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第3章  空間が足んない

空間が足んない 4

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 僕は飛べる。
 
 ジャンプ一番、窓から飛んであのコの元へ近寄り一声掛けさえすれば、それだけで全ては解決する。
 ヤバイ。マジ超余裕なんですけど?
 何たって僕はこの魔界を救うたった一人の最強プリンスなんだから……。完璧すぎて怖いや。
 どうしよう。不可能を探すことが唯一の不可能だとでも言えばいいのかな? 
 ああ、満たされすぎて心折れそう。
 今度のテスト、ワザと白紙で出してみっかな。それくらいじゃ、僕の人生何のマイナスにもなんないけど。
 
 ……などと中学二年生のリアル厨二病が発動する前に、僕は現実を見た。
 クリェーシェルさんのホースに大感謝だ。
 
 想像してみろ。電柱にしがみついた男女の滑稽な図を!
 
 向かい合ってるならまだサマになる。
 だけども、構図的にそれは無理だ。彼女とまともな激突は免れない。
 なので、飛びつく先は蝉女が抱きつく電柱の上か下だ。
 
 下……完全にスカートの中を覗きに湧いたタダの変質者だ。
 
 よって上しかない。
 
 けれど、蝉女のしがみつく上へ更に僕がしがみついたところで、それが一体何になる?
 彼女はヘンリーさんの悪趣味な柄パン見上げながら、素直に僕の説得に応じると思うか?
 どこの世界にヒーローのケツ見てキュンとなるヒロインがいるんだ。
 第一、蝉女が心奪われてる相手は人間じゃないし。
 いくら僕が完璧なスーパーヒーローを演じてみても、電柱に勝てる要素は何一つない。
 蝉女にしてみれば僕の登場なんて完全にカテゴリーエラーだ。邪魔でしかないし、傍から見れば電柱にオスの蝉が一匹増えただけにしか映らない。

 ……ヘンリーさんの水作戦、案外いいかもな。
 ただ、彼女のセーラー服をビチャビチャに濡らしてしまうのも気の毒だ。
 制服をビチャビチャにした先輩として(ズボンのみだけど)、ここはもう少し策を練ってやらなければならない。

 方向性は間違ってない。
 蝉女は今、盲目的に恋してしまってる。に。
 その彼女に、いくら間違いだと力説しても逆に意固地になるだけだ。
 それに電柱に恋すること自体は間違いじゃない。だって、恋愛は自由だから。誰にも咎めることはできない。
 ただし、朝から夕方近くまでそこにしがみ続ける行為はどう考えても尋常じゃない。
 そもそも、この時間まで排泄はどうしてたんだろう? それこそ蝉みたいに……?
 真下に行くのは危険だな。
 
 精神論じゃない。
 ここは物理的に一人と一本の絆を裂く必要がある。
 それは水じゃなくてもいい。
 例えばそう……節分豆!

 そう言えばどこにやったっけ……僕の二大必須アイテムは?
 ああ、脱衣所に置いたままだった。
 
 ティッシュはこの際どうでもいい。
 長い長い畳とのキスから起き上がるとそのまま脱衣所に移動し、節分豆の袋を掴むとすぐさま踵を返して、僕は窓の外に向かって大きく振りかぶった。
 
 鬼は外、福は内……そして、蝉は下ッ!


 僕の第一投は見事に彼女の目を覚ますことに成功した。
 あれだけピクリとも動かなかった蝉女、今じゃビックリして慌てふためいてる。
 
 あ……


 うーむ、マズイな。

 

 


 節分豆、眼鏡のレンズに直撃しちゃった……。
 
 割れたな。



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