正夢

星名雪子

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あとがき

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小説としてはお久しぶりでしょうか、星名雪子です。「正夢」を最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この作品は約10年前にスピッツの「正夢」という曲を聞き、インスピレーションを受けて途中まで書いた小説をブラッシュアップして完成させたものです。

あくまでも私の解釈かいしゃくですが「正夢」は喧嘩けんかやすれ違いなどで距離を置いている、もしくは別れてしまった恋人のことをずっと夢に見ており「いつかこの夢が正夢になって欲しい」と願っている曲です。

私自身、よく正夢を見るので初めて聞いた時からこの曲には親近感を覚えていました。趣味で小説を書くようになってからインスピレーションを感じた楽曲を元に小説を書くといったことを度々行っており、この曲もその内のひとつです。

元々「相手は現実の恋人ではなく、夢の中でしか存在しない恋人」という設定で書き進めていましたが、夢をテーマにしたファンタジーではあるものの何度か読み返している内に単純でありきたりなラブストーリーになってしまっていると感じ、ブラッシュアップをする必要があると思うようになりました。しかし、アイデアが全く思い浮かばずそのままずるずると10年も経ってしまい、書きかけのファイルを開くこともなくなってしまいました。

しかし、つい最近、自分の中でスピッツブームが巻き起こり(このブームは私の中で定期的にやって来ます)ライブ映像作品を買い漁って鑑賞していたところ、久しぶりに「正夢」に出会ったのです。曲がリリースされたのは2004年ですが、それは発売から16年後のパフォーマンスで、メンバーが年を重ねた故の奥深さ、優しさが溢れておりとても感動しました。その瞬間スピッツの他の曲を元に登場人物を作ること、また曲のイメージを作中に散りばめることなど次々にアイデアを思いつき、ほぼ勢いだけで初稿しょこうを書き終えました。

実は当初、渚とハヤテが出会うキッカケは「信号機のない横断歩道を渡っていた渚が、車にはねられそうになったところハヤテが救出」という内容でした。しかし、後で「前作と設定が丸被り」なことに気付き「火事」に変更したところ、かなり物騒ぶっそうな内容になってしまったのでどうしようか悩んでいたところ、ミステリーにしたらどうなる?と思いついたのです。

ミステリーはずっと挑戦してみたいジャンルではありましたが、トリックなど構成が難しそうで何となく避けていました。本格的なミステリーではないのでかなり雑なところ(手帳の内容=証拠とするには信ぴょう性に欠けるとか、調査員が焼け跡に入るのが早すぎるとか)がありますし、後で読み返してみて中弛なかだるみしていてつまらないとも思い、もう少し時間をかけて練ったり工夫すれば良かったなと後悔しました。やはり勢いだけで書いてはいけないという教訓になりました。せっかちの欠点です笑

とはいえ、思いがけずミステリーに挑戦することができ、次は本格的なものを書いてみたいと本気で思うようになりました笑

当初、楓は思い切り悪役ポジションで(渚が火事に巻き込まれる原因を作ったので結果的に悪役にはなりましたが)渚に対して暴力をふるったりもっと酷い暴言を浴びせたりする所謂いわゆる「クズキャラ」でした。しかし、繊細せんさいで美しいスピッツの曲から名付けたキャラを「クズ」にすることに激しく葛藤かっとう躊躇ちゅうちょしてしまい結果的に「悪意のない悪役」という不思議なポジションになりました。

ドラマ化されたみなとかなえさんの「リバース」というミステリー小説があります。私は小説は読んでいないのですが、ドラマを見ており「正夢」の結末を書き終えた後に何となくリバースの結末を思い出しました。ネタバレになってしまうので詳しいことははぶきますが、あの作品も「悪意のない犯罪」がテーマになっているからです。

「悪意のない犯罪」といえば昭和を代表するミステリー作家、江戸川乱歩えどがわらんぽの作品にもあるテーマです。私は昭和の文豪の中で夏目漱石なつめそうせきと江戸川乱歩が好きなのですが、特に乱歩のミステリー小説はそうした人間心理を上手く利用した作品が多く読む度に「人間の怖さ」を感じ、とても考えさせられます。今回の作品に乱歩のテイストを直接盛り込んだところはありませんが、影響されていることは確かだと思います。

ファンタジーの要素である「夢」に関しては「明晰夢めいせきむ」を彷彿ほうふつとさせる場面を書きました。「明晰夢」とは「自分は夢を見ている」と自覚しながら見る夢のことです。つまり、夢の中を現実と同じく自分の意志で自由自在に動き回ることができるのです。

渚が「昔見たことがある」と言っていた映画は「インセプション」レオナルドディカプリオ主演、クリストファーノーラン監督の大ヒット作品です。渡辺謙が重要な役で出演していることもあり、日本でも話題になりました。私はこの映画がとても好きなので、ミステリーの他もうひとつの大事な要素である「夢」をテーマにしたこの作品で少し取り入れてみました。

私はこの映画の結末が好きなのですが、最終話のある場面でそれをオマージュしてみました。少し分かりづらいかもしれませんが、映画を観たことがある方はぜひその箇所を探してみて頂けたらと思います。

作中では渚がすぐに夢の中で自由に動いていますが、明晰夢は実はそんなに簡単にできるものではありません。映画の中でもそれなりの訓練を積み、そのテクニックを会得えとくしています。この作品でも本当は映画のように渚が明晰夢を見られるようになる過程を詳しく描きたかったのですが、長くなってしまうこととあくまでもミステリーがメインなので内容がとっ散らかってしまうと思い、その過程はやむを得ず省略しました。今後、機会があれば違う作品で書いてみたいと思っています。

私自身、夢に関して特別な思いを持っています。何故なら冒頭で書いたように過去に見た夢が正夢になる事が多いからです。一番鮮明に覚えているのは、夢に登場した知らない人達が後に派遣社員として入職する会社の先輩達だったという夢です。その会社は某感染症が流行した際、業績悪化による人員削減で退職に追い込まれましたが、それも昔夢で見た内容と酷似こくじしていました。

また、元夫と出会う前に既に夢の中で出会っていたということもありました。派遣切りに合う夢と元夫と出会う夢の事は今まで忘れていましたが、この作品を書いた後にたまにつけている夢日記を読み返してとても驚きました。渚とハヤテのような事が自分の身にも起こっていたのです。

この物語はあくまでフィクション、ファンタジーですが、そうした私自身の不思議な体験がベースになっています。つまり何が言いたいかというと「正夢」は完全なファンタジーとは言い切れず、現実に起こる可能性が充分にあるということです。夢とはとても不思議なもので、そのメカニズムは未だに解明されていない事が多いようです。

登場人物に関してはスピッツ関連と共に別記事の方に詳しく書きましたので、興味のある方はそちもご覧ください。
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