太陽の烙印、見えざる滄海(未完)

よん

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homeward

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 岩塩とノゼを購入したオレは、エリスと共にマー兄に付き添われ、夕陽を浴びながらスタング牧場へ戻っている。
 帰り道くらいわかるのだが、マー兄がオレ達についてきた理由は二つある。
 一つは久々の再会の喜びを分かち合いたかったから。
 そしてもう一つは護衛だ。

「ヤツら、しつこいんだよ。一度狙った獲物はそう簡単には諦めない」
「”獲物”ってボクのこと? もぉ~、困っちゃうなぁっ♪ そんなにボクのことが忘れられないなんてっ!」

 ルンルン気分のエリスだが、その思惑とは違うところで彼女はになっていることだろう。
 何しろ、ガタイがいい大人三人がたった一人の小娘にクソムシ扱いされたばかりか、その術中にしてやられたんだから。エリスはもはや復讐の対象でしかない。
 そんな能天気なエリスをよそに、オレはマー兄が腰に携えている軍刀サーベルに目をやる。
 すっかり武官なんだな。
 バッキンガム宮殿やウィンザー城を警備している近衛兵みたいに、熊の毛皮や赤いジャケットではないけれど、兵帽と白い軍服はそれと同じくらい威厳があった。
 あのひ弱かったマー兄の面影はまるでない。この五年、よほど鍛えられたんだろう。

 それにしてもアレ、幾らするんだ?

 羨ましそうにその軍刀サーベルを見ていたら、マー兄はそれに気づいて「いいだろ?」とオレに持たせてくれた。
 初めて手にする本物の剣……惚れ惚れすると同時にズッシリくる重さに舌を巻く。さすがにピッチフォークとはワケが違う。

「ねえ、マー兄は最初から武官を希望して頭脳院アカデミへ進学したの?」
「いや……」

 苦笑するマー兄はそれ以上語らなかった。

「ハーク殿」
「dono? うわッ! な、何だよ、その髪型?」

 いつの間にか、エリスはご自慢の赤毛ツインテールを一本結びにしていた。

「危ない目をしてるでござるよ。剣は凶器、剣術は殺人術、どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」

 gozaru?
 またワケのわからんこと言いだした。

「けれどもボクはそんな真実よりも、ハーク殿の言うビターなツッコミの方が好きでござるよ」
「んじゃ、お望み通りツッコんでやる。――黙れ」
「ひ、ひどいよっ、ソレってツッコミじゃないし! えーん、マーお兄ちゃんっ! ハークお兄ちゃんがボクのコトいじめるのっ!」

 と嘘泣きエリス、マー兄に抱きつき同情を求める。
 いつか、コレと似た光景を見たような……。

「よしよし、エリスは可哀想だな」

 赤毛を撫でてやる大人の対応……今やマー兄はオレの理想だ。なるほど、あんな風にエリスをあしらえばいいんだな。
 機嫌がよくなったエリスが、安心しきった笑顔でマー兄を仰ぎ見る。

「ねえねえ、マーお兄ちゃんっ! ボク、すっかり美人になったでしょっ?」
「あ……う、うん。キレイにはなってると思うけどさ……」
?」
「その赤い二つの輪っかは何だ?」

 やはり、マー兄もメガネが気になるようだ。
 けれども、エリスはウインクして「ひ・み・つ♡」と取り合わない。

「コレさっ、道化師フールの大事なアイテムなんだよっ! だからマーお兄ちゃんにも教えられないのっ!」

 大事なアイテムか……。
 現時点だと”ゴロツキを呼び寄せる災いの元”でしかないけどな。

 そうかそうかと、なおも甘えるエリスを「歩きにくいから」と強引に引き剥がして、オレの顔をまじまじ見る。

「で、オマエの職業は”サーペントマスター”だっけ? ”サーペントハンター”ではなく?」
「託宣ではそう告げられたよ。ついでに『南へ行くように』って。……もしかして、マー兄は”サーペントマスター”について何か知ってるの?」

 マー兄は首を横に振るも、その眼差しはオレから離れない。

「南にはいつ発つんだ?」
「とてもじゃないけど、今は行けないよ。お金もないし。ご覧の通り、オレの得物はこんな立派な物じゃないしね」

 右手の軍刀サーベルをマー兄に返して、オレは左手の錆びたピッチフォークを掲げてみせる。

「冒険者としてのオレは、まだこんなレベルだよ」
「では、しばらくリョンここへ留まるのだな? ならば我が主君に成り代わり、ハーク・ヴァープズに命ずる」
「え?」

 何だろう、急に。
 今の彼は兄の顔じゃない。軍人のソレだ。

「ゼルギア領主との謁見の場を設ける。オマエは”サーペントマスター”として、近日中に我が主君の館を訪問してもらうことになるだろう」
「それは……何のために?」

 マー兄のただならぬ様子に、再度ツインテールを結っているエリスの手が自然と止まっている。

凶蛇団ジャラーだよ」

 な、何だ、その凶蛇団ジャラーって?
 初めて聞いたけど……。

「彼らの暗躍がここにきて目立つようになってきた。王都は元より、一番安全とされてきたゼルギア領もかつての治安は維持できなくなっている。……オレ達の生まれ故郷――カムチャカがそうなるのも時間の問題だ」
 
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