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エルフ
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「とっとと起きろ、底辺。お題を出すぞ」
当たり前のようにベッドを占領していたエビス、パソコンのキーボードを枕にして眠りこける僕を爪先でツンツン起こしやがる。
「……何だ、もう朝か?」
「朝どころかとっくに昼を過ぎている。嫁が出て行ったというのに呑気なヤツだ」
「昨夜は夜通し泣いて、明け方まで起きてたんだ。何度も言うが、嫁が出て行った理由は僕の落ち度じゃないからな?」
「まさか、この私を恨んでいるのか? 夫婦間の諍いを通りすがりの女神に責任転嫁するのは感心に値しない」
「通り過ぎるどころか、ガッツリ居着いてる疫病神のおまえのせいで現状こうなってるんだろがッ! ぶっちゃけ、絵なんてどうでもよくなってきたぞ!」
「その勢いだ」
「……何が?」
「そのうち、嫁のこともどうでもよくなる日がくる」
「おまえは最終的に何を狙ってんだッ? とっととお題言いやがれッ!」
「はいよ。昨日、おまえが描いた"奇行種の女"を見て思ったんだが……」
「『進○の巨人』じゃねーぞッ! "連結浮遊ハゲキッス"といい、勝手なお題つけてんじゃねえッ!」
「キモい頭身もさることながら、おまえの絵には動きがまるでない。今回のお題は【エルフ】……しかも弓を射るエルフな」
「何だと? そりゃ無理だ。ただでさえ体が描けないってのに」
「"体も"だろ? そして更なる試練をおまえに与えよう。所要時間は5分だ」
「ご、5分ッ!?」
「あんな奇行種一体仕上げるのに、5時間もかけるなど愚の骨頂。5時間あれば水道管どころか、この建物丸ごと跡形もなく消し去ることができるのに」
笑えねーんだよ! エビス、マジでソレやりそうだもんな。
僕は聞こえないフリをしてお題のエルフを描く。
……うわ、5分って思ってた以上に何もできない。
「よし、時間だ。見せてみろ」
「こ、これはナシだ! ノーカウントだからな?」
「いいから見せろ」
「……出た! 秘技、"古代エジプトの壁画"!」
「必殺技みたいに言うな!」
「そろそろ言いたくもなるわ。どうしていつも進行方向が左なんだ? 左に何かあるのか? 天竺か? 天竺行って経典もらいに行くのか? ニワトリ、ドラゴン、エルフの西遊記」
「うるせ――ッ! だからこれはノーカウントだって言ってんだろッ!」
「全裸なのに靴だけ履いてるし。石田○一みたいだな」
「あの人は靴下以外ちゃんと服着とるわ!」
「服と言えば思い出した」
「……何がだよ?」
「困ってるだろうと思ったからさ」
「だから何が?」
「嫁の服だよ。実家に全部郵送しといたから」
「勝手に離婚の準備を進めるんじゃねえ――ッ!!!」
当たり前のようにベッドを占領していたエビス、パソコンのキーボードを枕にして眠りこける僕を爪先でツンツン起こしやがる。
「……何だ、もう朝か?」
「朝どころかとっくに昼を過ぎている。嫁が出て行ったというのに呑気なヤツだ」
「昨夜は夜通し泣いて、明け方まで起きてたんだ。何度も言うが、嫁が出て行った理由は僕の落ち度じゃないからな?」
「まさか、この私を恨んでいるのか? 夫婦間の諍いを通りすがりの女神に責任転嫁するのは感心に値しない」
「通り過ぎるどころか、ガッツリ居着いてる疫病神のおまえのせいで現状こうなってるんだろがッ! ぶっちゃけ、絵なんてどうでもよくなってきたぞ!」
「その勢いだ」
「……何が?」
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「おまえは最終的に何を狙ってんだッ? とっととお題言いやがれッ!」
「はいよ。昨日、おまえが描いた"奇行種の女"を見て思ったんだが……」
「『進○の巨人』じゃねーぞッ! "連結浮遊ハゲキッス"といい、勝手なお題つけてんじゃねえッ!」
「キモい頭身もさることながら、おまえの絵には動きがまるでない。今回のお題は【エルフ】……しかも弓を射るエルフな」
「何だと? そりゃ無理だ。ただでさえ体が描けないってのに」
「"体も"だろ? そして更なる試練をおまえに与えよう。所要時間は5分だ」
「ご、5分ッ!?」
「あんな奇行種一体仕上げるのに、5時間もかけるなど愚の骨頂。5時間あれば水道管どころか、この建物丸ごと跡形もなく消し去ることができるのに」
笑えねーんだよ! エビス、マジでソレやりそうだもんな。
僕は聞こえないフリをしてお題のエルフを描く。
……うわ、5分って思ってた以上に何もできない。
「よし、時間だ。見せてみろ」
「こ、これはナシだ! ノーカウントだからな?」
「いいから見せろ」
「……出た! 秘技、"古代エジプトの壁画"!」
「必殺技みたいに言うな!」
「そろそろ言いたくもなるわ。どうしていつも進行方向が左なんだ? 左に何かあるのか? 天竺か? 天竺行って経典もらいに行くのか? ニワトリ、ドラゴン、エルフの西遊記」
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「あの人は靴下以外ちゃんと服着とるわ!」
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「困ってるだろうと思ったからさ」
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