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introduction
identity
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以前、マー兄が【神官宮】へ向かったあの朝に、オレは口から出まかせで
「亜人間と共に暮らす」
と、高らかに宣言したことを今になって思い出した。
どのくらいセリスナと一緒にいるかはともかく、実際こうして行動を共にする日が来るなんて当時のオレは思いもしなかっただろう。
同日、
「ボクはハークお兄ちゃんとずっと一緒にいるんだっ」
そう発言したエリスだ。
託宣以降の身の振り方は勿論のこと、オレがセリスナの仲間を救うと決めた以上、エリスもそれに従わざるを得ない……らしい。オレ的に無理強いする積もりは微塵もないんだが。
かつて”ニンゲン”と呼ばれていた亜人間は思慮に欠け好戦的であったため、今や絶対神の加護は受けていない。セリスナの額に烙印がないのもそのためだ。
その亜人間が、カスピアナの新たな統治者である人間の前へ姿を現すことなど極めて稀である。その正体がバレたら歓迎などまずされないだろうから。
にもかかわらず、仲間を思うセリスナのその気持ちがオレの心を動かした。加えて、冒険者としてのキャリアも、完全初心者のオレ達にしてみれば心強かった。
……あ、エリスは別か。セリスナのことを何かと目の敵にしてるからな。その理由がおっぱいの大小と言うのは何とも情けないけれど。
そのまま路地裏からティールームのテラス席へと戻らず、今後の計画を練るためにオレ達はひとまず宿を確保することにした。
託宣を受け成人祝いをもらったばかりのオレとエリス、懐具合はホカホカだったが、この先を考えると少しでも出費は抑えたい。
カムチャカで一番安い宿泊施設と言えば……
というワケで、オレとエリスは今朝、訣別したばかりの生家である【閑古鳥】へと戻って来た。
ただし、今度は”穀潰し”ではなく”宿泊客”として。セリスナは同室に3連泊となる。
一方、オレとエリスは今朝まで自室として使っていた部屋にそれぞれ30ラントを若旦那――ダル兄に支払った。
パパもママも金さえ払えば態度が一変する。その当たり前の接客がオレにしてみれば逆に哀しかった。金にも劣る親子の絆を不躾に見せつけられた気分だ。
暗くなってから、仮眠を済ませたセリスナがオレとエリスの部屋にやって来る。どうやら亜人間は夜行性らしい。
事前に広場で買っておいた塩パンと燻製肉と炭酸水で簡素な晩飯をとりながら、オレ達はここで本格的にセリスナの素性を聞くことになる。
「アターシャ、亜人間ノ村娘アルヨ。ダケド、閉鎖的ナ亜人間ト暮ラス嫌気サシタアルノネ。ソンデ退屈ナ村ヲ飛ビ出シテ冒険者ナッタアルゾヨ」
「その生業が薬草師ってワケだね。具体的にはどこに行ってたの?」
「かすぴあな全土アル。アターシャ、運ビ屋ノ付キ添イシテタアルノナ」
「運ビ屋って何の?」
「食料トカ生活雑貨トカ、ココデハ言エナイモノトカ……」
荒々しく肉を食い千切るエリス、これまで一言も発せずにセリスナの胸を睨んでいる。貧乳の僻みだ。みっともないから、せめて顔にしとけ。
「なるほどね。確かに冒険を続けていたらいろんな危険な目に遭うだろうし、そうなると薬草師は重宝されるだろう。……で、セリスナが助けたい仲間はその運ビ屋なの?」
「違ウアルノナ」
セリスナがかぶりを振る。
ちなみに黒いフェイスベールを着用したままでの飲食である。どうして、そこまでして顔半分を覆い続けなきゃならないのだろう。
「運ビ屋、単ナルびじねすぱーとなー。旅ノ契約済ンダラ即ばいばいスルアルノヨ」
「じゃあ、他に同行する仲間がいるんだ。やっぱりその人、亜人間なの?」
「人違ウ。馬アルノナ」
――ッ!? う、馬ッ?
これに驚いたエリスも目を丸くして口を開く。
「冗談じゃないよっ! てっきり人を救出するかと思ってたのに、どうしてボク達が馬なんかにお金を出さなきゃなんないのさっ!」
「馬アルガ、”ふれべる”アターシャノ大切ナ仲間アルゾナ。友情ニ種族ハ関係ナイアルノネ」
「そんなの代わり探せばいいじゃんっ。どうせ馬なんてウ○コたれるだけの存在――”ウ○コたれ助マキバゴー”なんだからさっ!」
「ふれべるノウ○コ、”赤イ貧乳”ノウ○コヨリ、ズットズット貴重アルゾヨ」
「し、し、失礼じゃないかぁっ! ボクのウ○コならきっとオークションに出品したら高値で取引され」「エリス、悪いけど黙っててよ。脱線が過ぎる」
今の会話から、セリスナから絶えず発せられる馬糞臭の謎が解けた。以前、彼女が「仕事で馬糞を捏ねる」と発言していたことにも繋がる。
「薬草師であるセリスナにとって、そのフレベルという馬は特別なんだね? だから代用がきかないんだ」
「御名答アル」
膨れっ面のエリスに背を向け、セリスナは自信ありげにこう言った。
「亜人間、古ヨリコノ地デ暮ラシテルアル。絶対神ノ加護ナクトモ生キテイケルアルノネ。薬草ノ知識モ人間ノ比ジャナイアルノナ」
セリスナが昼間に言ってた、金を投資しても損しないってこういうことだったんだ。
こうなると、何が何でもフレベルを助けないと!
「シカモ、アル。アターシャ、ソノ亜人間ノ中デモとっぷノ万能薬草師……アターシャトイレバ医者イラズアルゾネ」
「医者いらずっ? そ、それじゃ……医者は何のためにあるんだよ―――っ!!!」
オマエ、何のために絶叫した?
わかってるけどさ。どうせ今のもアニメ絡みなんだ。
「亜人間と共に暮らす」
と、高らかに宣言したことを今になって思い出した。
どのくらいセリスナと一緒にいるかはともかく、実際こうして行動を共にする日が来るなんて当時のオレは思いもしなかっただろう。
同日、
「ボクはハークお兄ちゃんとずっと一緒にいるんだっ」
そう発言したエリスだ。
託宣以降の身の振り方は勿論のこと、オレがセリスナの仲間を救うと決めた以上、エリスもそれに従わざるを得ない……らしい。オレ的に無理強いする積もりは微塵もないんだが。
かつて”ニンゲン”と呼ばれていた亜人間は思慮に欠け好戦的であったため、今や絶対神の加護は受けていない。セリスナの額に烙印がないのもそのためだ。
その亜人間が、カスピアナの新たな統治者である人間の前へ姿を現すことなど極めて稀である。その正体がバレたら歓迎などまずされないだろうから。
にもかかわらず、仲間を思うセリスナのその気持ちがオレの心を動かした。加えて、冒険者としてのキャリアも、完全初心者のオレ達にしてみれば心強かった。
……あ、エリスは別か。セリスナのことを何かと目の敵にしてるからな。その理由がおっぱいの大小と言うのは何とも情けないけれど。
そのまま路地裏からティールームのテラス席へと戻らず、今後の計画を練るためにオレ達はひとまず宿を確保することにした。
託宣を受け成人祝いをもらったばかりのオレとエリス、懐具合はホカホカだったが、この先を考えると少しでも出費は抑えたい。
カムチャカで一番安い宿泊施設と言えば……
というワケで、オレとエリスは今朝、訣別したばかりの生家である【閑古鳥】へと戻って来た。
ただし、今度は”穀潰し”ではなく”宿泊客”として。セリスナは同室に3連泊となる。
一方、オレとエリスは今朝まで自室として使っていた部屋にそれぞれ30ラントを若旦那――ダル兄に支払った。
パパもママも金さえ払えば態度が一変する。その当たり前の接客がオレにしてみれば逆に哀しかった。金にも劣る親子の絆を不躾に見せつけられた気分だ。
暗くなってから、仮眠を済ませたセリスナがオレとエリスの部屋にやって来る。どうやら亜人間は夜行性らしい。
事前に広場で買っておいた塩パンと燻製肉と炭酸水で簡素な晩飯をとりながら、オレ達はここで本格的にセリスナの素性を聞くことになる。
「アターシャ、亜人間ノ村娘アルヨ。ダケド、閉鎖的ナ亜人間ト暮ラス嫌気サシタアルノネ。ソンデ退屈ナ村ヲ飛ビ出シテ冒険者ナッタアルゾヨ」
「その生業が薬草師ってワケだね。具体的にはどこに行ってたの?」
「かすぴあな全土アル。アターシャ、運ビ屋ノ付キ添イシテタアルノナ」
「運ビ屋って何の?」
「食料トカ生活雑貨トカ、ココデハ言エナイモノトカ……」
荒々しく肉を食い千切るエリス、これまで一言も発せずにセリスナの胸を睨んでいる。貧乳の僻みだ。みっともないから、せめて顔にしとけ。
「なるほどね。確かに冒険を続けていたらいろんな危険な目に遭うだろうし、そうなると薬草師は重宝されるだろう。……で、セリスナが助けたい仲間はその運ビ屋なの?」
「違ウアルノナ」
セリスナがかぶりを振る。
ちなみに黒いフェイスベールを着用したままでの飲食である。どうして、そこまでして顔半分を覆い続けなきゃならないのだろう。
「運ビ屋、単ナルびじねすぱーとなー。旅ノ契約済ンダラ即ばいばいスルアルノヨ」
「じゃあ、他に同行する仲間がいるんだ。やっぱりその人、亜人間なの?」
「人違ウ。馬アルノナ」
――ッ!? う、馬ッ?
これに驚いたエリスも目を丸くして口を開く。
「冗談じゃないよっ! てっきり人を救出するかと思ってたのに、どうしてボク達が馬なんかにお金を出さなきゃなんないのさっ!」
「馬アルガ、”ふれべる”アターシャノ大切ナ仲間アルゾナ。友情ニ種族ハ関係ナイアルノネ」
「そんなの代わり探せばいいじゃんっ。どうせ馬なんてウ○コたれるだけの存在――”ウ○コたれ助マキバゴー”なんだからさっ!」
「ふれべるノウ○コ、”赤イ貧乳”ノウ○コヨリ、ズットズット貴重アルゾヨ」
「し、し、失礼じゃないかぁっ! ボクのウ○コならきっとオークションに出品したら高値で取引され」「エリス、悪いけど黙っててよ。脱線が過ぎる」
今の会話から、セリスナから絶えず発せられる馬糞臭の謎が解けた。以前、彼女が「仕事で馬糞を捏ねる」と発言していたことにも繋がる。
「薬草師であるセリスナにとって、そのフレベルという馬は特別なんだね? だから代用がきかないんだ」
「御名答アル」
膨れっ面のエリスに背を向け、セリスナは自信ありげにこう言った。
「亜人間、古ヨリコノ地デ暮ラシテルアル。絶対神ノ加護ナクトモ生キテイケルアルノネ。薬草ノ知識モ人間ノ比ジャナイアルノナ」
セリスナが昼間に言ってた、金を投資しても損しないってこういうことだったんだ。
こうなると、何が何でもフレベルを助けないと!
「シカモ、アル。アターシャ、ソノ亜人間ノ中デモとっぷノ万能薬草師……アターシャトイレバ医者イラズアルゾネ」
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