14 / 49
第二章 復讐
第十四話
しおりを挟む一同が裁きの間に戻ると、近藤が微笑みながら言った。
「皆、ご苦労だった。今回はなかなか骨のある任務であったな」
「……あの、近藤局長」
「何だね?」
突然改まった勇美に近藤が不思議そうな表情を浮かべて言った。
「千代さんは近藤局長と友達になりたいそうです」
「はぁ?!ちょっと勇美!何言ってんだい?!」
予想外の展開に千代が慌てふためく。
「千代さん、やっぱり黙ってちゃダメだよ。ホントのこと言った方がいいって」
「千代殿、一体どういうことだね?」
千代は近藤から目を逸らして黙っている。勇美は代わりに口を開いた。
「千代さんは自分に共感してくれた近藤局長に感謝してるんです。同じ歳だし、親しみを感じるからどうしても上司だとは思えないそうです。もちろん良い意味です。決して横柄な態度を取っている訳じゃないんです。分かって頂けませんか?」
近藤は驚き、目を更に見開いた。
「千代殿、そうなのか?」
「そ、そうだよ!だから、私としてはもっとこう……気さくにあんたと仕事がしたいのさ」
視線は泳ぎ、口調も辿々しい。いつもは勝気で物怖じしない彼女の意外な一面を目の当たりにして、近藤は驚きと感心が混ざったような表情を浮かべた。
「そうか……。誤解していてすまなかった」
「い、いや。私の方こそ今まで申し訳なかったね」
二人は顔を見合わせて恥ずかしそうに微笑んだ。
(仲直りしたカップルかよ!)
二人の様子があまりに微笑ましく、勇美は笑いが込み上げるのを必死に堪えた。すると、近藤が真面目な表情に戻って言った。
「ところで千代殿、豊臣秀吉を地獄へ送るという目的は果たしたが、このまま補佐隊員を続けるのか?」
「その事なんだけどね……」
千代はため息を吐いた。勇美が尋ねる。
「どうしたの?」
「仇を討ったはずなのに、何だかすっきりしないのさ」
すかさず近藤が口を開いた。
「千代殿、それは仇討ちからは何も生まれないからだぞ」
「……どういうことだい?」
「わしは主君の仇を討った忠臣蔵に憧れておる。だから、豊臣秀吉に対するおぬしの思いに深く共感する。だが、本当に大事なのは仇討ちを成し遂げることではない。その後、その辛い経験とどう向き合っていくかが重要なのだ」
千代はうつむいたまま黙っている。
「わしは千代殿にそれを分かって欲しかったのだ。だが、言ったところで理解してもらえるとは思えなかった。だから、千代殿が自分で気づくのを待っておった」
千代はハッとして言った。
「そうだったのかい……」
「今すぐに答えを出さなくても良い。じっくりと考えてまたわしに考えを話してくれるか」
近藤が優しく言うと千代は首を横に振った。
「いや、私はここに残る。補佐隊員を続けるよ」
「えっ?天国に行かなくていいの?」
「ああ。どうやらこの仕事にやり甲斐を感じ始めたようでね。何より、生前に同じような思いをした死者の為に何かしてやれるのはこの私しかいないと思ったのさ。声を掛けたり、納得がいかないことがあれば相談にものってやりたい」
「千代さん……」
「それに、せっかく勇美が気を遣ってくれたんだ。近藤さんの言う通り、これからはきちんと死者を敬ってもっと丁寧に仕事がしたい。それから、近藤さんはもちろん皆と仲良くやりたいんだよ」
微笑む千代の姿に勇美は自身の心が温かくなるのを感じた。
「千代殿。おぬしの気持ちはよく分かった。千代殿のいつも物怖じせず堂々としているところはわしも見習わねばと思っておった。だから補佐を続けてくれるのは嬉しい。改めてこれからもよろしく頼むぞ」
「そう言ってくれるとやり甲斐があるってもんだよ。こちらこそこれからもよろしく。近藤さん」
千代は差し出された近藤の手を強く握り、二人は固い握手を交わした。すると、それまで黙っていたたかむらが口を開いた。
「近藤局長、私から報告があるのですがよろしいでしょうか」
「何だね?」
「実は今回の蘇りの最中に予期せぬことが起こりまして」
「どういうことだね?」
近藤が険しい顔をしてたかむらに尋ねた。たかむらは徳川の間者が騒動に乗じて秀頼を暗殺しようとしていたこと、それを防いだことを報告した。近藤は「うむ」と唸って腕組みをしたまましばらく考え込んでいた。
「おぬしはその件についてどう考える?」
たかむらは近藤の顔を見つめた後、淡々と言った。
「今のところ何とも言えません。未遂に終わったから資料に残っていないだけで実際にあった可能性もあります。もう少し様子を見た方がよろしいかと」
「うむ。そうだな。また何かあれば報告を頼む」
「承知致しました。では、私は現世に戻ります。千代殿、勇美殿。少々宜しいか」
「えっ何?」
勇美と千代が眉をひそめながらたかむらの後に続いて部屋から出た。庭に降りる前にたかむらは目を逸らしながら静かに呟いた。
「……千代、解雇は撤回だ。引き続き近藤局長の補佐を頼む」
「そうかい。それなら良かったよ」
「それから勇美」
「何?」
「……よくやった」
「えっ?」
勇美は咄嗟にたかむらの顔を見た。その頬は真っ赤に染まっていた。
「たかむら……?」
彼の意外な一面を目の当たりにして、勇美は呆気に取られていた。隣の千代も目を丸くしている。
「……俺は現世へ戻る。もし蘇りが必要な任務が発生したら千代か近藤局長に付き添いを頼め」
たかむらは気まずそうに目を逸らすと続けた。
「近藤局長も蘇りができるの?」
「ああ。本来は局長の仕事ではないんだがな。人手が足りなくてそうも言ってられない」
「そっか。分かった」
「……後は頼む」
「はーい!」
「はいよ。私に任せな!」
千代はそう言いながら羽織の袖をまくって勝気な笑みを浮かべた。
たかむらは庭に降りると、池の横にある井戸の蓋を開け、梯子をつたって降りて行った。
「あいつ、アタシのこと褒めたよね?」
「ああ。あのたかむらが誰かを褒めるなんて珍しいことさね」
「そうなんだ……」
すると、千代が遠慮がちに言った。
「あんたに謝らなきゃならない事がある。私が近藤さんを怒らせた所為であんたの身を危険に晒した。本当に申し訳なかったね……」
「全然大丈夫だよ!気にしないで!」
勇美は慌てて首を振って微笑んだ。千代は安心したように続けた。
「それに……あんたのおかげで辞めずに済んだし、心を入れ替える事も出来た。近藤さんとも和解できたしね。本当にありがとうね」
「ア、アタシは何もしてないよ!でもそう言って貰えて嬉しいよ」
その後、勇美は思わずふっと笑った。
「……ってかあいつ!顔真っ赤にするとかツンデレかよ!」
「つんでれ……?」
首を傾げる千代を他所に、赤面したたかむらの顔を思い出して勇美はしばらくの間クスクスと笑っていたのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ハピネスカット-葵-
えんびあゆ
キャラ文芸
美容室「ハピネスカット」を舞台に、人々を幸せにするためのカットを得意とする美容師・藤井葵が、訪れるお客様の髪を切りながら心に寄り添い、悩みを解消し新しい一歩を踏み出す手助けをしていく物語。
お客様の個性を大切にしたカットは単なる外見の変化にとどまらず、心の内側にも変化をもたらします。
人生の分岐点に立つ若者、再出発を誓う大人、悩める親子...多様な人々の物語が、葵の手を通じてつながっていく群像劇。
時に笑い、たまに泣いて、稀に怒ったり。
髪を切るその瞬間に、人が持つ新しい自分への期待や勇気を紡ぐ心温まるストーリー。
―――新しい髪型、新しい物語。葵が紡ぐ、幸せのカットはまだまだ続く。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
南部の光武者
不来方久遠
キャラ文芸
信長が長篠の戦に勝ち、天下布武に邁進し出した頃であった。
〝どっどど どどうど どどうど どどう〝十左衛門と名付けられたその子が陸奥の山間で生を受
けたのは、蛇苺が生る風の強い日であった。透き通るような色の白い子だった。直後に稲光がして
嵐になった。将来、災いをもたらす不吉な相が出ていると言われた。成長すると、赤いざんばら髪
が翻り、人には見えないものが見える事があるらしく、霊感が強いのもその理由であったかも知れ
ない。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる