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めがね脱がし
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「ちょっと変わったゲームがあるんだ。クローズドベータなんだけどやってみない?」
ベータ版……正式リリース前にユーザーが実際プレイしてみて、不具合や改善点を運営に知らせるお試し版のことらしい。中でもクローズドベータは関係者のみがプレイできる貴重なバージョンとのこと。よくわからんけど。
そんなクローズドベータを自在に体験できる稲田は、言うまでもなくソフトウェア開発会社に勤務するSE兼プログラマーだ。
しかし腑に落ちない。
稲田は僕がパソコンやスマホはおろか、携帯型デジタル音楽プレイヤーすらいじれないメカオンチであることを知っている筈だ。
「どうしてそれを僕に勧める?」
「決まってる。おまえみたいなヤツのために作ったゲームだからな。テストモニターとして、おまえほど最適なヤツはいない」
「断る」
「即行で断るなよ。まだ内容も明かしてないのに」
「”ゲーム”って時点で却下に値する。どうせドラム缶が転がってくるのをジャンプで避けて、ひたすら右スクロールしていくだけだろ?」
「いつの生まれだ、おまえは? このVRMMO全盛の時代に液晶ゲームの話なんかすんなよ」
「ヴイアールエム……??? 何言ってんだかわかんない」
「うん、馬鹿に説明すんのもめんどくさい。とにかくおまえはゲームのプレイヤーになりきってその中で楽しめばいいんだ」
「今、普通に『馬鹿』って言ったね?」
「馬鹿真面目って言ったんだ。耳が悪いな」
悪態をついた稲田は堂々と嘘までつく。
「悪いな。他を当たってくれ」
すっかり気分を害した僕は、コーヒーを一口も啜ることなく喫茶店を出ようとする。
「なあ、タイトルだけでも聞けよ」
「ふざけんな。タイトルを聞いただけで引き受けるとでも思ってんのか?」
「じゃ、軽く内容も。『バーチャルめがねマニアオーガニゼーション』……次から次に出て来るゾンビ少女のめがねを脱がしてレベルを上げていく冒険モノだよ」
「やらせて頂きます!」
*****************
稲田と僕は中学生の頃からの付き合いだ。
だからアイツは僕が病的なまでにめがねっ娘が好きなことを知っている。
中高一貫校に通った六年間、僕は在校するめがね女子全員に手当たり次第交際を申し込んだことがある。
そのせいかはわからないけども、当時、近所のめがね屋さんでは看板商品のめがねではなくコンタクトレンズが飛ぶように売れたらしい。卒業アルバムにもめがねっ娘は一人も写ってなかったし。
相当キモかったんだな……。
思い出しただけで頬に涙が伝う。忘れよう、黒歴史。
メカオンチの僕が自宅にパソコンを持っている筈もない。
そこんとこは稲田も想定内だったようで、僕にこう言った。
「俺の部屋のパソコンを使ってくれ。どうせ満足に立ち上げられないんだろうからお袋にやってもらえ。俺はバグチェックで当分は戻れそうもないから」
稲田は母親と二人暮らし。彼女とは何度か会ったことがあるからそう気まずくもない。
「岸田君、いらっしゃい。御無沙汰してるわね。話は聞いてるわよ。さあ、どうぞ」
「…………………」
僕は言葉を失い、そして瞬時に恋に落ちた。
稲田母……今、幾つだ?
め、めがね掛けてるぅ! 以前に会った時は裸眼で普通のおばさんだったのに。
めがねはめがねでも100パーセント老眼鏡……でも、そんなのめがねマニアには全く持って関係ない!
年齢の割にシワは目立たないし上品なちんまりとした口はキュートだし服装はエレガントだし、それに稲田母は完全にめがね顔だ。そこら辺を歩いてる若い裸眼娘よりメチャクチャ可愛いじゃん!
天秤に掛けるまでもない。
バーチャルな腐乱死体少女<<<<<<ナマの腐りかけ……もとい、熟した稲田母だろ、どう考えても! ゲームなんかやってられるか!
「あ、あ、あ、あ、あ、あの……!」
「ん、どうかした?」
ゴクリと生唾を呑んで、稲田母の目をまっすぐ見る。
お、まつ毛付着! 神聖なめがねが台無しだ!
「め、め、めがねが汚れてますッ! 拭いて差し上げましょう!」
「あ……ちょっと……待っ……」
慌てふためく稲田母など何のその、完全にタガが外れてしまった僕は強引に彼女の老眼鏡を奪い取る。
その刹那!
チャラチャラチャッチャッチャーン♪
謎の効果音が室内に大きく鳴り響いた。
「へ……?」
みるみるうちにゾンビの姿となって、その場にドサリと崩れ落ちる稲田母。
彼女はどうやら『バーチャルめがねマニアオーガニゼーション』の隠れボスキャラだったらしい。
まだファンファーレがやまない。
これっていきなりクリアなのか?
だとしたら超クソゲー、こりゃベータのままお蔵入りだな。
それに、僕は重大な思い違いをしていることに今更ながら気がついた。
めがねマニアだったら、普通は相手のめがね脱がさないよな。この場合、まつ毛は交通事故みたいなもんだ。
これって、そもそもターゲット選びからして間違ってるぞ。……そう思わないか、稲田息子よ?
つーか、待て!
今のこの状況って、バーチャル空間の現実化……
全然OK!
寧ろめがねゾンビ少女、脱がさないからバッチ来いやーッ!
……あ、服はわかんないよ。
ベータ版……正式リリース前にユーザーが実際プレイしてみて、不具合や改善点を運営に知らせるお試し版のことらしい。中でもクローズドベータは関係者のみがプレイできる貴重なバージョンとのこと。よくわからんけど。
そんなクローズドベータを自在に体験できる稲田は、言うまでもなくソフトウェア開発会社に勤務するSE兼プログラマーだ。
しかし腑に落ちない。
稲田は僕がパソコンやスマホはおろか、携帯型デジタル音楽プレイヤーすらいじれないメカオンチであることを知っている筈だ。
「どうしてそれを僕に勧める?」
「決まってる。おまえみたいなヤツのために作ったゲームだからな。テストモニターとして、おまえほど最適なヤツはいない」
「断る」
「即行で断るなよ。まだ内容も明かしてないのに」
「”ゲーム”って時点で却下に値する。どうせドラム缶が転がってくるのをジャンプで避けて、ひたすら右スクロールしていくだけだろ?」
「いつの生まれだ、おまえは? このVRMMO全盛の時代に液晶ゲームの話なんかすんなよ」
「ヴイアールエム……??? 何言ってんだかわかんない」
「うん、馬鹿に説明すんのもめんどくさい。とにかくおまえはゲームのプレイヤーになりきってその中で楽しめばいいんだ」
「今、普通に『馬鹿』って言ったね?」
「馬鹿真面目って言ったんだ。耳が悪いな」
悪態をついた稲田は堂々と嘘までつく。
「悪いな。他を当たってくれ」
すっかり気分を害した僕は、コーヒーを一口も啜ることなく喫茶店を出ようとする。
「なあ、タイトルだけでも聞けよ」
「ふざけんな。タイトルを聞いただけで引き受けるとでも思ってんのか?」
「じゃ、軽く内容も。『バーチャルめがねマニアオーガニゼーション』……次から次に出て来るゾンビ少女のめがねを脱がしてレベルを上げていく冒険モノだよ」
「やらせて頂きます!」
*****************
稲田と僕は中学生の頃からの付き合いだ。
だからアイツは僕が病的なまでにめがねっ娘が好きなことを知っている。
中高一貫校に通った六年間、僕は在校するめがね女子全員に手当たり次第交際を申し込んだことがある。
そのせいかはわからないけども、当時、近所のめがね屋さんでは看板商品のめがねではなくコンタクトレンズが飛ぶように売れたらしい。卒業アルバムにもめがねっ娘は一人も写ってなかったし。
相当キモかったんだな……。
思い出しただけで頬に涙が伝う。忘れよう、黒歴史。
メカオンチの僕が自宅にパソコンを持っている筈もない。
そこんとこは稲田も想定内だったようで、僕にこう言った。
「俺の部屋のパソコンを使ってくれ。どうせ満足に立ち上げられないんだろうからお袋にやってもらえ。俺はバグチェックで当分は戻れそうもないから」
稲田は母親と二人暮らし。彼女とは何度か会ったことがあるからそう気まずくもない。
「岸田君、いらっしゃい。御無沙汰してるわね。話は聞いてるわよ。さあ、どうぞ」
「…………………」
僕は言葉を失い、そして瞬時に恋に落ちた。
稲田母……今、幾つだ?
め、めがね掛けてるぅ! 以前に会った時は裸眼で普通のおばさんだったのに。
めがねはめがねでも100パーセント老眼鏡……でも、そんなのめがねマニアには全く持って関係ない!
年齢の割にシワは目立たないし上品なちんまりとした口はキュートだし服装はエレガントだし、それに稲田母は完全にめがね顔だ。そこら辺を歩いてる若い裸眼娘よりメチャクチャ可愛いじゃん!
天秤に掛けるまでもない。
バーチャルな腐乱死体少女<<<<<<ナマの腐りかけ……もとい、熟した稲田母だろ、どう考えても! ゲームなんかやってられるか!
「あ、あ、あ、あ、あ、あの……!」
「ん、どうかした?」
ゴクリと生唾を呑んで、稲田母の目をまっすぐ見る。
お、まつ毛付着! 神聖なめがねが台無しだ!
「め、め、めがねが汚れてますッ! 拭いて差し上げましょう!」
「あ……ちょっと……待っ……」
慌てふためく稲田母など何のその、完全にタガが外れてしまった僕は強引に彼女の老眼鏡を奪い取る。
その刹那!
チャラチャラチャッチャッチャーン♪
謎の効果音が室内に大きく鳴り響いた。
「へ……?」
みるみるうちにゾンビの姿となって、その場にドサリと崩れ落ちる稲田母。
彼女はどうやら『バーチャルめがねマニアオーガニゼーション』の隠れボスキャラだったらしい。
まだファンファーレがやまない。
これっていきなりクリアなのか?
だとしたら超クソゲー、こりゃベータのままお蔵入りだな。
それに、僕は重大な思い違いをしていることに今更ながら気がついた。
めがねマニアだったら、普通は相手のめがね脱がさないよな。この場合、まつ毛は交通事故みたいなもんだ。
これって、そもそもターゲット選びからして間違ってるぞ。……そう思わないか、稲田息子よ?
つーか、待て!
今のこの状況って、バーチャル空間の現実化……
全然OK!
寧ろめがねゾンビ少女、脱がさないからバッチ来いやーッ!
……あ、服はわかんないよ。
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