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第4章
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香取さんはマスクを外して、ゆっくりこっちを向いた。
ガングロのままでも相変わらず美人だ。
「初めてアタシの名前を見た人はみんな”まあや”って呼ぶんだ。この程度のキラキラネームならよかったのにさ。……フツーに”かとりまあや”でよくね?」
俺は頷いて、香取真彩――カトリヒカリに同意する。
「さすがに”まあや”以外は読めないよな。キミも別れる最後まで、俺にカタカナの名前しか教えなかったね?」
「おあいこだろ? アタシの場合、ここまでくるとキラキラなんてかわいいもんじゃない。完全にDQNネームじゃん」
「ヒカリ」
俺は元カノの名前を呼んだ。
「じっくり考えてみたけど、どうしてもわからないことがあるんだ」
「名前のこと?」
「それもあるけど……どうしてキミはそんな格好までして、わざわざ三十八点の俺の元へ来たんだ? さすがに狐珠のハプニングが偶然キミをここに導いたとは思えない」
「当然さ」
ヒカリが弱々しく笑う。
「ワタルが絵馬に祈願したからこうなったんじゃない。コタっちゃんにお願いしたのはアタシなんだし」
呆然自失……。
ウチは女子の味方どすよ
それじゃ、俺は今までずっとあのキツネの妖怪に騙されていたのか。
「ワタルは本当にバカだよな。三十八点の男にコクる女なんていねーよ」
「え? じゃあ、俺はヒカリにコクられたわけじゃなかったのか?」
「オメエ、真正のバカ?」
ヒカリは呆れ顔でフードを外す。
金髪ではない、まっすぐなオムスビの黒髪が露わになる。
「アタシが生まれて初めて死ぬ気でコクったんじゃん? だったらオメエはアタシにとって百点に決まってんだろ」
俺が……百点?
「……言わせんなよ、バカ。顔、熱いし」
恥ずかしそうに目を落としたヒカリはそっとマントを脱ぐ。
「……ッ!」
マントの中は……Tシャツすら身に着けていなかった。
一糸纏わぬ全裸だ。
「……ワタル」
「お、お、おおおおおおう?」
「今のうちにじっくり見とけよ。……アタシ、もうすぐ死んじゃうからさ」
*
残る絵馬の漢字は義髪。
俺はそれをウィッグとかそんなレベルだと思っていた。
〝義”は仮、実物の代わり。
たとえば、義歯、義手、義足……それらはファッション的な意味合いから程遠く、どちらかと言えば医療的な意味合いが強い。
義髪も例外ではなかった。
「白血病だよ。抗癌剤を投与して二週間で脱毛が始まってさ、抜ける前と同じ金髪のカツラをかぶったよ。まあどうせ半年もすりゃ髪は元に戻るって聞いてたから、それほどショックでもなかった。……でもさ、ずっと後で知ったんだけどもう末期だったんだよね。髪の毛とかどうこう言ってらんないレベル。どうせすぐわかるのに嘘なんかついてさ、みんな揃ってバカだよ」
重すぎる。
違う。こんなの俺が想定した事態じゃない。
神様に「オムスビはコンピュータエラーが造り出した幻だ」と告げられた時、俺はもっと別の解釈をしていた。
オムスビという女の子は存在しない。
そう、何故ならそれはヒカリが俺にバレないよう変装した仮の姿だと気づいたからだ。
オムスビがいなくなっても、ヒカリが正体を晒して俺の前に現れる……そんな軽い気持ちで考えていた。
悪い夢なら覚めてほしい。
「明日の午後三時……本当にヒカリは死ぬのか?」
俺は痩せ細ったヒカリの全裸を見ながら訊ねた。
「そうだよ。三時ジャスト。正確には三時ジャストでここを離れて、それから十八秒後に向こうで御臨終」
向こう?
「……何やってんだよ?」
「はあ?」
俺はいきなりムカついた。
「そんな状態でこんなところにいて大丈夫なのかって言ってんだ! 病院にいなきゃダメだろ!」
ヒカリは何故か満足そうに笑っている。
「うれしいねえ。やっと怒ってくれた」
「え?」
「心配いらねーって。本体はちゃんと病院にいるし。今は昏睡状態だけど、アタシの意思でこうして喋って動いてんのは間違いねーから。……なあ、ワタルの目の前に見えるこの体、何だと思う?」
透けてない。つまり、幽体ではない。
目の前の彼女は包丁を持ち、俺のオニギリを食べた。おかわりまでした。
だとすれば答えは一つ。
「……狐珠か?」
「当たり」
そうだ。
さっきまでオムスビと呼んでいたヒカリと狐珠、俺は一度たりとも彼女達を同時に見ていない。
「この体さ、コタっちゃんがいい時のアタシを再現してくれてんだよ。実際はもっとひどいんだ。肌に張りがないし胸だってしぼんじゃったし……。このブラ、ホントはスッカスカだもん。顔だってシミだらけだよ。BBAみたく一気に老けちゃった」
だからいつも化粧が濃いんだな。今はガングロでごまかしてる。
「ヒカリ、裸はもういいよ。何か着て」
「どうして?」
寂しそうな顔のヒカリ、
「ビッチ丸出しだから引いてんの? それとも、もうすぐ死んじゃう体に魅力はない?」
「違うんだ」
俺は即座に否定する。
「どうしても受け入れられない。ヒカリが俺に裸を見せるってことは、もう全てが終わりに向かってる気がしてならないから……」
「全てじゃねーよ」
鎖骨が剥き出しのデコルテに手を触れながら、
「このアタシが終わるだけ。ワタルはまだまだこれから生きてくんだ。……ねえ、目を背けてねーでこっち見てみ? アタシ、まだ息してる。オバケじゃねーし」
俺は馬鹿だ。
今になってヒカリのことが大好きになった。
愛おしくて仕方ない。抱き締めてキスしたかった。
でも、彼女の本当の体はどこかの暗澹たる病室にいて、そこで深い眠りに就いている。
俺が触れることができるのは狐珠が化けたフェイクだけだ。
引き出しから適当にTシャツを出して、ヒカリに渡す。
「着ろよ。俺はまだヒカリと手も握ってないんだ」
「ワタル……?」
「明日の午後三時まで、恋人同士らしくちゃんと付き合おう。これまで無駄に過ごした二ヶ月を取り戻すんだ」
ヒカリは潤む涙を隠そうともせず何度も頷いたが、Tシャツは受け取らなかった。
「……アタシの”オムスビ”はどうだった?」
「嘘だと思われるかもしれないけれど、俺は好きだったかもしれない。”オムスビ”を通してヒカリを見つけられたんだから」
「じゃあ、今のヒカリはどう? ワタルはやっぱりアタシに興味ねーのかな?」
知ってたんだ。
「好きだよ。今更だけど。ありのまま、今のヒカリが全部好きだ」
「調子いいねえ。……でもさ、ウレシーから信じてやるよ。だから予定より早くこうやって正体を晒したんだし」
「予定?」
「そっ」
ヒカリは顔をクシャッとさせて笑う。
「じゃあ、ちょっと待ってて。本物のヒカリに戻る」
狐珠の体だからてっきり一瞬でヒカリに化けるんだと思ってたら、黒い大きなカバンを持って、
「洗面所借りるよ。メイクし直してくる。服もあるし。……ホラッ」
そう言って、ヒカリはカバンの中を見せた。昨日、喫茶店で見た花柄ビスチェに黒のミニスカート、そして金色の義髪も入ってる。
ヒカリは素っ裸のまま階段を下りて行った。
大胆だよな。さっきは俺目掛けて包丁を投げたのに……。
シーツのないベッドに腰を掛けると、主を失った洋鵡の歯舞と目が合った。
「やっと気づいたよ。キミのその女の子の声とオッサンの声……声元は狐珠と神様だったんだな」
返事はない。
単身ではコミュニケーションがとれないのか、歯舞は普通の鳥類らしく首を小刻みに動かしているだけ。
そう、歯舞に声を吹き込んでいる神様は、コンピュータエラーで偶然に造り出されたオムスビを当然ながら最初から知っていたことになる。
つまり、狐珠だけじゃなく神様もこの計画に参加していたんだ。
全てがドッキリの仕掛け人、ターゲットはこの俺一人。
神様が道端に倒れていたことも、たった十五分の遅刻で理由も聞かずにヒカリが怒って帰ったこと、それに狐珠の強引すぎる接近……。
辻褄が合う。
そもそも、異空間にパソコンがあること自体疑わしい。コンピュータエラーなんて口から出まかせだろう。
それでも、まだ胸のモヤモヤは完全に晴れてはくれない。
不可解なことが多すぎる。
どうしてヒカリは公衆の面前で俺に土下座までさせたんだろう?
それに、あの絵馬には何の意味があったんだ?
神様の突然の恫喝は?
わからない……。
だが、それが判明したところで何になる?
ヒカリはもうすぐ死んでしまうんだぞ。
ヒカリ、言ってたよな。
三十八点の男にコクる女なんていない、俺はアイツにとって百点だったって……。
だとすれば、俺が勝手に自分の価値を下げていたのか? もったいない。
後悔したところで時間は戻らない。
それどころか、刻一刻とヒカリの死が迫っている。
最期を迎えるその瞬間まで俺の所に逢いにきて、共に時間を過ごそうとしている。
自惚れでも何でもなく、ヒカリは俺を本当に好きだったんだろう。
じゃないと、あんな汚らしい格好までして俺を欺こうとはしない。
けれども、俺にできることは何もない。
正直なところ、俺には明日の午後三時までどうやってヒカリと過ごしていいのかわからないんだ。
これまで無駄に過ごした二ヶ月を取り戻す?
口から出まかせ言ってんじゃねーよ!
それができるんなら最初からヒカリと接することもできただろ?
今でも自信がないんだ。いや、ヒカリを疑ってさえいる。
俺の一体どこが百点なんだ?
確かに今はヒカリのことが好きになった。
でも、それはオムスビという限りなく0点に近い女の子に身をやつしていた、健気なヒカリを知ったからこそ好きになったんだ。
神様の言う通りだと思う。
俺はやっぱり、精神的イニシアチブを握らないと安心できない。あれだけ全てを晒け出したヒカリにでさえ、俺はいまだにコンプレックスを抱いている。
ヒカリは強い。
病魔に侵されながらも、迷うことなく自分の道を突き進んでいる。
この俺に彼女の残りわずかな人生を受けとめることができるだろうか?
ヒカリはオムスビ、オムスビはヒカリ……
橋はワタル、ワタルは橋……
一緒だろ?
頭を空っぽにしろ。
俺はもう逃げない!
ガングロのままでも相変わらず美人だ。
「初めてアタシの名前を見た人はみんな”まあや”って呼ぶんだ。この程度のキラキラネームならよかったのにさ。……フツーに”かとりまあや”でよくね?」
俺は頷いて、香取真彩――カトリヒカリに同意する。
「さすがに”まあや”以外は読めないよな。キミも別れる最後まで、俺にカタカナの名前しか教えなかったね?」
「おあいこだろ? アタシの場合、ここまでくるとキラキラなんてかわいいもんじゃない。完全にDQNネームじゃん」
「ヒカリ」
俺は元カノの名前を呼んだ。
「じっくり考えてみたけど、どうしてもわからないことがあるんだ」
「名前のこと?」
「それもあるけど……どうしてキミはそんな格好までして、わざわざ三十八点の俺の元へ来たんだ? さすがに狐珠のハプニングが偶然キミをここに導いたとは思えない」
「当然さ」
ヒカリが弱々しく笑う。
「ワタルが絵馬に祈願したからこうなったんじゃない。コタっちゃんにお願いしたのはアタシなんだし」
呆然自失……。
ウチは女子の味方どすよ
それじゃ、俺は今までずっとあのキツネの妖怪に騙されていたのか。
「ワタルは本当にバカだよな。三十八点の男にコクる女なんていねーよ」
「え? じゃあ、俺はヒカリにコクられたわけじゃなかったのか?」
「オメエ、真正のバカ?」
ヒカリは呆れ顔でフードを外す。
金髪ではない、まっすぐなオムスビの黒髪が露わになる。
「アタシが生まれて初めて死ぬ気でコクったんじゃん? だったらオメエはアタシにとって百点に決まってんだろ」
俺が……百点?
「……言わせんなよ、バカ。顔、熱いし」
恥ずかしそうに目を落としたヒカリはそっとマントを脱ぐ。
「……ッ!」
マントの中は……Tシャツすら身に着けていなかった。
一糸纏わぬ全裸だ。
「……ワタル」
「お、お、おおおおおおう?」
「今のうちにじっくり見とけよ。……アタシ、もうすぐ死んじゃうからさ」
*
残る絵馬の漢字は義髪。
俺はそれをウィッグとかそんなレベルだと思っていた。
〝義”は仮、実物の代わり。
たとえば、義歯、義手、義足……それらはファッション的な意味合いから程遠く、どちらかと言えば医療的な意味合いが強い。
義髪も例外ではなかった。
「白血病だよ。抗癌剤を投与して二週間で脱毛が始まってさ、抜ける前と同じ金髪のカツラをかぶったよ。まあどうせ半年もすりゃ髪は元に戻るって聞いてたから、それほどショックでもなかった。……でもさ、ずっと後で知ったんだけどもう末期だったんだよね。髪の毛とかどうこう言ってらんないレベル。どうせすぐわかるのに嘘なんかついてさ、みんな揃ってバカだよ」
重すぎる。
違う。こんなの俺が想定した事態じゃない。
神様に「オムスビはコンピュータエラーが造り出した幻だ」と告げられた時、俺はもっと別の解釈をしていた。
オムスビという女の子は存在しない。
そう、何故ならそれはヒカリが俺にバレないよう変装した仮の姿だと気づいたからだ。
オムスビがいなくなっても、ヒカリが正体を晒して俺の前に現れる……そんな軽い気持ちで考えていた。
悪い夢なら覚めてほしい。
「明日の午後三時……本当にヒカリは死ぬのか?」
俺は痩せ細ったヒカリの全裸を見ながら訊ねた。
「そうだよ。三時ジャスト。正確には三時ジャストでここを離れて、それから十八秒後に向こうで御臨終」
向こう?
「……何やってんだよ?」
「はあ?」
俺はいきなりムカついた。
「そんな状態でこんなところにいて大丈夫なのかって言ってんだ! 病院にいなきゃダメだろ!」
ヒカリは何故か満足そうに笑っている。
「うれしいねえ。やっと怒ってくれた」
「え?」
「心配いらねーって。本体はちゃんと病院にいるし。今は昏睡状態だけど、アタシの意思でこうして喋って動いてんのは間違いねーから。……なあ、ワタルの目の前に見えるこの体、何だと思う?」
透けてない。つまり、幽体ではない。
目の前の彼女は包丁を持ち、俺のオニギリを食べた。おかわりまでした。
だとすれば答えは一つ。
「……狐珠か?」
「当たり」
そうだ。
さっきまでオムスビと呼んでいたヒカリと狐珠、俺は一度たりとも彼女達を同時に見ていない。
「この体さ、コタっちゃんがいい時のアタシを再現してくれてんだよ。実際はもっとひどいんだ。肌に張りがないし胸だってしぼんじゃったし……。このブラ、ホントはスッカスカだもん。顔だってシミだらけだよ。BBAみたく一気に老けちゃった」
だからいつも化粧が濃いんだな。今はガングロでごまかしてる。
「ヒカリ、裸はもういいよ。何か着て」
「どうして?」
寂しそうな顔のヒカリ、
「ビッチ丸出しだから引いてんの? それとも、もうすぐ死んじゃう体に魅力はない?」
「違うんだ」
俺は即座に否定する。
「どうしても受け入れられない。ヒカリが俺に裸を見せるってことは、もう全てが終わりに向かってる気がしてならないから……」
「全てじゃねーよ」
鎖骨が剥き出しのデコルテに手を触れながら、
「このアタシが終わるだけ。ワタルはまだまだこれから生きてくんだ。……ねえ、目を背けてねーでこっち見てみ? アタシ、まだ息してる。オバケじゃねーし」
俺は馬鹿だ。
今になってヒカリのことが大好きになった。
愛おしくて仕方ない。抱き締めてキスしたかった。
でも、彼女の本当の体はどこかの暗澹たる病室にいて、そこで深い眠りに就いている。
俺が触れることができるのは狐珠が化けたフェイクだけだ。
引き出しから適当にTシャツを出して、ヒカリに渡す。
「着ろよ。俺はまだヒカリと手も握ってないんだ」
「ワタル……?」
「明日の午後三時まで、恋人同士らしくちゃんと付き合おう。これまで無駄に過ごした二ヶ月を取り戻すんだ」
ヒカリは潤む涙を隠そうともせず何度も頷いたが、Tシャツは受け取らなかった。
「……アタシの”オムスビ”はどうだった?」
「嘘だと思われるかもしれないけれど、俺は好きだったかもしれない。”オムスビ”を通してヒカリを見つけられたんだから」
「じゃあ、今のヒカリはどう? ワタルはやっぱりアタシに興味ねーのかな?」
知ってたんだ。
「好きだよ。今更だけど。ありのまま、今のヒカリが全部好きだ」
「調子いいねえ。……でもさ、ウレシーから信じてやるよ。だから予定より早くこうやって正体を晒したんだし」
「予定?」
「そっ」
ヒカリは顔をクシャッとさせて笑う。
「じゃあ、ちょっと待ってて。本物のヒカリに戻る」
狐珠の体だからてっきり一瞬でヒカリに化けるんだと思ってたら、黒い大きなカバンを持って、
「洗面所借りるよ。メイクし直してくる。服もあるし。……ホラッ」
そう言って、ヒカリはカバンの中を見せた。昨日、喫茶店で見た花柄ビスチェに黒のミニスカート、そして金色の義髪も入ってる。
ヒカリは素っ裸のまま階段を下りて行った。
大胆だよな。さっきは俺目掛けて包丁を投げたのに……。
シーツのないベッドに腰を掛けると、主を失った洋鵡の歯舞と目が合った。
「やっと気づいたよ。キミのその女の子の声とオッサンの声……声元は狐珠と神様だったんだな」
返事はない。
単身ではコミュニケーションがとれないのか、歯舞は普通の鳥類らしく首を小刻みに動かしているだけ。
そう、歯舞に声を吹き込んでいる神様は、コンピュータエラーで偶然に造り出されたオムスビを当然ながら最初から知っていたことになる。
つまり、狐珠だけじゃなく神様もこの計画に参加していたんだ。
全てがドッキリの仕掛け人、ターゲットはこの俺一人。
神様が道端に倒れていたことも、たった十五分の遅刻で理由も聞かずにヒカリが怒って帰ったこと、それに狐珠の強引すぎる接近……。
辻褄が合う。
そもそも、異空間にパソコンがあること自体疑わしい。コンピュータエラーなんて口から出まかせだろう。
それでも、まだ胸のモヤモヤは完全に晴れてはくれない。
不可解なことが多すぎる。
どうしてヒカリは公衆の面前で俺に土下座までさせたんだろう?
それに、あの絵馬には何の意味があったんだ?
神様の突然の恫喝は?
わからない……。
だが、それが判明したところで何になる?
ヒカリはもうすぐ死んでしまうんだぞ。
ヒカリ、言ってたよな。
三十八点の男にコクる女なんていない、俺はアイツにとって百点だったって……。
だとすれば、俺が勝手に自分の価値を下げていたのか? もったいない。
後悔したところで時間は戻らない。
それどころか、刻一刻とヒカリの死が迫っている。
最期を迎えるその瞬間まで俺の所に逢いにきて、共に時間を過ごそうとしている。
自惚れでも何でもなく、ヒカリは俺を本当に好きだったんだろう。
じゃないと、あんな汚らしい格好までして俺を欺こうとはしない。
けれども、俺にできることは何もない。
正直なところ、俺には明日の午後三時までどうやってヒカリと過ごしていいのかわからないんだ。
これまで無駄に過ごした二ヶ月を取り戻す?
口から出まかせ言ってんじゃねーよ!
それができるんなら最初からヒカリと接することもできただろ?
今でも自信がないんだ。いや、ヒカリを疑ってさえいる。
俺の一体どこが百点なんだ?
確かに今はヒカリのことが好きになった。
でも、それはオムスビという限りなく0点に近い女の子に身をやつしていた、健気なヒカリを知ったからこそ好きになったんだ。
神様の言う通りだと思う。
俺はやっぱり、精神的イニシアチブを握らないと安心できない。あれだけ全てを晒け出したヒカリにでさえ、俺はいまだにコンプレックスを抱いている。
ヒカリは強い。
病魔に侵されながらも、迷うことなく自分の道を突き進んでいる。
この俺に彼女の残りわずかな人生を受けとめることができるだろうか?
ヒカリはオムスビ、オムスビはヒカリ……
橋はワタル、ワタルは橋……
一緒だろ?
頭を空っぽにしろ。
俺はもう逃げない!
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