ばせておいた土産物をスライドさせて僕に寄こした。

 ……コ、コレは滋賀名物の鮒寿司! 強烈にクサそう!

「オマエのために買ってきてやったんだ。言っておくが鮒寿司は高級品だぞ」

 また妙なところでお金使って……。

「食え」
「え、ここでかよ?」
「飲み物を用意させよう。――横山、ミルクティーを私と拓海に」
「かしこまりました」
「待てぃッ! 何だよ、アンバランス極まるその和洋折衷は? せめて、どっちかに統一してよ!」
「統一か……。タイムリーなことを言う」

 どうタイムリーなんだ?
 横山さんは紅茶を準備するため、静かに会議室を後にした。

「拓海、覚えているか? オマエが小遣いを上げろと直訴に来たあの晩、私が言いかけたことを?」
「……? そんなの覚えてるワケないだろ。言いかけたことって、結局は言ってないんだからさ」
「では繰り返してやろう。『オマエは将来、リップアーマー社を継ぐ男になる。だが、それだけではない』……そこでオマエのパンパンに膨らんだ股間はいよいよ限界に達し、一目散に精子を出すため私の部屋を後にしたのだ」
 

 くうううううううううぅぅぅぅ――――ッ!!!!!!


 ど、どうしてそれをメイドさん達の前で言うんだよぉッ!
 アンタがいきなりマッパ見せたからそうなっちゃったんじゃないか!
 咲柚さん、もしかしてワザと僕に恥を掻かせてんのか?

 背後で怒りのオーラを感じる。……白衛門がズシリと一歩踏み出そうとした。
 それを腕組みしてる咲柚さんが嬉しそうに観察してる。

「そこのデカブツ、昨夜ここに忍び込んだ卑しいメス犬を追っ払ったそうだな? なかなかできるじゃないか」
「……種主様」

 僕の命令を待ってる。
 ここでゴーを出せるほど僕は根性据わってない。 

「よせ」

 そう制止してから、

「……そうだよ。ワザと僕に屈辱を与えて、この白衛門の力量を試そうとしてるの?」
「ほう、名前まで。オマエ、まさかそのティッシュのバケモノにイカせてもらったんじゃないだろうな?」
「……やめてよ」

 もはや呟くようにしか声が出せない。
 僕と咲柚さん二人ならまだいい。
 どうして、三人の前で僕を侮辱し続けるんだよ。その宇宙服の中で、彼女達はどんな目で僕を見てるんだろう。想像すんのもイヤだ。

「白衛門……だったか? まあ、落ち着け。拓海に対する忠誠心はわかったよ。メス犬を追い払っただけのことはある。だが、それだけだ」
「それだけ?」
「屈強そうな見た目と違って、ソイツには防御系の戦力しか期待できない。現にメス犬は無傷だった」
「よく知ってるね。まるで見てたみたいに」
「知ってて当然だよ。そのメス犬がのうのうと魔界へ戻ってきたところを、待ち伏せしていた私が殺したからな」


「……ッ! こ、殺したッ? ほ、本当に?」


「嘘は言わない。私の大事な息子を誘惑したんだ。それくらいの覚悟はあっての行動だったろうさ。だったら、それくらいの裁きはしないとな。オマエの親として」

 さっきゅん……まさかそんな……。
 もうあのギャップ萌えスク水コスも見れないのか。

「拓海、よく聞け。オマエには二つの世界を統一してもらわなければならない」

 咲柚さんの言葉がうまく耳に入らなかった。
 ショックだ……。
 殺されたさっきゅん……そして殺したのが母親の咲柚さん……二人とも僕を惑わすサキュバス、僕の身近なところで一つの命が消えたなんてとても信じられない。

「拓海」
「……何だよ?」


「いきがるな」


 なッ……!

 あまりの直球に絶句してしまった。

 だが、そんなことさえ見越してた咲柚さんは、余裕に満ちた表情を崩さない。

「オマエは小さい。弱い。カスだ。ティッシュマスターになったからって己の力を過信するな。まだ最低限の戦力を身につけたに過ぎん。ようやくスタートラインに立っただけなんだよ。だから、優しい私は調子に乗りかけたオマエの鼻を折ってやった」

 僕はまだ声を発することができない。
 その分、咲柚さんが喋る。

「オマエを含めてここにいるメイド三人のうち、おそらく誰かが死ぬことになる。全滅する可能性も極めて高い。 ……そういうところだよ。オマエの言う『』というヤツは」

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