33 / 49
第四章 友情
第三十三話
しおりを挟む航を見送った良順が裁きの間に戻ると、近藤が出迎え、声を掛けて来た。
「良順殿。たかむらから聞いたぞ。おぬしが医者を目指していた理由がまさか友を助ける為だとはな。友を救いたいと行動を起こす。思うことは簡単だが、行動に移すことはなかなか出来ん。それに悪を絶対に許さないという高須に対する毅然とした態度もな。わしは少々おぬしのことを誤解していたようだ。その純粋な心と大胆な行動力。わしもぜひ見習いたいものだ」
微笑みを浮かべ力強い眼差しで自分を見つめる近藤に良順は驚きを隠せなかった。
(えっ?近藤局長ってこんな人だっけ?オレの名前にテンション上がって新選組の話で盛り上がった時は話やすい人だなとは思ったけど……)
「まさか近藤局長に仕事のことで褒められるとは思わなくてびっくりなんすけど」
鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしている良順を見て近藤は愉快そうにワハハと笑い、彼の肩を優しく叩いた。
「おぬしはあの松本良順殿の名を継ぐ者。必ず良きものを持っている。花開く時が必ず来る。そうわしは信じておったのだぞ」
強い期待が込められた近藤の熱い眼差しに胸が熱くなった良順は、力強く言った。
「近藤局長……。ありがとうございます。オレ、補佐隊員頑張ります!」
その直後、うたじろうが数人を連れて入って来た。勇美はその時たかむらと仕事の話をしていたが、見慣れたその人物達を見て嬉しそうに声を上げた。
「あっ!元春くん、ハナちゃん、千代さん!」
勇美が彼らの元に駆け寄る様子を見て、良順は躊躇った。
(オレ全然会ってないからビミョーな顔されるかも……千代さんなんか『どこ行ってたのさ!サボってんじゃないよ!』とか怒鳴って来そうだし……)
うつむいてしばらく迷っていた良順は顔を上げた。
(……いや、こういう時こそオレの人懐こさを発揮するべきじゃん!)
自分に言い聞かせると、良順はいつもの笑顔を浮かべて彼らの元へ駆け寄った。
「チーッス!千代さん!久々っすね⭐︎」
すると、千代はとても嬉しそうに微笑みを浮かべてこう言った。
「良順が戻って来たってうたじろうから聞いて、急いで書庫から出たんだよ。本当はもっと早く戻るつもりだったんだが、調べものが予想以上に長引いてね。久しく会わなかったからあんたの顔忘れるとこだったよ!」
先程、近藤に声を掛けられた時以上に良順は驚いた。
(あれ?千代さん全然怒ってない……ってかめっちゃ嬉しそうに笑ってね?こんな人だっけ?)
「マ、マジっすか!忘れられてなくて良かったー!っつーか千代さん、なんかキャラ違くないっすか?」
「……きゃらって何だい?」
「えーっと……人柄とか性格のことっすよ!オレてっきり『どこ行ってた?!怠けてんじゃないよ!』って怒られるかと思ってもうめっちゃドキドキしてたんすよー!」
千代は目を丸くした後、楽しそうにケラケラと笑いながら言った。
「私はあんたの中でそんな鬼みたいな人間になってんのかい。確かにどこ行ったのかとは思ってたけどね、無事に戻って来てきちんと任務を遂行したんだからいいじゃないのさ。任務についてはうたじろうからちょっと聞いたよ。後で詳しく聞かせておくれよ」
「りょーかいっす!って、うたじろう。オレのことわざわざみんなに知らせてくれたの?」
「はい。皆さんも良順殿にお会いしたいのではないかと思いまして」
「うたじろう!めちゃくちゃ気がキク~!」
良順はホッと胸を撫で下ろすと隣にいる元春(この日は男装中)に目を向けた。
(やっぱ元春はかわいいな。オレの癒し系アイドルだわ。ってか表情がちょっと頼もしくなってるような……)
不思議に思いながら良順は声を掛けた。
「元春!ひっさしぶり~♪」
「良順くん、ひさしぶりですね!」
良順は自分の胸ぐらいまでしかない元春の頭を優しく撫でると、その隣にいるハナに気付いて言った。
「そのワンコは?」
「私はハナ。現世で元春に飼われていたの。この間、霊界に来たばかりよ。今は元春と一緒に補佐の仕事をしてるの」
「えっ?!言葉喋れんの?!すっげー!うたじろう、良い仲間出来たじゃん!」
「は、はい、そうですね」
「オレは森久保良順!よろしくね☆やっべ~超もふもふじゃ~ん!」
良順はハナの顔を思い切り両手で撫で回した。ハナは思い切り顔面を歪めるとワン!と鳴いて威嚇した。
「ちょっと何するのよ!気やすく触らないでちょうだい!」
「うっわ、こえ~!ごめんね!」
良順は慌てて両手を引っ込めると苦笑いをしながら言った。
「良順くん、ごめんなさい。ハナちゃんは気が強くてとてもしっかり者だから……」
元春が申し訳なさそうにそう言いかけたが、勇美は素早くツッコミを入れた。
「良順。今のあんた、年上のお姉さんに気やすく声かけて怒鳴られた年下のチャラ男みたいだったからね!」
千代とうたじろうが吹き出した。良順は苦笑いをして頭を掻いた。
「ハハハッ!ホント勇美ちゃんにはかなわないや~!」
(そっか。元春は相棒が出来たから顔つきが変わったんだな)
その時、良順はハッとした。
(みんなが変わったのってもしかして勇美ちゃんが来たから?まぁオレも勇美ちゃんのおかげで色々気づけたしな……)
仲良く笑い合う勇美と補佐隊員達の様子を眺めながら、良順は静かに微笑みを浮かべたのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
千里香の護身符〜わたしの夫は土地神様〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
ある日、多田羅町から土地神が消えた。
天候不良、自然災害の度重なる発生により作物に影響が出始めた。人口の流出も止まらない。
日照不足は死活問題である。
賢木朱実《さかきあけみ》は神社を営む賢木柊二《さかきしゅうじ》の一人娘だ。幼い頃に母を病死で亡くした。母の遺志を継ぐように、町のためにと巫女として神社で働きながらこの土地の繁栄を願ってきた。
ときどき隣町の神社に舞を奉納するほど、朱実の舞は評判が良かった。
ある日、隣町の神事で舞を奉納したその帰り道。日暮れも迫ったその時刻に、ストーカーに襲われた。
命の危険を感じた朱実は思わず神様に助けを求める。
まさか本当に神様が現れて、その危機から救ってくれるなんて。そしてそのまま神様の住処でおもてなしを受けるなんて思いもしなかった。
長らく不在にしていた土地神が、多田羅町にやってきた。それが朱実を助けた泰然《たいぜん》と名乗る神であり、朱実に求婚をした超本人。
父と母のとの間に起きた事件。
神がいなくなった理由。
「誰か本当のことを教えて!」
神社の存続と五穀豊穣を願う物語。
☆表紙は、なかむ楽様に依頼して描いていただきました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
高貴なる人質 〜ステュムパーリデスの鳥〜
ましら佳
キャラ文芸
皇帝の一番近くに控え、甘言を囁く宮廷の悪い鳥、またはステュムパーリデスの悪魔の鳥とも呼ばれる家令。
女皇帝と、その半身として宮廷に君臨する宮宰である総家令。
そして、その人生に深く関わった佐保姫残雪の物語です。
嵐の日、残雪が出会ったのは、若き女皇帝。
女皇帝の恋人に、そして総家令の妻に。
出会いと、世界の変化、人々の思惑。
そこから、残雪の人生は否応なく巻き込まれて行く。
※こちらは、別サイトにてステュムパーリデスの鳥というシリーズものとして執筆していた作品の独立完結したお話となります。
⌘皇帝、王族は、鉱石、宝石の名前。
⌘后妃は、花の名前。
⌘家令は、鳥の名前。
⌘女官は、上位五役は蝶の名前。
となっております。
✳︎家令は、皆、兄弟姉妹という関係であるという習慣があります。実際の兄弟姉妹でなくとも、親子関係であっても兄弟姉妹の関係性として宮廷に奉職しています。
⁂お楽しみ頂けましたら嬉しいです。
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる