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第六章 過去

第三十八話

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その日、勇美は元春、ハナ、うたじろう、良順と共にパワハラで病気になり死んだという死者の事実確認のために平安時代へ向かっていた。(千代は霊界で近藤の補佐を担当中)永眠録によれば季節は真冬とのことで、一同は和装わそうに合う防寒着を羽織り、手袋や耳当てなども持参していた。

近藤は「蘇りをするにしては人数が多過ぎる」と言ったが、たかむらから「団結力を乱すな」と言われて以来、勇美はその指示をかたくなに守り続けていた。

(たかむらはきっと意味があってアタシにあんなこと言ったんだ。厩戸さんの言うことも気になるし、近い内にこの霊界で何か大変なことが起きるのは間違いない)

その「大変なこと」が一体何なのか、勇美には見当けんとうがつかなかったが、とりあえずたかむらの言いつけは守っておくべきだと思ったのだ。

(あいつのことが嫌いなのは変わらないけど今は友達みたいな……?)

勇美はそう思いながらフッと口元を緩めた。

「勇美殿、どうされました?」

「何でもない!それよりうたじろう、今から行くのってもしかしてたかむらがいる時代?」

「はい。もしかしたらお仕事をするたかむら殿のお姿が拝見はいけんできるかもしれません」

「たかむらさんのいる時代ってマジ?!」

突然、良順が割って入って来た。彼は現世から戻って来て仕事を再開した後、それまで着ていたパーカーとスタジャンを処分。桃色の着流しと隊服である羽織を着るようになった。

「うわ!いきなり入ってこないでよ!」

「ハハハッ!ごめんごめん!たかむらさんが現世でどんな仕事してんのか気になってさ!」

「ボクも気になります」

「確かに興味があるわね」

元春とハナも会話に加わる。元春はあれから女子と男子の服装を自由に楽しんでいた。この日は着流しではなく帯をしっかり締めて女子の服装をしている。

「たかむらって確か政治家なんだよね?具体的にどんな仕事してんのか、うたじろうは知ってる?」

勇美の質問にうたじろうが少し考えながら答えた。

「たかむら殿は『参議さんぎ』という職にかれています。そうですね……勇美殿や良順殿の時代でいうと国務大臣こくむだいじんのような地位です」

「大臣?!めっちゃお偉いさんじゃん!」

良順は仰天したが、勇美はいまいちピンと来ず、眉をひそめた。

「エリートなのは分かったけど具体的にどんな仕事してんの?」

宮中きゅうちゅうまつりごとに参加して政策せいさくなどを決めるお仕事です。平安時代の貴族は細かく官職かんしょくくらいが設定されていますが、中でも議事ぎじ参画さんかくできるのはほんの一握ひとにぎりの官職かんしょくだけなのです」

「何か良く分かんないけど、つまり国内の重要な事を代表で決めてるって事だよね。たかむらってそんなスゴい奴だったんだ……」

「たかむら殿は昔、遣唐使けんとうしの任務に就いたこともあるのですよ」

「遣唐使……もしかして、たかむらが小野妹子おののいもこ子孫しそんだからかしら?」

「その通りです。ハナ殿、よくご存じですね」

「たかむらさんって小野妹子の子孫なの?!すげー!」

良順が驚いて声を上げると、勇美が尋ねた。

「その名前聞いたことある!子がつくけど女じゃないんだよね?」

「そうね。れっきとした男性。小野妹子は遣隋使けんずいしよ。因みに遣隋使を作ったのは厩戸皇子。小野妹子を最初の遣隋使に任命したのも彼よ」

ハナがしっぽを上げて得意気に語ると勇美が感動して呟いた。

「たかむらと厩戸さんってそういうところも繋がってるんだ……!」

「遣唐使と遣隋使……って何だっけ?」

元春が首を傾げたので、ハナがため息を吐きながら言った。

「もう元春ったら!この間一緒に書物を読んだじゃない。ずいとうっていうのはね、中国のことよ。当時、日本では文化とか技術とか制度とか中国の色々なものを学んでいたんだけど、その為に実際に中国へ行った人達がいたの。それが遣隋使と遣唐使よ。遣隋使の方が先だけどね」

「ハナちゃん、ただのモフモフワンコじゃないじゃん!すげー!」

良順の言葉にハナは少しだけムッとした顔をした。

「ただのモフモフワンコだなんて失礼しちゃうわね。これでも補佐隊員としてしっかり勉強してるんだから」

「ご、ごめんごめん!そんなに怒らないでよ!」

その時、ハナがふと思い出したように言った。

「確かたかむらの時代の遣唐使は失敗続きで中国までは行けなかったと書いてあった気がするわ。うたじろうは他に何か知ってるの?」

うたじろうはまた少しだけ考えた後に答えた。

「あとは直接たかむら殿に尋ねた方がよろしいかと」

「遣唐使ってそんなに失敗するものなの?」

勇美の疑問に良順が言った。

「当時は今みたいに航海技術が発達してないからね。時間もかかるし、船も超アナログだしさ!きちんと辿り着ける方が奇跡だったんじゃない?」

そうこうしている内に道の先に出口が見えて来た。時刻は昼間だが、空は厚い雲におおわれ粉雪がチラついていた。あまりの寒さに勇美は叫んだ。

「寒っ!こんなに寒さ感じるの久々過ぎてびっくりなんだけど!」

「手袋とか持って来て良かったよね~!ってか元春めっちゃカワイイ!」

良順は元春の姿を見て嬉しそうに微笑んだ。元春は橙色の耳当てと手袋を装着しており体型が小柄な為かまるで幼児のように可愛らしい雰囲気だ。

「えっ?そ、そうですか……?で、でもハナちゃんとうたじろうさんが着てるのも温かそうで良いですよね」

ハナは白、うたじろうは黒の毛糸で出来た洋服を身につけていた。これはハナとうたじろうの為に山崎が手編みをした品だ。

「最初は近藤局長が自分で編んでたらしいんだけど、結局出来なくて山崎さんに頼んで編んでもらった物なのよ」

「ええっ?!このセーターにそんなエピソードがあったなんて!」

「近藤局長が編み物とか……意外過ぎてウケるんだけど!」

良順がゲラゲラと笑い出したので、うたじろうが遠慮がちに言った。

「良順殿、そんなに笑っては近藤局長に失礼ですよ。確かに編み物をしている姿など見た目からはとても想像できませんが……」

「それな!」

***

大きな屋敷が立ち並ぶ一角に一同は立っていた。

「ここがたかむらさんのいる平安時代か~!」

「良順、目的はたかむらじゃないよ!」

勇美のツッコミに良順は慌てて舌を出した。

「そうだった!ついつい!」

「もしかして良順、たかむらのこと好きなの~?」

勇美が良順をからかうようにニヤニヤとしながら言った。

「ちょ!んなワケないでしょ!つーか、もし仮にオレがたかむらさんに片想いしてたとして告ってもさ、絶対『誰がお前みたいな軽い奴好きになるんだ?』とか冷たい感じで言われそうなんだけど!」

「あははは!確かに~!たかむら辛辣しんらつ~!ウケるんだけど!」

勇美が腹を抱えて大笑いし、良順もそれに釣られて大爆笑。何ともだらけ切った雰囲気にいらついたハナが「ワン!」と吠えた。

「もう!いつまで遊んでるつもり?!私達は任務に来たんでしょう?!」

「うわっ!ハナちゃん、ごめんなさい……」

「オレもふざけ過ぎた。ごめん……」

勇美と良順はシュンとして素直に謝った。

「分かったのなら良いけど。さっ、行くわよ」

ハナは元春とうたじろうを連れてさっさと歩き出してしまった。そのたくましい後ろ姿を見ながら勇美は良順に言った。

「ハナちゃん、たかむらみたいじゃない?」

「うははは!それな!」
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