ティッシュが足んない ～などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており～

第１章 お小遣いが足んない

お小遣いが足んない ４

　夢魔は寝込みの人間を襲う。いわゆるレイプってヤツ。
　だけど、まずは礼儀正しく（？）キスから。
　いきなりの性行為には及ばない。
　この時、人間側としては夢魔のキス攻撃を回避すれば事なきを得る。
　要は自分がしっかりしてれば、魔界へ引きずり込まれて性奴隷になることもないんだ。

　ところが、インキュバスはイケメン揃いで、サキュバスはお色気ムンムンの美女揃いときてる。彼らの誘惑をはねつけるのは健全な人間なら困難極まる。

　そこで登場したのがリップアーマー。直訳すれば”唇鎧”。

　見た目は普通のリップスティックと何ら変わらないが、効能が全く違う。
　寝る前にこれを唇に塗れば、夢魔はその人間へ迂闊に近寄れない。
　勿論、一日中塗っておけばより安全だ。
　その成分は夢魔が嫌うモノの数々で構成されており、その調合法を人間に教えたのが岩清水咲柚……魔王サタンの娘だった。
　教わった人間は言うまでもなく、若きケミストの岩清水衆三郎……僕の父さんだ。

　残念ながら父さんは咲柚さんのおなかの上で文字通り昇天してしまったが、彼の功績によってリップアーマーは厚労省の認可を受けて商品化された。
　値段はたったの１００円（税別）。
　この夢魔払いのマストアイテムは全国に発売されるやあっという間にその評判は広まり、売れに売れた。その年のヒット商品番付の横綱にも選ばれた。

　ウハウハなのは咲柚さんだ。
　同族を裏切って巨万の富を得た咲柚さんは、いまだ一部の者を除き誰にもその調合法を明かしてない。次期社長と言われるこの僕にもだ。

　咲柚さんは邸内の地下室にこもって、秘密のメンバーと共にリップアーマーの軟膏部の製造を行ってる。
　それを群馬と滋賀の専用工場に出荷して、リップスティック状に完成された物が全国に出回るんだけど、咲柚さんと秘密のメンバーが手がけるその軟膏部の原材料……実はタダ同然で手に入り、しかも大量にできてしまうらしい。

　勿論、その謎の軟膏部の成分分析を試みる企業や機関は幾らでもある。
　しかし、世界中の科学技術が結集しても、それが何なのかは相変わらず解明されていないのが実情だ。
　それくらいすごいんだ、リップアーマーってアイテムは。
　なのに、御曹司の僕はお小遣いが足んない。うみゃい棒も買えやしない。


　邸内、探ってみるかな。秘密の地下室とか……。


　リップアーマーの製造工程を僕が掴んだことを知れば、咲柚さんだってきっと慌てるだろう。そしたら、お小遣いだってアップ間違いなし！

　僕の要求額はたいしたことない。多くは望まないよ。
　ティッシュと大豆イソフラボンに消える１００００円はお小遣いにあらず。
　あと、２０００円の上積みを要求したい！

　そう、中学生の平均のお小遣いでいいんだ。