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はじめてのどろぼう from 南の島の三重殺
しおりを挟むillustration 天界音楽様
「日本のテレビ番組にさっ、ちっちゃな子供が初めておつかいするところを追跡する番組があるんだよっ!」
日本通アニオタのエリスがクランペット(イギリスのパンケーキ)みたいな貧乳を突き出して得意げに言う。相変わらずテンション高いな……。
エリス・アップルガース――赤毛のツインテール&赤フレームのメガネ女はオレと同じバーミンガム出身の15歳だ。
この女、無類のコスプレ好き……なのはいいんだが、こんな南国に来てまで何でそんな奇抜な格好してるんだろう。半袖半ズボンのオレとは大違い。大体、どこでそんなの仕入れたんだ?
白い着物に赤のダブダブズボン……確かShinto Shrineで働くシスターのユニフォームだと思うが見るからに暑苦しい。それはまだ百歩譲っても、頭に猫の耳を生やしてる意味がわからない。
そして、これまた場にも衣装にも相応しくないラクロスのスティックを持参している。まあ、こっちは卵の回収で使わなくもないけども。
ここは北マリアナ諸島――ロタ島。ミクロネシアに位置するアメリカ合衆国の自治領だ。本国イギリスから遥か遠く離れているのは言わずもがな、オレ達三人が滞在している”ヒラニプラ”でさえここから優に300マイルの距離がある。
三人……オレとエリスとラモ。エリスはともかく、ラモと一つ屋根の下で暮らせるなんて夢のようだ。死んでもいいと言っても過言じゃない。つーか、オレとエリスは既に死んでいるし。
ついでに言うと、ラモも本来なら死んでいる。……12000年前に。
かつて、太平洋にはムーという巨大な大陸が存在していた。今はその面影すら残ってないが、そこを統治していた神官であり帝王ラ・ムーの娘こそがオレ達と一緒に暮らすラモだ。
ラモは褐色の肌に金髪のエアリーショートボブ、超がつくほど美人。おまけにスタイル抜群ときてる。もしもエリスがいなかったら、オレは間違いなくラモに襲い掛かっていた。だって、思春期真っ盛りだからね。
オレとエリスはラモによって再び命を吹き込まれた。
そして今、故郷のバーミンガムでも留学先のハワイでもなく、オレ達はナラヤナの卵を求めてロタ島に不法上陸している。やたら鳥がいるなと思っていたら、ここは鳥類保護区だった。
12000年もの間、その嘴で突かれなかったナラヤナの卵ってどんなものだろう。
ナラヤナ……七つの頭を持つ大蛇であり、ムー帝国の絶対神。
帝国の滅亡寸前、七分割したナラヤナは12000年後に己の復活を画策し七つの卵を産み落として死んでいった。ハワイ諸島、マリアナ諸島、カロリン諸島、フィジー諸島、サモア諸島、ソシエテ諸島、そして絶海の孤島ラパ・ヌイ……ムー大陸が消滅しても、ナラヤナが卵を産み落としたその地は今も残っている。
「ねえ、聞いてるの、ハークっ?」
ふくれっ面のエリス、ラクロスのスティックを得物のように構えだした。
「悪い。全然聞いてなかった」
「ひどいなっ! わざわざボクがついてきてあげたのにっ!」
「誰も頼んでないだろ。それに”エクスクルーダー”のオマエが来たところで、どのみち”ゲートキーパー”のラモがいなきゃ卵は回収できないんだ。ヒラニプラで待機してろって言ったのにノコノコついて来たのはオマエだぜ?」
「回収じゃなくて”泥棒”だよ? ”エッグシーフ”さんっ!」
ラモがオレに与えた肩書きだ。正直、気に入らない。
「盗むんじゃないさ。それに泥棒だろうが何だろうがオレ達がそれを成し遂げないと、復活したナラヤナがこの世を支配しちまうんだからな」
実際、オレとエリスは留学先のハワイで、他の卵より先に孵ったナラヤナの分身――ヘビに咬まれて死んでしまったんだ。残す卵は六つ。孵化前に何としても封じなければならない。
12000年もの間、太陽神に仕えていたラモがナラヤナ復活阻止のためにオレとエリスを蘇らせた。ナラヤナの気配を察知できるオレが発見役のエッグシーフ、ラモはそれを封じる空間を拵えるゲートキーパー、そして卵をその空間に放り込むエクスクルーダーがエリスだ。
ラモの出番はワケあって、オレが卵を発見した時に限られる。今はヒラニプラのプラベート・アイランドでお眠り中。
それにしても、島のどこにあるかもわからない卵を見つけるなんて……。
「ハークっ!!!!」
な、何だ、いきなりの大絶叫。エリス、凄い形相でオレを睨んでやがる。
「絶対に許さんぞ虫ケラめ!!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!」
「……お、おう」
エリスとの会話で意味が通じなくなったら、それはほぼアニメからの引用だと解釈して差し支えない。ネタ元はわからないけど。
「上の空になって悪かった。だからなぶり殺しはよせ」
「うんっ!」
返事だけは素直だな。
「で、日本の番組がどうしたって?」
「今のハークがそれと似てるなって思ったの。”はじめてのどろぼう”……ボクはそれを見守る猫巫女カメラマンだよっ。さ、とっとと卵を盗むでありますっ!」
「オレはちっちゃい子供じゃねえ! それに仮にもカメラマンならそれらしいコスプレしろって」
「ハーク、見たいのっ?」
「ワクワクすんなよ! オマエは事の重大性が少しもわかっちゃいないな。それにオレはまだ卵が何処にあるかもわからないんだぞ」
プレッシャーを感じる。何故ならば、その卵を発見できるのはオレだけだから。このオレが躓いてしまえば全てが終わってしまう。
「ハーク」
「何だよ? ちゃんと聞いてるぞ」
「卵もいいけどさ……いつになったら回収してくれるの?」
「ん?」
エリスが少しはにかみ、何やらボソッと呟く。黄金の林檎? 確かにそう聞こえたけど……。
「何でもないっ! ボクはハークを信じてるよっ! だから空を飛ぶことだって湖の水を飲み干すことだってできるよねっ、泥棒さん?」
「む、多分それもアニメのセリフだな? 馬鹿言えッ! 何たって初めてなんだからな」
「”はじめてのどろぼう”……」
また言いやがった。
それから僅か一時間後、オレは奇跡的に原生林の中でナラヤナの卵を発見できた。エリスが信じてくれたからだろうか?
それにしても気になる。
黄金の林檎……記憶の片隅にそれは確かに存在していた。
けれども、うまく思い出せない。
「ハークっ? ラモを呼びに行くよっ!」
「お、そうだな」
先を行くエリスの揺れる赤いツインテールを見つめながら、それきり黄金の林檎のことは忘れてしまった。
オレとエリスは砂浜に隠した高速艇の元へと急ぐ。日が暮れると卵の回収ができなくなる。
冒険はまだ始まったばかりだ。やるしかない!
例えこの先、消え去る運命しか約束されていなくとも……。
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