へその緒JCT

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臍帯篇

ジャンクション

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 僕達三人は基地ベースの中で改めて自己紹介をした。

「ふーん、ゲルにフミ……二人揃ってズルいな。だったら、あたしも二文字で呼んでくんない?」
「……二文字のどこらへんがズルいんだ?」
「ゲルってば、文字数の問題じゃないの! あたしだけ仲間外れってのが気に入らないの!」
「そう言えば、僕はいつ"フミヒコ"から"フミ"に格下げされたんだろう」
「はぁ? 普通に格下げじゃないし。親しみ込めて呼んでんだよ? それに"フミヒコ"って長ったらしくてめんどいじゃん」

 面倒が理由なら立派に格下げだろう。
 そもそも、そっちが勝手に馴れ馴れしく呼んだんじゃないか。名字だっていきなりだし……などと、ここで異議を唱えるとそれこそ面倒だ。

「じゃ、"ヒノ"で」
「えー、単純!」

 不服そうに口を尖らせるも、檜希は「別にそれでもいいけど」と、まんざらでもなさそうに了承する。

「ヒノかぁ……何だか一気に距離が縮まった気がするね?」

 僕は黙ってそれを受け流した。 

「オマエら、相性バッチリだな。何か居辛いづれぇ」
「「何で?」」
「さりげなく異口同音してんじゃねーよ。そういうとこだ。死んだアイツじゃないけど、俺だってお邪魔虫以外何者でもないのな」

 ゲルの本心なのか、その表情は相変わらず冷めたまま。
 檜希に向かって座る僕とゲル……つまり、僕と彼は隣同士だ。
 彼にそう指摘された檜希は頬に手を当て、体をクネらせて嬉しそう。

「あらぁ、わかるぅ~? だって、ずーっと両想いだったんだもん」
「そんな筈ない。昨日初めて喋ったんだ」

 昨日……

 そう言ってから、僕はこれまでどのくらい時間が経過しているのか疑問に感じた。
 何しろ、臍帯ここは外界から完全に遮断されている。
 檜希も時間の経過が気になったようだ。
 慌ててスマホを確認するも……。

「ウソ! 圏外ならともかく、今朝充電したばっかりで電池切れとか超あり得ないんだけど?」
「……俺のも」
「もしかしたら、ワルトン膠質のせいでスマホが水没状態なのかもしれないな」
「いや、諦めるのはまだ早い」

 気づけば、ゲルと檜希が縋るように僕を注視している。
 彼らの期待に応えられなく大変申し訳ない。

「ごめん。スマホは持ってないんだ」

 二人は信じられないような顔で、憐れむように僕を見た。

「イマドキ?」
「今時だよ。でも、不便に感じたことは一度もない」
「フミの親、厳しいんだな」
「いや。姉や弟は持っている。僕が持ちたくないだけだよ」

 そんな物を持たされたら、高木家に対して連絡の義務が生じてしまうじゃないか。

「ゲル、そんな顔しないでくれ。ご覧の通り腕時計ならしている。ただし、アナログだから日付も昼夜もわからないけれど」
「それじゃ、意味ないじゃん!」

 まるでそれが僕の過失であるかのように檜希が憤る。立場は同じなのに。

「電池切れの原因として、僕達がここに閉じ込められて考えられないくらい時間が経過している可能性だってある。無論、それはアナログ時計が電池切れになるほどではない」
「何ソレ? スマホ持ってないからってスマホをディスってんの?」
「キミはさっきから何に対して腹を立てているんだ?」
「別にムカついてなんかないし! 一応訊くけど、フミの超高性能ハイテク腕時計だと今は何時なの?」

 完全にムカついているじゃないか。

「3時25分……午前か午後かはわからない」
「えー、普通に午前じゃないの? 外はあんなに暗いし」

 そういや、ずっと抱いていた疑問。
 ミラージュパークで可視化した臍帯を見上げた時は、中が透けていたほどだった。なのに、今は外の様子がまるでわからない。

「昼夜の判断まではわからないが、俺に一つの仮説がある」

 ゲルの言葉に、僕と檜希は思わず目が合った。

「何ソレ? ゲルの仮説でも何でもいいから教えてっ!」
「いいのか?」
「勿論だよ。僕だってさっきから仮説しか喋ってない。でも、仮説を立てなければ、僕達は今後の方向性すら定められやしない」

 ゲルは納得した様子で口を開く。

「空飛ぶ臍帯に回収されて、現在ここにいる人間……あ、ホヤ人間だっけ? 死んだアイツ含めて四人いる。つまり、ここは四本の臍帯が連結している。俺とアイツの関東組の臍帯連合が多分、オマエら富山組の臍帯連合とに引き寄せられ一つになった。ここまではいいか?」

 僕と檜希は無言で頷く。

「さっきも言ったが、オマエらの話はこっちに筒抜けだった。二人の臍帯はくっついて一本になったんだろ? だからこそある疑問も生まれた。それが三本の血管の行き先だ。胎盤も胎児もない。その通りだよ。でも、四本になった今は違う。ゴールなんてなくて正解なんだ。フミ、この意味がわかるか?」

 首を傾げる檜希をよそに、指名を受けた僕は答える。


「その通り。四本の臍帯は出口も入り口もなく繋がっている。けれど、ただの単純なループならこの暗さは説明できない」

 明らかにゲルは僕を答え(仮説の範囲だが)へと導いている。自らではなく、それを僕に言わせようとしているんだ。
 なるほど、こんな手法もあるのか。
 闇雲に自論を貫けば、場合によって聞き手は不快に感じることもあるだろう。
 ちょうど、檜希が僕の説明を「ウザい」と感じていたように。
 ならば、早速応用してみよう。
 置き去り状態の彼女に「どう思う?」と振ってみた。
 けれど、ここにきて何故か仏頂面の檜希。

「……どうかしたのか?」
「二人とも、さっきから一度もあたしのこと"ヒノ"って呼ばないね? 待ってるんだからっ! 二人は"フミ"・"ゲル"の仲なのにさ!」

 この非常時にまだ呼び名なんぞに拘るか。もはや泰然自若を通り越した単なる駄々っ子だ。
 地団駄を踏む勢いで悔しがる檜希はさておき、僕は自然とJEXCOジェクスコ裏日本に勤務している一彦さんを思い出した。

臍帯ここが複雑に立体交差でクロスしているならば、合流後に暗くなったのも確かに頷ける。三本の血管の行方といい、全て辻褄が合うな」
「立体交差……それって高速道路のインターチェンジのこと? ?」

 凄い怨念。怒りのあまり、一気に呼び名を振り出しに戻してきた。

「そうだよ。もしくはジャンクション」
「ん? それってインターチェンジとどう違うの?」
「簡単に説明すれば、インターチェンジは一般道と高速道路の繋がるところで、ジャンクションは高速道路同士のリンクするところだよ」
「ジャンクション! UCJプロジェクトの"J"とまさに一致じゃん……くしょん。……あれ、スベッちゃった?」
「…………」

 こんな時にダジャレか。場違い過ぎて鳥肌すら立たなかった。
 ただ、ゲルは違ったようで……。

「おい、どういう積もりだ?」
「少しは和んだでしょ?」
「寒くなっただけだ」
「もう! ゲルってば、いつまであたしのこと呼び名なしで済ます気よ? 主語はどーしたのっ!」

 ゲルは露骨に不快な表情を示す。

「別にそんなのいらないだろ。伝わってんだから」
「ダメだよ。名前って案外、物事を決める上で大事な指標になるんだから。例えば、あたし達が今いるここ。今からこの空間は"へその緒ジャンクション"! 今後そう呼ぶことに決まったからね?」
「好きにしろ」

 確かに"へその緒インターチェンジ"よりはずっといい。

 
 Seven Seas Of Rhye 


 フレディは歌う。

 I descend upon your earth from the skies
 I command your very souls you unbelievers
 Bring before me what is mine
 The seven seas of Rhye

 "へその緒JCT"は空から舞い降りて"ホヤ人間"を回収する際こう言った
 信念を持たぬ紛い物のコピー共よ
 全てを我に差し出すがよい
 それは元来、汝らの物ではない
 七つの海――我を出し抜いた全世界に我の怒りを


 勿論、これは僕なりの意訳に過ぎない。
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