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第4章  心が足んない

心が足んない 2

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「猫助! 今までどこに……って、え?」

 花子さんに冷たくされたこともあって、ここは鬱憤晴らしにキツく追及してやろうと思ったのに、猫助は今にも泣き出しそうだった。

「……ど、どうした?」
「拓海様ァ……見つかんにゃかったにゃん……」
「な、何が? まさか熊パンダ人間か?」
「……イケニャン」

 イケニャン……イケてるニャンコ!

 コ、コイツ、節分豆から逃げたんじゃなくて、タイプの猫見つけたから一目散に追いかけたのか?
 今の今までこの僕をほったらかしにして!
 よく見れば、ほっぺに描いた三本ヒゲが涙で消えかかってた。
 オシャレなエアリーロングには葉っぱと木の枝と蜘蛛の巣、おしりのダミー尻尾もダラリと何だか頼りない。かなり捜索した痕跡がうかがえる。
 自己中極まりない猫助の突発的な行動に腹は立ったものの、失恋真っ直中の女の子を怒鳴りつけるなんてまさに鬼畜の所業! 下衆の極み! 
 僕にはできない。

「それは残念だったな。きっとまた出会えるよ」

 僕の励ましに呼応して、猫助はニャンニャン鳴きながら(泣きながら?)招き猫の拳で涙を拭う。
 その彼女の頭を、無言のまま撫で撫でする花子さん。
 ……そういや、花子さんも失恋したばかりだ。
 いや、離婚か。通じるところがあるのだろう。
 それでいて、猫助の髪についてる葉っぱやらは取ってやらない。猫耳カチューシャと同じでファッションの一つだと思ってるんだろうか?
 つーか、二人とも何しに魔界へ来てるんだ?
 でもよかった。
 まさかこんな早く猫助と再会できるとは思わなかった。あとは熊パンダ人間だけだな。


 ひとしきり泣いてしまうと、猫助、今度は一転ハイになってニャハハハハと爆笑し出した。

「拓海様、にゃんにゃんか、その悪趣味にゃズボンは? 今から泥棒でもするつもりにゃん?」

 確かに唐草模様に見えなくもない。

「これは借り物だよ。いや、貰ったのかな」
「前のズボンどうしたにゃん?」
「……ッ!」

 思い出すだけで真っ赤になる。
……言えやしない。恋の対象にならない二人とはいえ、こんなかわいい二人の前であんな恥ずか「コンビニで精子を撒き散らしたのです」
「ブ――――――――ッ!!!!!!」

 花子さんてば、そりゃないぜえええええぇッ!!!!!
 しかもストレートすぎるッ!
 
「てか、何でそんなこと知ってるんですッ?」
「クリェーシェルさんに伺ったのです。『何ですか、このいかがわしい液体にまみれた学生ズボンは?』と」

 いかがわしい……ああ、そうさ。確かにいかがわしいよ! どうせ僕は穢れてるんだ!

「拓海様」
「は、はい?」

 何か違和感がある。
 あ、そういやこれが初めてだった。花子さんに名前を呼ばれるの……。
 割れたレンズがまっすぐ僕を捉える。な、何だろ? 緊張する。

「知ってましたか?」
「え……?」
「クリェーシェルさん、入浴の際、あのズボンをお風呂で洗ってくれてたんですよ? 『アタシのせい』だって……」


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