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第6章  ダンジョンが足んない

ダンジョンが足んない 7

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 その召喚された者はニメートルを優に超えていて、身長は元よりその分厚い体躯に圧倒されてしまう。
 まるでゲームなんかでよく見る土塊つちくれのモンスター――ゴーレムだ。
 全身真っ白で目の部分が少しだけ窪んでるけど、そこに瞳はない。本当に白一色だ。


 これを……僕が呼んだのか?


 まだ信じられなかった。

 それにどうして今、僕は自分のことをティッシュマスターだと思ったんだろう?
 冷静に考えてみればその呼び名、超カッコ悪いし。

 う……。

 そこはかとない不安がにわかに僕を襲う。
 この白いゴーレム……土でできてるんじゃなくて、もしかしたら僕がこれまで消費したティッシュの塊なんじゃね?


 ……うわ、だとしたら最悪だッ! そういう意味でのティッシュマスターかよ!


 僕の落ち込みとは裏腹に、スク水さっきゅんは白ゴーレムにすっかり怖気づいてる。

「な、何者だコイツ……? 今この空間には誰も入って来れない筈なのに?」

 喋らない白ゴーレム。

 無言のまま、ノッソリとした動きでさっきゅんを掴もうとする。

「――捕まえる気ッ?」 

 急いで僕の上から離れる。
 反動をつけるため、立ち上がる際おもいっきり僕の腹を踏みつけやがった。……グエッ!
 その苦しみのせいで、ダビデ像をせせら笑うくらい完璧にメタモルフォーゼしていたモノは、今やすっかり収縮して元の朝顔の蕾へと戻っていた。……何か複雑な気分。

 見事な着地で身構えたさっきゅん、相手の戦力を見極めたせいかすぐさま落ち着きを取り戻す。

「オマエ……レイチェフの使い魔か? お粗末だな。そんな動きでワタシを倒せると思うのか?」

 白ゴーレムは返事をせず、ボウリングの玉のようなグーでさっきゅんに殴りかかる。

「遅いってんだよ!」

 その右の拳にヒラリと飛び乗ったさっきゅんは、その位置のまま両手を重ねて何やらまじないを唱え出した。……炎!

 刺又さすまたの形をした火焔の双頭蛇が白ゴーレムの喉元を瞬時に突く。
 そのオレンジ色の炎が忽ち白ゴーレムに移って、あっという間にその巨体を包み込んでしまう。

 ……強ッ、さすがサキュバス……てか、弱ッ、僕のしもべ

「トドメだ!」
 
 一気に温度が上昇して炎は青白く変色していく。力の差は歴然だ。

 もうやめてあげて! 
 相手は使用済みティッシュでできたウドの大木だよ? そんな本気出さなくても……つーか、屋敷が燃えちゃうッ! 

 うわあああああぁ……。

 コ、コレって、ぼ、僕のせいじゃないからねッ?
 元はと言えば、さっきゅん呼ぶような状況作った咲柚さんが悪いんじゃん?
 だから……だから、お小遣いなしだけは勘弁してえええええぇ――ッ!

 つーか、白ゴーレム! 
 オマエ何しにここへ来たんだ? 童貞喪失を阻止してくれたのは感謝だけど、このままじゃ屋敷燃やして僕を宿なしお小遣いなしにするだけだぞ?


 だけど……。


 だけどだけどだけど!


 白ゴーレムの実力をこれだけで評価するのは早計だった。

 僕のしもべは負けてなかった。
 さっきゅんが放った青白い炎はだんだん勢いを弱めて、ついには白ゴーレム、それを体全体で吸収してしまった。
 吸収……ティッシュだけに? だからって炎まで吸い取るか?


 白ゴーレムは煤けてさえおらず、元の純白さを保ってる。ノーダメージだ。
 これにはさすがのさっきゅんも驚きを隠せない。

「く、くぅ……オマエ、タダの使い魔じゃないわね?」
「スペル魔」

「「はあ?」」

 さっきゅんと僕の異口同音。

 何の予告もなく喋ったと思ったら、何その淫語チックな名前? 
 もしこれからアイツに命令するとしたら「行け! スペル魔!」って言わなきゃならないの?
 割れたレンズからの花子さんのジト目、想像するだけで怖い……。

 さっきゅん、どうやら白ゴーレムを召喚したのは僕だと気づいたらしい。

「オイ、精子小僧」
「やめてください」
「コレがオマエの言ってた罠なのか?」
「ハッタリですよ、そんなもん。こんなの出現するなんて僕も今知ったところですから」
「コイツは何なの? 魔界の者ではないようだけど?」
「多分、僕が一日1000枚ティッシュを使い続けた努力の賜物がこうなって形に現れたんでしょう」
「努力? オナニーしただけなのに?」
「間違いなく努力ですよ。そのせいでお小遣いはなくなるし、休み時間だっていちいちめんどくさいし……。日々の鍛錬が僕をティッシュマスターにさせたんです」

 さっきゅんの顔色が変わる。

「……まさか、あの伝説の?」
「え、知ってるんですか?」
「冗談だよ、バーカ」

 さっきゅん、性格悪い。

「どうやらワタシは、オマエがそのオナニーマスターとかの」「ティッシュマスターですってばッ!!!」
「意味的には一緒だろ? 息子をそのように昇華させるため、ワタシはレイチェフのダシに使われたようだね」

 きっとそうだ。
 だから、わざわざ咲柚さんはこの屋敷を空けたんだ。
 
 そして、横山さんも知ってるに違いない。
 鍵を借りに行ったあの晩、「いよいよでございますね」と言ったのはこのことだろうから。

 僕はドッシリ立ったままのスペル魔を見た。

 頼りにはなりそうだけど……素材がとてつもなく恥ずかしい。


「何だか馬鹿馬鹿しくなっちゃった。……帰るわ。ママによろしくね」


 さっきゅんが手を振りながら、スッと壁を抜けて消えていった。

 惜しかったな。……向こうから迫ってきたんだし、どうせなら胸くらい揉んどきゃよかった。


 そして僕は白ゴーレム――スペル魔と二人きり。



 え?


 ……オマエは帰らないのか?



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