上 下
17 / 176
第3章  空間が足んない

空間が足んない 2

しおりを挟む
 クリェーシェルさんと二人きり……その予想に反して、何とヘンリーさんも僕がいる間はここに泊まると主張しだした。
 まあ、クリェーシェルさんの情人ならば、そう言いだすのもわかる。早い話がヤキモチだ。
 でも、四畳半に三人暮らすって、いくら何でも狭すぎやしないか?

「どうせなら、僕をヘンリーさんとこに泊めてくださいよ? それなら女性のクリェーシェルさんを巻き込むこともないし」
「そいつはいけねぇ」
「何で? ズボンを取りに行ける距離だからここから近いんでしょ?」
「うるせぇッ! 味噌汁で顔を洗ってとっとと出直しやがれぃ!」
「一体どっちなんですか? 『戻るな!』って命令したかと思えば『出直せ!』ってまたキレるし」
「細けぇこと気にしてんじゃねぇよ。こちとら気が短い性分なんでぇ。はえぇ話、来るなって言ってんだ。オレん家はここよりもっと小せぇからよ」
「何畳ですか?」 
「畳みなんてシャレたモンねぇさ。ダンボールハウスでぇ」

 ……ヘンリーさん、路上生活者だったのか。確かにそこでお世話になるくらいなら野宿した方がいいかもな。
 もういい。泊まる前提で考えるより、早いとこ三人の女の子を探そう。

「探す手立てはあるでしょう? だって彼女達の狙いはリップアーマーの原材料だってわかってるんだから、そこに行けばすぐ見つかりますよ?」
「あ、忘れてた!」

 いきなり、クリェーシェルさんがポンと手を打った。

「アタシ、キミにソレ言いかけたところで、この人が突然来たからそのままほったらかしにしちゃった」
?」
「うん。あのね、アタシ人間見たよ。バイト前だけど」
「えッ? ホントですか?」

 クリェーシェルさんがバイト前に見たってことは、それは猫助ではない。
 
 ついに来たか、第二のアブノーマル処女……って、さっきから偉そうに「処女処女」ってこの僕もガチガチの童貞じゃんか。
 
「どこで見たんですか?」
「朝さ、この窓開けたらいたの。……多分、今もそこにいるよ?」
「え、マジですか?」
「うん。だってそこがすごく気に入ってそうだったし。それにホラ、今も窓ガラスに影映ってる」

 確かに何かの影がそこにある。
 でも、クリェーシェルさんがそのコ見たのって何時間前だよ? いくら何でもね……。

「多分、人形とかじゃないですか?」
「そうかなぁ? ちゃんと動いてたよ。
「……は?」

 ヘンリーさん、まどろっこしくなったのか、

「えぇい! しのごの言ってねぇで、とっとと窓開けて見りゃいいじゃねぇか。……おい、クリ!」

 ヘンリーさんに言われるまでもない。
 三人同時に立ち上がり、クリェーシェルさんがガラリと窓を開ける。……いたッ!


(な、何だアレ……?)


 幻覚だろうかと何度も目をこする僕、現実を受け入れられないヘンリーさんも絶句してる。
 一度それを見てるクリェーシェルさんただ一人、「でしょ……?」という微妙なドヤ顔してみせる。

 安アパートの二階に居を構えるクリェーシェルさん。
 その窓を開けたすぐ目の前の電柱に、ピタリと張りつくセーラー服の眼鏡女子。
 異様な光景だ。
 しかも、恍惚そうな眼鏡さんのその表情……まるで恋してるみたい。

 何に? まさか電柱?
 
 だとしたら、彼女はオブジェクト・セクシャリティ――つまり、対物性愛者!

 僕の中の小さな僕……ムスコセンサーはピクリとも反応しない。
 間違いない。ターゲットだ!
 
 
 僕はその姿から、眼鏡さんに”蝉女”の称号を授けることにした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者 転生した世界がクソだったので覇道を目指してみた

田布施月雄
ファンタジー
毎日を無駄に過ごす日々。 ふとしたことで助けた彼女からこんなことを告げられる。 「あなた、このクソみたいな世界を何とかしたいと思わない?」 そこから歩、真緒コンビが野望を抱き世界に挑む。 「我々美化委員は、ここに生徒会に対し宣戦布告する!」

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...