57 / 57
Another World
とある日常
しおりを挟む
「ケチケチせんと教えてくれたらええのにな。『次、右に曲がります』って」
「そんな便利なモンあったらいいよな。遠くにいる人間と会話できる箱とか、竜みたいなでっかい乗り物であっという間に遠くへ行けるとか」
「フルーツでできたお城に住みたいにゃ」
「そんな夢みたいな世界に住む人達って幸せだろうな。犯罪や貧富の差とかもきっとないよ」
「いや、わからんで。結局どんな世界であろうと、人間は欲望を捨てきれん生き物やからな。みんながみんな望み通りに生きれる世界に人類が行き着いたとしても、逆にその楽園を破壊したくなる欲望も人間は同時に持ってんねん」
結局どんな世界であろうと…………
世界。
ウチが知ってるんは、今自分が生きてるここの世界だけ。
奈良県生駒市に居を構える、イマドキ捕縄術なんか見向きもされん古いだけが取り柄の道場とその周辺が全て。
入園無料の遊園地が生駒山の頂上にあるけど、ユニバーサルナンチャラに比べたらババちびるくらいガラガラ。
それでも潰れんと一世紀近く営業してるんは立派や。
県外就業率全国一位。
高校卒業しても道場継ぐウチは生駒に留まるけどな。
あんましパッとせん地域。
それがウチの暮らす世界なんや。
ただの夢なん?
それにしたら、やたら鮮明過ぎるんや。
鬱蒼と生い茂る森の中でのあの会話が耳と記憶に深く刻まれてるんは何でやろ。
四人おる。
関西弁喋ってるんが、どう考えてもウチ。
他には、でっかくて酒臭いオッサン、金髪の可愛らしい年下の男の子、それに茶色のハンチングかぶって眼鏡掛けた童女。
語尾がムカつく"にゃ"……。
舞台はファンタジーそのもの。
そこにウチがガッツリ組み込まれてるんが不可解や。
もしかして、巷で流行ってる異世界転移ってヤツやろか?
それにしたら、そこのウチは普段と変わらん道着姿やし。
ウチだけメッチャ場違いやん。
その夢みたいな光景を何度も見る……いや、思い出す?
そして、ウチはその何の変哲もない会話に刺激されていつも無意識に涙流してんねん。
メソメソ泣くんは性に合わん。
だからその胸糞悪い記憶が忌々しいし、自分自身に腹立ってしょうがない。
と、ここでいきなりスマホの着信。
由起子ちゃんからや。
「はぅぅ――ッ! 忘れとったぁぁぁ!」
寝起きでボーとして涙ちょちょ切れてる場合やなかった!
今日はユキちゃんトモりんとマクドで待ち合わせやった!!!
ごめんと平謝りして、大急ぎでパジャマから制服に着替える。
日曜のマクド行くのにセーラー服てどうなん?
自慢やないけど、ウチは学校の制服と道着とパジャマ、それに学校指定ヘボジャージの四パターンでこの十八年間生きてきたんや。
師範は年頃の孫娘に一切オシャレさせてくれんからな。
「全ての邪念を払え」て、師であり身内でありながらガチで鬼やで。
そんなウチがスマホ持ってるんが奇跡。
味方してくれるオバアのおかげや。
今朝は師範お出掛け。
老人会の集まりで公民館にてカラオケ大会やて。
それは邪念のうちに入らんのか?
どうせ酒盛りもするやろし。
ウチ、十分にグレる権利あると思うねん。
そんなんしても誰得やからせえへんけど。
ユキちゃんとトモりんは普通の女の子やから、捕縄術なんて当然やったことあらへんしやる必要もない。
下手人を捕えるのに麻縄とかそれこそ江戸時代やしな。
今は手錠あるもん。
そら道場も生駒の遊園地以上に廃れるわ。
その普通の彼女らが何か知らんけど捕縄術に興味あって「麻縄見たい」言い出したんや。
ほんで今からマクドに持って行くことになったんやけど……山斗流捕縄術師範代である当事者のウチが言うのもヘンやけど、あのコら絶対頭おかしいで。
確かにウチの流派は琉球唐手の蹴りを取り入れてるから護身術にも使えるんやけど、そんなんに興味示してる暇あったらジョシコーコーセーらしく受験勉強したりデートしたらええのにな。
ウチと違って二人ともカレシ持ちやし。
あー、腹減った。
朝ごはんまだやから、マクドでめっちゃ食べたろ。
オバアから内緒の千円もろたし♪
よう晴れた青空見上げたら、伊丹方面から引かれた白い一筋の細長い雲。
それ産み落とした飛行機はその遥か先や。
「……まるで竜やな」
思わず出てもうた独り言に吃驚する。
遠くにいる人間と会話できる箱……スマホ
竜みたいなでっかい乗り物……飛行機
「ほんなら『次、右に曲がります』はカーナビか……」
フルーツでできたお城……それだけは無理やで、お嬢ちゃん。
アリンコようさん群がってきはるわ。
ナビもスマホも飛行機もない不便な世界で、あの四人は頑張って生きてるんや。
その目的までは知らんし、この世界の住人であるウチには何の関係もあらへん。
考える必要なんてあらへんのや。
関係あらへんはずやのに、何か胸の奥がキューって苦しくなる。
妙に懐かしくなるし、無性にアイツらに会いたくなるのは何でやろ?
アイツもアイツも……それからアイツとも、何か全部中途半端なまま別れてもうた気がする。
もし、再会できたら……アイツらこんなウチを許してくれるやろか?
あかん!
これから友達に会うのに、どうしてもここにおらんヤツらのことばかり考えてまう。
ごめんやけど、夢ならもう出て来んといて。
再会なんてあり得ん。
ウチはそこにおらんし、そっちに行くこともできんのや。
それとも
こっちの世界の方が夢なんか?
そんなわけあらへんけども、仮にそうやったとして。
ウチは生きて生きて青春を謳歌してみせるで。
アイツらに負けんくらいに。
せやから、向こうのウチも頑張って生きや!
さてと。
鬼の居ぬ間に何とやら、や。
「オバア、ちょっと留守番お願い。今から残り少ないジョシコーコーセーライフ満喫してくるわ!」
illustration KASUMI様
「そんな便利なモンあったらいいよな。遠くにいる人間と会話できる箱とか、竜みたいなでっかい乗り物であっという間に遠くへ行けるとか」
「フルーツでできたお城に住みたいにゃ」
「そんな夢みたいな世界に住む人達って幸せだろうな。犯罪や貧富の差とかもきっとないよ」
「いや、わからんで。結局どんな世界であろうと、人間は欲望を捨てきれん生き物やからな。みんながみんな望み通りに生きれる世界に人類が行き着いたとしても、逆にその楽園を破壊したくなる欲望も人間は同時に持ってんねん」
結局どんな世界であろうと…………
世界。
ウチが知ってるんは、今自分が生きてるここの世界だけ。
奈良県生駒市に居を構える、イマドキ捕縄術なんか見向きもされん古いだけが取り柄の道場とその周辺が全て。
入園無料の遊園地が生駒山の頂上にあるけど、ユニバーサルナンチャラに比べたらババちびるくらいガラガラ。
それでも潰れんと一世紀近く営業してるんは立派や。
県外就業率全国一位。
高校卒業しても道場継ぐウチは生駒に留まるけどな。
あんましパッとせん地域。
それがウチの暮らす世界なんや。
ただの夢なん?
それにしたら、やたら鮮明過ぎるんや。
鬱蒼と生い茂る森の中でのあの会話が耳と記憶に深く刻まれてるんは何でやろ。
四人おる。
関西弁喋ってるんが、どう考えてもウチ。
他には、でっかくて酒臭いオッサン、金髪の可愛らしい年下の男の子、それに茶色のハンチングかぶって眼鏡掛けた童女。
語尾がムカつく"にゃ"……。
舞台はファンタジーそのもの。
そこにウチがガッツリ組み込まれてるんが不可解や。
もしかして、巷で流行ってる異世界転移ってヤツやろか?
それにしたら、そこのウチは普段と変わらん道着姿やし。
ウチだけメッチャ場違いやん。
その夢みたいな光景を何度も見る……いや、思い出す?
そして、ウチはその何の変哲もない会話に刺激されていつも無意識に涙流してんねん。
メソメソ泣くんは性に合わん。
だからその胸糞悪い記憶が忌々しいし、自分自身に腹立ってしょうがない。
と、ここでいきなりスマホの着信。
由起子ちゃんからや。
「はぅぅ――ッ! 忘れとったぁぁぁ!」
寝起きでボーとして涙ちょちょ切れてる場合やなかった!
今日はユキちゃんトモりんとマクドで待ち合わせやった!!!
ごめんと平謝りして、大急ぎでパジャマから制服に着替える。
日曜のマクド行くのにセーラー服てどうなん?
自慢やないけど、ウチは学校の制服と道着とパジャマ、それに学校指定ヘボジャージの四パターンでこの十八年間生きてきたんや。
師範は年頃の孫娘に一切オシャレさせてくれんからな。
「全ての邪念を払え」て、師であり身内でありながらガチで鬼やで。
そんなウチがスマホ持ってるんが奇跡。
味方してくれるオバアのおかげや。
今朝は師範お出掛け。
老人会の集まりで公民館にてカラオケ大会やて。
それは邪念のうちに入らんのか?
どうせ酒盛りもするやろし。
ウチ、十分にグレる権利あると思うねん。
そんなんしても誰得やからせえへんけど。
ユキちゃんとトモりんは普通の女の子やから、捕縄術なんて当然やったことあらへんしやる必要もない。
下手人を捕えるのに麻縄とかそれこそ江戸時代やしな。
今は手錠あるもん。
そら道場も生駒の遊園地以上に廃れるわ。
その普通の彼女らが何か知らんけど捕縄術に興味あって「麻縄見たい」言い出したんや。
ほんで今からマクドに持って行くことになったんやけど……山斗流捕縄術師範代である当事者のウチが言うのもヘンやけど、あのコら絶対頭おかしいで。
確かにウチの流派は琉球唐手の蹴りを取り入れてるから護身術にも使えるんやけど、そんなんに興味示してる暇あったらジョシコーコーセーらしく受験勉強したりデートしたらええのにな。
ウチと違って二人ともカレシ持ちやし。
あー、腹減った。
朝ごはんまだやから、マクドでめっちゃ食べたろ。
オバアから内緒の千円もろたし♪
よう晴れた青空見上げたら、伊丹方面から引かれた白い一筋の細長い雲。
それ産み落とした飛行機はその遥か先や。
「……まるで竜やな」
思わず出てもうた独り言に吃驚する。
遠くにいる人間と会話できる箱……スマホ
竜みたいなでっかい乗り物……飛行機
「ほんなら『次、右に曲がります』はカーナビか……」
フルーツでできたお城……それだけは無理やで、お嬢ちゃん。
アリンコようさん群がってきはるわ。
ナビもスマホも飛行機もない不便な世界で、あの四人は頑張って生きてるんや。
その目的までは知らんし、この世界の住人であるウチには何の関係もあらへん。
考える必要なんてあらへんのや。
関係あらへんはずやのに、何か胸の奥がキューって苦しくなる。
妙に懐かしくなるし、無性にアイツらに会いたくなるのは何でやろ?
アイツもアイツも……それからアイツとも、何か全部中途半端なまま別れてもうた気がする。
もし、再会できたら……アイツらこんなウチを許してくれるやろか?
あかん!
これから友達に会うのに、どうしてもここにおらんヤツらのことばかり考えてまう。
ごめんやけど、夢ならもう出て来んといて。
再会なんてあり得ん。
ウチはそこにおらんし、そっちに行くこともできんのや。
それとも
こっちの世界の方が夢なんか?
そんなわけあらへんけども、仮にそうやったとして。
ウチは生きて生きて青春を謳歌してみせるで。
アイツらに負けんくらいに。
せやから、向こうのウチも頑張って生きや!
さてと。
鬼の居ぬ間に何とやら、や。
「オバア、ちょっと留守番お願い。今から残り少ないジョシコーコーセーライフ満喫してくるわ!」
illustration KASUMI様
0
お気に入りに追加
22
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

【完結】私の代わりに。〜お人形を作ってあげる事にしました。婚約者もこの子が良いでしょう?〜
BBやっこ
恋愛
黙っていろという婚約者
おとなしい娘、言うことを聞く、言われたまま動く人形が欲しい両親。
友人と思っていた令嬢達は、「貴女の後ろにいる方々の力が欲しいだけ」と私の存在を見ることはなかった。
私の勘違いだったのね。もうおとなしくしていられない。側にも居たくないから。
なら、お人形でも良いでしょう?私の魔力を注いで創ったお人形は、貴方達の望むよに動くわ。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。


エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる