上 下
2 / 5

第一の「たまたま」

しおりを挟む
私には「過集中」という特性がある。長時間、集中して作業をしていると疲れが一気に出て体調が悪くなったり眠くなったりという症状が出る。(眠くなるのは過眠症という睡眠障害の影響もある)

その特性への配慮で1時間に1回5分~10分の休憩を取ることが許可されている。とはいえ、1時間に1回の頻度で休憩をしてしまうと作業が進まないのと、周りの目も気になる。幸いなことに私の職場にはそのようなことで文句を言ってくるような人はいないので気にする必要はないのだが、私自身、周りの目を過剰に気にしてしまう性格なので午前中と午後にそれぞれ1回づつ取ることにしている。

私の会社は綺麗なオフィスビルの中にあり、トイレやエレベーターホールといった共有スペースを始め、室内はとても綺麗だ。が、会社内にある休憩スペースはとても狭くて一度に入ることができる人数は2人までと決められている。しかも、椅子は大きなソファがひとつだけ。つまり2人で入室するとソファに2人で並んで座らなければならない。人と話すことが好きな人は気にならないかもしれないが、私にとってはそれほど仲良くもない人と狭い空間に並んで座るというのは苦痛以外の何ものでもない。他の社員も空気を読んで休憩室に誰もいないのを確認して休憩を取っているし、私もそうしている。

その日は冒頭に書いた係長の一件で朝からドタバタしていたのと、ダブルチェックで見つかったミスの修正作業に没頭していたので周りの社員が休憩を取るタイミングを見逃してしまった。すると、ちょうどその時、外回りから新人の女性社員が帰社し、昼食を取るために休憩室に入った。その社員の休憩が終わるのが1時間後。私がいつも取っている午後の休憩時間と丸かぶりだった。

「仕方ない。時間をずらすか」と思っていたら、女性社員が休憩室から出て来て「星名さん、休憩室入って来ても大丈夫ですよ」とわざわざ声を掛けてくれた。彼女は中途入社して1.2ヶ月の若い営業社員なのだが、私がいつ休憩に入っているのかをきちんと把握してくれていたのである。その心遣いに心が温かくなった。

しかし、ろくに話をしたことがない人とソファに並んで座るという状況を考えると、気楽に休憩を取れるとはとても思えなかった。むしろ休憩に入ると気を遣ってしまい余計に疲れてしまいそうだ。複雑な気持ちになったが、「ありがとうございます」と素直にお礼を言った。

その後、結局、休憩室には入らずトイレに行き一息をついた。5分~10分ぐらいならトイレにいてもサボりだと思われることはないだろう。現に離席する度に10分ぐらい戻って来ない社員もいるのだ。休憩室に入らなかったことで彼女はもしかしたら「私のことが嫌いなのかな?」と思ったかもしれない。そうだとしたら大変申し訳ないので「違う違う、そうじゃない~」と今流行りの言葉で弁解をしたいところ。(たぶんドン引きされる)

逆に彼女に私の方が嫌われていないか不安になる。そうではないことを祈るしかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村上春樹「街とその不確かな壁」を読んで発達障害者として思うこと。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
今年の春に発表された村上春樹の新作「街とその不確かな壁」この作品にはサヴァン症候群の少年が登場します。彼は主人公ではありませんが、物語において重要な役割を果たします。 同じく現実に生きづらさを抱えている身として彼にとても共感し、また、物語の一キャラクターとしてとても好感を持ちました。この少年にスポットライトを当て、感想を綴りました。 ※本編のネタバレ含みます。作品未読の方は充分にご注意ください。

私が「子供を産まない」という選択をしたワケ。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
発達障害、精神疾患を持っている者として、最近改めて深く考え、感じたことを綴りました。

ドラマみたいな失恋を経験した話。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
私はつい最近、失恋をした。それはまるでドラマや映画のような非常にドラマチックで壮絶で悲しいものだったーー。 *** まるで悲劇のヒロインになったかのようなどうにも「女々しくて辛いよ」な内容になってしまってお恥ずかしい限りですが、明かす事で同じく辛い思いをしている誰かの為になるかもしれないという思いと、自分の気持ちに区切りをつけたいという思いを込めて赤裸々に綴りました。 1、事の発端 2、驚愕の真実 3、立ちはだかる「障害」の壁 4、まだ見ぬ結末 5、HYの「366日」 全5話で長いですが、ぜひ最後まで読んで頂けたら幸いです。

発達障害当事者の私が障害者雇用で3ヶ月働いて思うこと。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
障害者枠で一般企業に勤めて早くも三か月。その中で思ったことなどを綴っています。 1、障害者雇用に関して 2、今の私にとって通勤は働くことよりも苦行 二本立てです。

病院で発達障害(アスペ)と診断されたが、ポジティブに受け止めた話。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
約30年間生きてきた私が今頃になって発達障害と診断された話です。結果的にポジティブな話になっているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。ちょっと長いですが……

発達障害者の周囲との関わり方や公共の場に出る時の話。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
発達障害者は周りとの関わり方にもかなり苦労します。例えば、様々な刺激がある公共の場に足を踏み入れた時にストレスを軽減する方法や、周囲への理解の深め方などを綴りました。

発達障害(アスペ)が一番苦手なのは人付き合いだという話。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
発達障害関連エッセイ第2弾です。 発達障害(アスペ)には様々な特性がありますが、今回は一番苦手な人付き合いについてのお話。

「離婚するという事は経験値が上がる事」と友人は言った。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
最近、離婚して独身に戻りました。思ったことや離婚後に障害者がやらなければならないことなど赤裸々に綴っています。 1、離婚の原因 2、夫の浮気疑惑 3、レス夫婦 ※ 4、手続きについて 5、一ヶ月が経って思うこと 6、唯一後悔していること 7、今後の活動について 全部で7本あります。※印については露骨な表現や話はありませんが、性生活についての内容なので苦手な方は閲覧の際ご注意ください。(R指定ではありません)

処理中です...