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3、彼に対しての不満 その1

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厄介なのは彼に対しての不満である。大まかにふたつある。

ひとつはやはり彼の母親が毒親であることだ。45歳の彼をいつまでも子供扱いし、同居している自分の夫と長男を除け者にし、別居している彼を週末ごとに買い物に連れ出し、その帰りに行きつけの店でランチをしながら日々の愚痴を彼にぶちまけてスッキリする。自分の意見は絶対で他人の意見には全く耳を貸さず、歯向かうと逆上して拗ねる。そうして家族を自分の支配下に置き、自分の思うままに動かしている。

彼は一軒家に一人で住んでいるのだが、母親は自分の家同然にアポ無しで突然訪問する。都合が悪いと言うと逆上して拗ねるので対応するしかない。幸い私が居る時に来た事はないが、いつ来るか分からないので彼の家にいると常に不安がつきまとう。普通の母親ならば挨拶をすれば問題ないと思うが、家柄の事で散々攻撃されているので、実際に顔を合わせたら一体どんな罵声を浴びせられるのか不安で堪らない。

一度「なぜそんな母親の言いなりになっているのか」と彼に聞いた事がある。すると「俺だって自分の思うように生きたい。でも何を言っても無駄だから諦めた。それにやっぱり自分を生んでくれた母親だから……」と煮え切らない返事が返って来た。確かに気持ちは分かるが、実の母親だからって子供を自分の所有物のようにするのはどう考えても異常だ。私との結婚を考えると言っておきながら、そんな母親に立ち向かおうともしない彼に対しても憤りを感じた。

しかし、私が一番衝撃を受けたのは全く違う言葉だった。

「もし母親と雪ちゃん、どちらかを選べと言われたら俺はどちらも切る。ドラマみたいに駆け落ちするとかそういう事は絶対にやらない」

彼はそうハッキリ言ったのだ。私が衝撃を受けたのは自分を選んで欲しいと思ったからではない。あまりの優柔不断さに呆れたのだ。私はこの言葉を始め彼との間に起こった事を家族や友人、知人などに話してどう思うか聞いた。すると案の定、大半の人が顔をしかめ口を揃えてこう言った。

「それは何かあっても彼はあなたを守らないって言ってるのと同じだよ」

私はハッとした。そんな人に人生を預けようとしていた自分にゾッとした。彼との結婚を白紙にした一番の理由はこの言葉だったように思う。それに私の周りには私の家柄を差別するような、ましてや攻撃をするような人は一人もいなかった。私を気遣ってくれたという見方もあるが、嫌ならそれきり関係が終わるはずなので今でも関係を続けているという事は本当に偏見がないという証拠だ。

やはり、会ったことのない人間をよく知りもしないで一方的に差別する彼の周りは異常だと改めて思った。(会った事がなくてよく知らないからこそボロクソに言えるともいえるが)

その後、騒動はひと段落着いたが、それは私の心の奥底に深い傷となって残り続ける結果となった。彼が母親や周りの話をする度に、毎週末に母親と会う度に、傷つけられた事を思い出して嫌な気持ちになった。

それは恐らく彼の母親に対する嫉妬心もあると思う。母親との約束を断ってくれさえすればもっと二人の時間を作る事が出来るのに。母親は自分の予定を断られたり、変更されるのを極端に嫌がり、承諾しても「誰とどこに行くの?」としつこく聞いて来るのだ。私はまるで彼の浮気相手と彼を取り合っているような気分である。ここまで読んでくれた方々にはもうお分かりかと思うが、何が言いたいかというとつまりこうだ。

「息子を溺愛する毒親と親離れ出来ていないマザコン男」
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