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第5章  友達が足んない

友達が足んない 6

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 声も出なかった。

 そこに熊パンダ人間――碁ねーさんがいるなんて想像もしてなかったから。
 
 と同時に、身の危険を感じる。
 すぐさま扉を閉めて鍵をかけようとした。

 だが、相手はピクリとも動かない。
 狂暴だと聞いてたからいきなり襲ってきそうなものだが……。
 どうやら部屋には彼女の他に誰もいなさそう。
 不審に思って、大胆に首を突っ込んでみる。

「ん……?」 

 よく見ると、碁ねーさん眠ってる。え……立ったまま?

 いや、厳密には違う。
 更によくよく見れば、彼女は筒状ガラスの中に入って全身麻酔にでもかかってる状態で、自身のニオイを黒い装置に送り込んでるらしい。
 そう、あの時の猫助のように。
 でも、猫助はすぐに出てきた。ちょうど終了の時間だったんだ。自分でキッチンタイマー止めてたし。
 
 ……いつ目覚めるんだろう、碁ねーさん?
 
 おなかと背中に書かれた”熊”の字がマヌケだ。
 しかも超ヘタな字! よく見りゃ”態”だし! 

 リンゴ型のキッチンタイマーが見える。
 でも、ここからだと距離的にも角度的にも時間表示が確認できない。


 中に入ろうかな……。


 いや、いやいやいや!!! 

 横山さんに忠告されたじゃん!
 確かに、部屋の中には僕以外に人間がいるから閉じ込められることはない。
 起きた碁ねーさんとちょっとだけ低級魔界に行って、すぐメイドさんの更衣室に戻ってくれば僕は帰還できる。

 ただ問題なのはその相手だ。
 いくら人間と言っても、人間の理性を持たないんじゃ獣と共に行動するに等しい。
 僕一人で行って戻れるならまだしも、その獣に導かれて戻ってこないといけないのは条件的に厳しすぎる。

 いいや。花子さんがここにいないのはわかったんだし、明日またここに来よう。 さっさと退散……


 でも、やっぱ気になる。


 碁ねーさんの顔、超見たい!

 対物性愛者のあの花子さんが碁ねーさんのこと「美しい女性」って言ってたくらいだもんな。
 きっとすんごい綺麗なんだ! 女優さんみたいに!

 あ、でも逆に怪しいかも。
 花子さんの美的センス……。

 何しろ、電柱に抱きついてチューするくらいだしな。
 今考えると、死体見ても顔色一つ変えなかった同じ人物の行動とはとても思えない。

 それでも、見たいぞ。狂暴な碁ねーさんの顔!
 今がガン見できる千載一遇のチャンスじゃん!
 
 残念ながら、この位置だと全く見えない。
 目を黒く塗った、パンダのコスプレしたタダの人間だ。黒い耳つきの白いフードまでかぶってるから性別すらわかんない。

 ここは……もう入るしかないのか……。

 リップアーマーの塊とでも言うべき、ニオイの総本山こと碁ねーさんに対して、ハーフ・インキュバスである僕が性的興奮を感じることはない。
 でも、それ以外の興奮はもはやビンビンだ。
 全てのアンテナ勃ちまくってる!!!

 いや、そんな不純な動機じゃない。

 僕は碁ねーさんに、今の低級魔界は危ないって伝えなきゃならない使命があるんだ。
 向こうで一番憎まれてるのは碁ねーさんだし、場合によっては彼女を守らなきゃいけない。
 
 それに一応、僕は低級魔界の王子なんだし、彼らの暴動だって鎮められる……と思うんだ。


 決めた!


 僕は中に入るぞ。

 そして入った。心を無にして。
 だって、あれこれ考えても無駄に時間を消費するだけじゃん?


 扉がスッと消える。
 当然、ドアノブもない。
 手から鍵も消えた。あの時と全く同じだ。


 これでいいんだ。後は目覚めた碁ねーさんに伝えるだけだし。



 伝え……


















 …………………………言葉、通じるの?
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