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第2章
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部屋に戻ると、彼女が窓を指さして鳥が「オフダ」とオッサンの声で言った。
よく見ると、確かに窓の向こう側に長方形の紙が貼ってあって、そこに何やら
ミミズがのたくったような字が書いてある。
キツネめ、うさんくさい妖術で善良な市民を封じ込めやがったな。
どうやら本気で、最低でも二日は目の前の風変わりな彼女(プラス鳥)と缶詰め状態で過ごさなければならないようだ。
コレって誰得なんだよ? 二日後の俺は一体どうなってるんだ?
まだうまく現実を受け入れられない中、
「ヒモジイ」
鳥が極めて現実的なことを女の子の声で言う。
「それはキミか鳥のどっちだ?」
「ニンゲン」
「状況は芳しくない。まず、冷蔵庫が空っぽだ。食事代はあるものの、クソギツネのせいで外にも出られない。電話もどうせダメだろう」
電話、そうだ。
俺はまだ昼間に食べたラーメンのおかげで空腹というほどではなかったが、淡い期待を込めてケータイからお馴染みのピザ屋に電話をかけてみた。
万が一ということもある。
そうだ!
もし通じたら、ピザ屋のデリバリースタッフに玄関の御札を剥がしてもらおう。大体、それを剥がさないと注文の品も届けられないしな。
呼び出し音……
「オテンキ」
また鳥に言われてしまった。期待した俺が馬鹿だった。
明日も雨は降らない?
そんなのわかったところで、どうせ俺はここから一歩も出られないんだ。
「……と言うわけでだな、俺達は少なくとも二日、この家の中にある食材だけでどうにか生きていかなきゃならない」
「ナニアル」
「悲報だ。何もないに等しい。カップラーメンすらなかった。パンに塗る物が辛うじてあるが、肝心のパンが一枚もないんだ。……いっそ、そこの鳥でも焼いて食うか?」
「イイカモ」
かわいそうに。鳥はその意味を知らずに喋らされてるんだ。
「冗談に決まってるだろ。その鳥の餌はあるのか?」
黒マントの彼女は、持参したカバンの中からそれらしき容器を取り出した。
鳥はそれを見て嬉しそうに奇声を発しながら翼を広げる。
ああ、羽が舞い散る……。
彼女は手のひらに何粒かそれを乗せると、鳥は首を伸ばしてあっという間に平らげた。
「ミズイル」
ああ、そうか。
俺はまたもや階段を下りる。
首が突っ込みやすい口が広めのプラスチック製コップに水を注ぎ、こぼさないよう慎重に階段を上ってそれを飼い主の彼女に手渡した。
彼女は後ろを振り向き、マスクをずらしてそれを一気に飲み干した……て、オマエが飲むんかい!
鳥が彼女に向かってギイギイ抗議する。
近所から苦情が舞い込みそうなくらいすげえうるさい!
既にマスクをつけ直していた彼女は無言で空のコップを俺に渡す。
「モット」
「今度は鳥の分だからな?」
そう念押しして、またまた階段を往復する。……何やってんだ、俺?
落ち着いた鳥がうまそうに水を飲み終え、再び黒マントの上に糞をした。
二日後、確実に俺の部屋は病原菌だらけになってるな。
ようやく場が落ち着いたところに、
「ヒモジイ」
と、彼女が鳥の嘴を通じてオッサンの声で言う。
三分かけて、ようやく振り出しに戻る。
格好が格好だけに、その発言は俺の心を激しく打った。このみすぼらしい薄幸そうな女の子に何か食べ物を恵んでやらなければ……。
そうなんだ。ここに閉じ込められたのは俺だけじゃない。
考えてみれば、彼女も狐珠のせいで被害者になったんだ。
だったら、ここは寛大な気持ちで彼女をもてなそう。
でないと、このサバイバルはとてもじゃないが生き残れない。ギスギスしても生まれるのはストレスだけだ。
うーん、と考えを巡らせる。
「米くらいならあるだろう。それを炊けばオニギリができる」
俺はそう言いながら、さりげなく彼女の手を盗み見た。
うん、普通に汚い。
女の子の手料理などという煌びやかな幻想が吹っ飛ぶくらいにド汚い。ここ最近、手ェ洗ったか?
「俺が握るから、キミは何もしなくていい」
申し出られる前に自分から断った。
そう言う俺も握ったことないけどな。
それ以前に、料理の何も知らないこの俺がうまくごはんを炊けるだろうか?
彼女はおなかに手をやる。
「マテナイ」
「え、もしかして昼飯まだなの?」
彼女は黙ったまま頷く。
「そう言われてもな……。とりあえず、ジャムでも舐めとく?」
彼女は黙ったままかぶりを振る。そりゃそうだろう。
「じゃあ、水でも飲んでごまかす?」
彼女は黙ったまま目を閉じる。水のおかわりはいらないようだ。
こんな時に手軽に食べられるお菓子でもあれば……あ!
ふと、弧珠にもらった小箱を思い出した。「小腹が空いたら二人で食べろ」って言ってたよな。
俺は無意識にベッドに放り投げていたその直方体を手に取って、笑顔で彼女に見せる。
「喜べ! ほら、食べ物だぞ! イチゴのゼリーだ。狐珠がオレ達にくれたんだ!」
この時点で気づくべきだった。……そう、贈り主の性悪な性格に。
「ヨコセ」
目の色を変えて俺からその箱を奪い取った空腹の彼女、乱雑にバリバリとラッピングを破るや否や、何故か冷ややかに俺を睨みつけた。……ん?
「中身、何だったんだよ? ゼリーじゃないのか?」
鳥が喋る。
「クエナイ」
「え、どうし……」
彼女が箱ごと俺に投げ返した。箱の角が即頭部直撃だ。
「イテえな! 何すんだよ?」
「ドスケベ」
「はあ?」
うッ!
俺は物を見て絶句……。
ゼリーはゼリーでも潤滑ゼリー、生まれて初めて手に触れるコンドームはイチゴの香りつき。
童貞の俺は当然真っ赤になるが、ガングロの彼女はそれが確認できない。
狐珠……マジでブッ殺してやる!!!
よく見ると、確かに窓の向こう側に長方形の紙が貼ってあって、そこに何やら
ミミズがのたくったような字が書いてある。
キツネめ、うさんくさい妖術で善良な市民を封じ込めやがったな。
どうやら本気で、最低でも二日は目の前の風変わりな彼女(プラス鳥)と缶詰め状態で過ごさなければならないようだ。
コレって誰得なんだよ? 二日後の俺は一体どうなってるんだ?
まだうまく現実を受け入れられない中、
「ヒモジイ」
鳥が極めて現実的なことを女の子の声で言う。
「それはキミか鳥のどっちだ?」
「ニンゲン」
「状況は芳しくない。まず、冷蔵庫が空っぽだ。食事代はあるものの、クソギツネのせいで外にも出られない。電話もどうせダメだろう」
電話、そうだ。
俺はまだ昼間に食べたラーメンのおかげで空腹というほどではなかったが、淡い期待を込めてケータイからお馴染みのピザ屋に電話をかけてみた。
万が一ということもある。
そうだ!
もし通じたら、ピザ屋のデリバリースタッフに玄関の御札を剥がしてもらおう。大体、それを剥がさないと注文の品も届けられないしな。
呼び出し音……
「オテンキ」
また鳥に言われてしまった。期待した俺が馬鹿だった。
明日も雨は降らない?
そんなのわかったところで、どうせ俺はここから一歩も出られないんだ。
「……と言うわけでだな、俺達は少なくとも二日、この家の中にある食材だけでどうにか生きていかなきゃならない」
「ナニアル」
「悲報だ。何もないに等しい。カップラーメンすらなかった。パンに塗る物が辛うじてあるが、肝心のパンが一枚もないんだ。……いっそ、そこの鳥でも焼いて食うか?」
「イイカモ」
かわいそうに。鳥はその意味を知らずに喋らされてるんだ。
「冗談に決まってるだろ。その鳥の餌はあるのか?」
黒マントの彼女は、持参したカバンの中からそれらしき容器を取り出した。
鳥はそれを見て嬉しそうに奇声を発しながら翼を広げる。
ああ、羽が舞い散る……。
彼女は手のひらに何粒かそれを乗せると、鳥は首を伸ばしてあっという間に平らげた。
「ミズイル」
ああ、そうか。
俺はまたもや階段を下りる。
首が突っ込みやすい口が広めのプラスチック製コップに水を注ぎ、こぼさないよう慎重に階段を上ってそれを飼い主の彼女に手渡した。
彼女は後ろを振り向き、マスクをずらしてそれを一気に飲み干した……て、オマエが飲むんかい!
鳥が彼女に向かってギイギイ抗議する。
近所から苦情が舞い込みそうなくらいすげえうるさい!
既にマスクをつけ直していた彼女は無言で空のコップを俺に渡す。
「モット」
「今度は鳥の分だからな?」
そう念押しして、またまた階段を往復する。……何やってんだ、俺?
落ち着いた鳥がうまそうに水を飲み終え、再び黒マントの上に糞をした。
二日後、確実に俺の部屋は病原菌だらけになってるな。
ようやく場が落ち着いたところに、
「ヒモジイ」
と、彼女が鳥の嘴を通じてオッサンの声で言う。
三分かけて、ようやく振り出しに戻る。
格好が格好だけに、その発言は俺の心を激しく打った。このみすぼらしい薄幸そうな女の子に何か食べ物を恵んでやらなければ……。
そうなんだ。ここに閉じ込められたのは俺だけじゃない。
考えてみれば、彼女も狐珠のせいで被害者になったんだ。
だったら、ここは寛大な気持ちで彼女をもてなそう。
でないと、このサバイバルはとてもじゃないが生き残れない。ギスギスしても生まれるのはストレスだけだ。
うーん、と考えを巡らせる。
「米くらいならあるだろう。それを炊けばオニギリができる」
俺はそう言いながら、さりげなく彼女の手を盗み見た。
うん、普通に汚い。
女の子の手料理などという煌びやかな幻想が吹っ飛ぶくらいにド汚い。ここ最近、手ェ洗ったか?
「俺が握るから、キミは何もしなくていい」
申し出られる前に自分から断った。
そう言う俺も握ったことないけどな。
それ以前に、料理の何も知らないこの俺がうまくごはんを炊けるだろうか?
彼女はおなかに手をやる。
「マテナイ」
「え、もしかして昼飯まだなの?」
彼女は黙ったまま頷く。
「そう言われてもな……。とりあえず、ジャムでも舐めとく?」
彼女は黙ったままかぶりを振る。そりゃそうだろう。
「じゃあ、水でも飲んでごまかす?」
彼女は黙ったまま目を閉じる。水のおかわりはいらないようだ。
こんな時に手軽に食べられるお菓子でもあれば……あ!
ふと、弧珠にもらった小箱を思い出した。「小腹が空いたら二人で食べろ」って言ってたよな。
俺は無意識にベッドに放り投げていたその直方体を手に取って、笑顔で彼女に見せる。
「喜べ! ほら、食べ物だぞ! イチゴのゼリーだ。狐珠がオレ達にくれたんだ!」
この時点で気づくべきだった。……そう、贈り主の性悪な性格に。
「ヨコセ」
目の色を変えて俺からその箱を奪い取った空腹の彼女、乱雑にバリバリとラッピングを破るや否や、何故か冷ややかに俺を睨みつけた。……ん?
「中身、何だったんだよ? ゼリーじゃないのか?」
鳥が喋る。
「クエナイ」
「え、どうし……」
彼女が箱ごと俺に投げ返した。箱の角が即頭部直撃だ。
「イテえな! 何すんだよ?」
「ドスケベ」
「はあ?」
うッ!
俺は物を見て絶句……。
ゼリーはゼリーでも潤滑ゼリー、生まれて初めて手に触れるコンドームはイチゴの香りつき。
童貞の俺は当然真っ赤になるが、ガングロの彼女はそれが確認できない。
狐珠……マジでブッ殺してやる!!!
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