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宇多田ヒカルの曲はどうしてこんなに心に響くのか?という話。
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新作をリリースしたばかりの彼女。私もアルバムを買ったのだが、聴いている内に昔の曲が聴きたくなった。アルバムやベスト盤を引っ張り出して久しぶりに聴いてみたところ、彼女の歌声と歌詞に改めて胸を打たれたのだった。
そこでこの疑問が生まれたのだ。何故こんなに彼女の曲は心に響くのだろう?と。曲を聴きながら色々考えたこと、大人になってから気づいたこと、当時の思い出話などを曲別に綴っていこうと思う。
・Automatic
当時、彼女は15歳。中学3年生か高校1年生だ。私は彼女よりも少し年下なのでこの時まだ中学生になったばかりだったと思う。が、自分とはそんなに年の変わらない女の子がこんな曲を自分で作って歌うなんて……と度肝を抜かれたのを覚えている。当時は今のようにスマホで音楽を聴くような時代ではなかった。CDやラジオの音声をカセットテープかMDに録音する時代。純粋で素直な歌詞とビブラートがかかった瑞々しい歌声に心を打たれた私は、彼女の曲をカセットやMDに録音してリピートするようになった。今では伝説化している彼女の1stアルバムももちろん何度も聞いていた。この曲は今でもカラオケに行くと必ず歌う、大好きな曲である。
・First Love
多くのアーティストにカバーされている彼女の代表曲だ。当時まだ中学生~高校生の女の子がこんなに大人なラブソングを書けるのか!と、Automaticの時以上に衝撃を受けた。しかも、歌われているのはAutomaticのような初々しい恋ではない。タイトルは日本語にすると「初恋」だが、その失恋の痛みを歌った曲なのだ。おまけに「たばこのフレーバ―」という歌詞まで登場する。ここから分かることは主人公が失恋した相手が「大人」だということだ。大人の恋愛と失恋を歌った曲なのか。それとも大人の男性との恋愛が終わった女の子(少女と書くと色々あれなので)なのか。それは聞き手の想像力に委ねられている。発売から20年以上経った今でも心に染み渡る名曲だ。
・Addicted To You
この曲は先程あげた2曲に比べると知名度は低い。だが、私は大好きな曲だ。何故かというと、心を鷲掴みにされるような強い切なさに襲われるからだ。それは一体何故なのかよく分からなかった。が、先日料理をしながら久しぶりにこの曲を聴き、ようやくその理由に気が付いたのである。
序盤では「別に会う必要もないし、電話だってする必要ない。むしろ電話代かさんで迷惑してるんだから」と少しツンケンした態度が続き、「会えないからって別に死ぬわけじゃないし」とか言う。しかし、その直後のサビで「だけどそれじゃ苦しい!毎日会いたいの!」と突然、本音が爆発するのだ。つまり、この主人公の女の子は「本当は彼のことが大好きなのに強がっている」のである。これぞまさに「ツンデレ女子の曲」である。
私が何に気づいたのかというと、本音からサビになるところだ。サビというのは曲において一番盛り上がる箇所。そこに上手く本音を乗せることによって多大なインパクトが生まれるのだ。「サビで一気に感情を爆発させる」だからこそ、ぎゅっと胸が鷲掴みされるような感覚に陥るのだ。このカラクリに気づいた時、思わず鳥肌が立った。それと同時にますます彼女の生み出す曲の凄さが分かったのだ。さすがは天才・宇多田ヒカルである。
・SAKURAドロップス
これは考察というより私の思い出話だ。
当時私は高校生だった。恋愛経験は殆どなくそれまで恋とは無縁の生活を送ってきた。しかし突然、違うクラスの男子に告白されたのだ。小学生の頃、幼馴染の男子に告白されたことがあるが、それ以来だった。なので、私は俄かに浮足立った。が、お互いよく知らなかったので「お友達から始めましょう」ということになった。「告白されたのに友達からなの?」とやや不満だった私。ちょうどその日は学校祭の前日だったので「良かったら明日一緒に回りませんか?」とメールを送った。彼の答えはノーだった。結局それっきり彼から何の音沙汰もなく、私の恋はスタート地点にも立てないまま終わったのだった。
その時にヒットしていたのがこの曲だった。これは失恋ソングである。「願うのはこれが最後の失恋」的な歌詞がある。これを聞いては「私、始まる前に終わっちゃったんだな…」と複雑な思いを抱いたのだった。それ以来、この曲を聞くとあの時のことを思い出す。今となっては懐かしいちょっと苦い思い出である。
・花束を君に
彼女が亡き母の死を乗り越えて作った曲である。私は当時、伯父を亡くしたばかりだった。子供がいない伯父は私のことを実の子供のように可愛がってくれた。伯父は癌に倒れたが、生きることを最後まで諦めなかった。そんな伯父が亡くなり私はとてもショックだった。しばらくの間、立ち直れず、悲しみに沈んだ。最後に伯父に会った時、また会えるだろうと思った私は特に言葉を交わすことなく、病院を後にしてしまった。そのことをずっと悔やんでいた。「どうしてあの時声を掛けなかったのか」「元気な内にもっと感謝の気持ちを伝えれば良かった」と。
ちょうどその時にこの曲はリリースされた。彼女が亡き母に捧げた歌詞が自分と重なり、私は聴いた瞬間、号泣した。「言いたいことは山ほどある。でも神様しか知らないままなんだ」こういうような歌詞があるのだが、まさにその通りだった。それから私は毎日、伯父のために祈るようになった。もう伯父はいない。けれど、心から感謝の思いを込めればきっと伝わると信じて。
彼女もきっと母に対して色々な思いがあったのだと思う。大事な人を失った悲しみ。伝えられなかった思い。それらが彼女の歌う素直で優しい歌詞からとても伝わって来た。彼女の気持ちが良く分かったのだ。境遇は全く違うが、私は少しだけ彼女に親近感を抱いた。
この曲を聴くと伯父のことを思い出す。聴くと今でも涙が込み上げてくるのだが、伯父のことを思い出させてくれる大事な曲である。
・fight the blues
これはシングルではない。HEAT STATIONというアルバムの1番最初に入ってる曲だ。タイトルの通り、応援歌である。
著作権の都合で歌詞を引用できないが、この曲にはスタンダードな応援歌ではまず聞かないような歌詞が数多く登場する。しかし、それがまたとても彼女らしいのだ。最初から最後まで「頑張れ」という言葉は一切出て来ない。だが、全体からは前向きさ、明るさ、乗り越える勇気といったことが伝わってくる。「さぁ頑張ろう!」というよりも「何悲しい顔してんのさ!」と拳を構えた彼女に、明るく背中を叩かれるようなイメージがある。
私は一時期、スポーツジムに通っていたことがある。その時によくこのアルバムをBGMにしていたのだが、1曲目にこの曲を聴くと「さあ運動するぜ!」と気合いが入ったものだった。シングルカットしても良いのではと思うぐらい個人的に大好きな曲である。
・君に夢中
昨年末に放送されたドラマ「最愛」の主題歌だ。吉高由里子演じる主人公・真田梨央は殺人事件の容疑者にされてしまう。警察官となった幼馴染と共に家族や友人、知人といった周辺人物を巻き込みながら事件の真相を解明していくミステリーである。一見ドラマとは関係なさそうに見えるこの曲。しかし実はかなり重要な役割を果たしている。タイトルの「君に夢中」はサビの始まりでもあるのだが、この曲はそのサビから始まるパターンの曲だ。これが劇中で流れるタイミングが絶妙なのだ。ひとつ例を挙げる。
主人公・梨央と幼馴染の大輝は両思いなのだが、容疑者と警察官という関係もあってお互いの気持ちを隠している。そんな大輝が梨央に思いをぶつける場面でこの曲は流れる。
大輝が警察官になったのは、梨央の事件を解明する為でもある。想い人を救う為に人生を賭けているのだ。「君に人生を狂わされた」というような歌詞が登場するのだが、まさにその通り。だが、この曲が流れるのは大輝の場面だけではない。梨央の弟、義母、梨央の弁護士など恋愛とはまた違う場面でも流れる。つまり梨央を想う誰かの気持ちがクローズアップされた時にこの曲は流れるのだ。
ドラマが終わった後に流れるただの主題歌ではない。まさにこのドラマの為の曲なのである。「君に夢中」からは一見、恋愛をイメージするだろう。しかし、その内側には恋愛の域には収まらない人間愛が描かれている。ここにドラマの「最愛」というタイトルがリンクしてくる。
このカラクリに初めて気付いた時、私は思わず唸った。ドラマ自体も俳優陣の演技はもちろんストーリー、演出、最終回の展開まで非常にクォリティの高い良質な作品だった。ドラマの最終回は大体期待外れが多いのだが、この作品は最後まで素晴らしかった。
主題歌と作品を結び付けるというこのアイデアを、一体誰が考えたのか。それは分からない。しかし、主題歌をここまで有効活用したドラマはあまり見かけない。素晴らしいとしか言いようがない。オファーした制作側、主題歌を作った宇多田ヒカル。私はこのどちらにも心からの拍手を贈りたいのである。
今年でデビューから24年になる彼女。当時から聴いている身として感じているのは、彼女が成長して大人になるにつれ、曲も一緒に成長している、いうことだ。純粋で初々しいAutomaticから始まったが、結婚や出産、離婚、母の死などを乗り越えて、人生観を歌った曲も沢山生まれた。恋愛の域に囚われない魅力溢れる曲の数々はまさに彼女が歩んで来た人生そのものなのかもしれない。そんな彼女の曲を聴いて私も一緒に大人になった気がするのである。
彼女は英語はもちろん堪能だが、私が特に魅力を感じるのは日本語詞だ。その言葉選びが非常に素晴らしい。文学的という感じではないが、飾らないストレートな言葉から彼女らしさをとても感じるのだ。彼女が喋っているところを見たことがある人は分かると思うが、普段からあっけらかんとしているのだ。明るくてサバサバしていて……私はそんなありのままの彼女のことが好きなのだが、歌詞を見ているとそんな彼女の人柄が垣間見えるような気がするのである。
もうひとつの魅力はその歌声にある。特徴的なのは細かいビブラートだ。それが、震えるような切なさを帯びているために、歌詞の持つ繊細さや切なさがより鮮明に聞こえるのだ。ものまね番組でたまに彼女の物真似をする人を見掛けるが、大体似ていない。あの歌声を完璧に再現するのはかなり難しいということだろう。
宇多田ヒカルにしか書けない歌詞
宇多田ヒカルにしか出せない歌声
そこに彼女の曲が長い間多くの人に愛され、心を打たれる最大の理由があるのだと、私は思うのである。
そこでこの疑問が生まれたのだ。何故こんなに彼女の曲は心に響くのだろう?と。曲を聴きながら色々考えたこと、大人になってから気づいたこと、当時の思い出話などを曲別に綴っていこうと思う。
・Automatic
当時、彼女は15歳。中学3年生か高校1年生だ。私は彼女よりも少し年下なのでこの時まだ中学生になったばかりだったと思う。が、自分とはそんなに年の変わらない女の子がこんな曲を自分で作って歌うなんて……と度肝を抜かれたのを覚えている。当時は今のようにスマホで音楽を聴くような時代ではなかった。CDやラジオの音声をカセットテープかMDに録音する時代。純粋で素直な歌詞とビブラートがかかった瑞々しい歌声に心を打たれた私は、彼女の曲をカセットやMDに録音してリピートするようになった。今では伝説化している彼女の1stアルバムももちろん何度も聞いていた。この曲は今でもカラオケに行くと必ず歌う、大好きな曲である。
・First Love
多くのアーティストにカバーされている彼女の代表曲だ。当時まだ中学生~高校生の女の子がこんなに大人なラブソングを書けるのか!と、Automaticの時以上に衝撃を受けた。しかも、歌われているのはAutomaticのような初々しい恋ではない。タイトルは日本語にすると「初恋」だが、その失恋の痛みを歌った曲なのだ。おまけに「たばこのフレーバ―」という歌詞まで登場する。ここから分かることは主人公が失恋した相手が「大人」だということだ。大人の恋愛と失恋を歌った曲なのか。それとも大人の男性との恋愛が終わった女の子(少女と書くと色々あれなので)なのか。それは聞き手の想像力に委ねられている。発売から20年以上経った今でも心に染み渡る名曲だ。
・Addicted To You
この曲は先程あげた2曲に比べると知名度は低い。だが、私は大好きな曲だ。何故かというと、心を鷲掴みにされるような強い切なさに襲われるからだ。それは一体何故なのかよく分からなかった。が、先日料理をしながら久しぶりにこの曲を聴き、ようやくその理由に気が付いたのである。
序盤では「別に会う必要もないし、電話だってする必要ない。むしろ電話代かさんで迷惑してるんだから」と少しツンケンした態度が続き、「会えないからって別に死ぬわけじゃないし」とか言う。しかし、その直後のサビで「だけどそれじゃ苦しい!毎日会いたいの!」と突然、本音が爆発するのだ。つまり、この主人公の女の子は「本当は彼のことが大好きなのに強がっている」のである。これぞまさに「ツンデレ女子の曲」である。
私が何に気づいたのかというと、本音からサビになるところだ。サビというのは曲において一番盛り上がる箇所。そこに上手く本音を乗せることによって多大なインパクトが生まれるのだ。「サビで一気に感情を爆発させる」だからこそ、ぎゅっと胸が鷲掴みされるような感覚に陥るのだ。このカラクリに気づいた時、思わず鳥肌が立った。それと同時にますます彼女の生み出す曲の凄さが分かったのだ。さすがは天才・宇多田ヒカルである。
・SAKURAドロップス
これは考察というより私の思い出話だ。
当時私は高校生だった。恋愛経験は殆どなくそれまで恋とは無縁の生活を送ってきた。しかし突然、違うクラスの男子に告白されたのだ。小学生の頃、幼馴染の男子に告白されたことがあるが、それ以来だった。なので、私は俄かに浮足立った。が、お互いよく知らなかったので「お友達から始めましょう」ということになった。「告白されたのに友達からなの?」とやや不満だった私。ちょうどその日は学校祭の前日だったので「良かったら明日一緒に回りませんか?」とメールを送った。彼の答えはノーだった。結局それっきり彼から何の音沙汰もなく、私の恋はスタート地点にも立てないまま終わったのだった。
その時にヒットしていたのがこの曲だった。これは失恋ソングである。「願うのはこれが最後の失恋」的な歌詞がある。これを聞いては「私、始まる前に終わっちゃったんだな…」と複雑な思いを抱いたのだった。それ以来、この曲を聞くとあの時のことを思い出す。今となっては懐かしいちょっと苦い思い出である。
・花束を君に
彼女が亡き母の死を乗り越えて作った曲である。私は当時、伯父を亡くしたばかりだった。子供がいない伯父は私のことを実の子供のように可愛がってくれた。伯父は癌に倒れたが、生きることを最後まで諦めなかった。そんな伯父が亡くなり私はとてもショックだった。しばらくの間、立ち直れず、悲しみに沈んだ。最後に伯父に会った時、また会えるだろうと思った私は特に言葉を交わすことなく、病院を後にしてしまった。そのことをずっと悔やんでいた。「どうしてあの時声を掛けなかったのか」「元気な内にもっと感謝の気持ちを伝えれば良かった」と。
ちょうどその時にこの曲はリリースされた。彼女が亡き母に捧げた歌詞が自分と重なり、私は聴いた瞬間、号泣した。「言いたいことは山ほどある。でも神様しか知らないままなんだ」こういうような歌詞があるのだが、まさにその通りだった。それから私は毎日、伯父のために祈るようになった。もう伯父はいない。けれど、心から感謝の思いを込めればきっと伝わると信じて。
彼女もきっと母に対して色々な思いがあったのだと思う。大事な人を失った悲しみ。伝えられなかった思い。それらが彼女の歌う素直で優しい歌詞からとても伝わって来た。彼女の気持ちが良く分かったのだ。境遇は全く違うが、私は少しだけ彼女に親近感を抱いた。
この曲を聴くと伯父のことを思い出す。聴くと今でも涙が込み上げてくるのだが、伯父のことを思い出させてくれる大事な曲である。
・fight the blues
これはシングルではない。HEAT STATIONというアルバムの1番最初に入ってる曲だ。タイトルの通り、応援歌である。
著作権の都合で歌詞を引用できないが、この曲にはスタンダードな応援歌ではまず聞かないような歌詞が数多く登場する。しかし、それがまたとても彼女らしいのだ。最初から最後まで「頑張れ」という言葉は一切出て来ない。だが、全体からは前向きさ、明るさ、乗り越える勇気といったことが伝わってくる。「さぁ頑張ろう!」というよりも「何悲しい顔してんのさ!」と拳を構えた彼女に、明るく背中を叩かれるようなイメージがある。
私は一時期、スポーツジムに通っていたことがある。その時によくこのアルバムをBGMにしていたのだが、1曲目にこの曲を聴くと「さあ運動するぜ!」と気合いが入ったものだった。シングルカットしても良いのではと思うぐらい個人的に大好きな曲である。
・君に夢中
昨年末に放送されたドラマ「最愛」の主題歌だ。吉高由里子演じる主人公・真田梨央は殺人事件の容疑者にされてしまう。警察官となった幼馴染と共に家族や友人、知人といった周辺人物を巻き込みながら事件の真相を解明していくミステリーである。一見ドラマとは関係なさそうに見えるこの曲。しかし実はかなり重要な役割を果たしている。タイトルの「君に夢中」はサビの始まりでもあるのだが、この曲はそのサビから始まるパターンの曲だ。これが劇中で流れるタイミングが絶妙なのだ。ひとつ例を挙げる。
主人公・梨央と幼馴染の大輝は両思いなのだが、容疑者と警察官という関係もあってお互いの気持ちを隠している。そんな大輝が梨央に思いをぶつける場面でこの曲は流れる。
大輝が警察官になったのは、梨央の事件を解明する為でもある。想い人を救う為に人生を賭けているのだ。「君に人生を狂わされた」というような歌詞が登場するのだが、まさにその通り。だが、この曲が流れるのは大輝の場面だけではない。梨央の弟、義母、梨央の弁護士など恋愛とはまた違う場面でも流れる。つまり梨央を想う誰かの気持ちがクローズアップされた時にこの曲は流れるのだ。
ドラマが終わった後に流れるただの主題歌ではない。まさにこのドラマの為の曲なのである。「君に夢中」からは一見、恋愛をイメージするだろう。しかし、その内側には恋愛の域には収まらない人間愛が描かれている。ここにドラマの「最愛」というタイトルがリンクしてくる。
このカラクリに初めて気付いた時、私は思わず唸った。ドラマ自体も俳優陣の演技はもちろんストーリー、演出、最終回の展開まで非常にクォリティの高い良質な作品だった。ドラマの最終回は大体期待外れが多いのだが、この作品は最後まで素晴らしかった。
主題歌と作品を結び付けるというこのアイデアを、一体誰が考えたのか。それは分からない。しかし、主題歌をここまで有効活用したドラマはあまり見かけない。素晴らしいとしか言いようがない。オファーした制作側、主題歌を作った宇多田ヒカル。私はこのどちらにも心からの拍手を贈りたいのである。
今年でデビューから24年になる彼女。当時から聴いている身として感じているのは、彼女が成長して大人になるにつれ、曲も一緒に成長している、いうことだ。純粋で初々しいAutomaticから始まったが、結婚や出産、離婚、母の死などを乗り越えて、人生観を歌った曲も沢山生まれた。恋愛の域に囚われない魅力溢れる曲の数々はまさに彼女が歩んで来た人生そのものなのかもしれない。そんな彼女の曲を聴いて私も一緒に大人になった気がするのである。
彼女は英語はもちろん堪能だが、私が特に魅力を感じるのは日本語詞だ。その言葉選びが非常に素晴らしい。文学的という感じではないが、飾らないストレートな言葉から彼女らしさをとても感じるのだ。彼女が喋っているところを見たことがある人は分かると思うが、普段からあっけらかんとしているのだ。明るくてサバサバしていて……私はそんなありのままの彼女のことが好きなのだが、歌詞を見ているとそんな彼女の人柄が垣間見えるような気がするのである。
もうひとつの魅力はその歌声にある。特徴的なのは細かいビブラートだ。それが、震えるような切なさを帯びているために、歌詞の持つ繊細さや切なさがより鮮明に聞こえるのだ。ものまね番組でたまに彼女の物真似をする人を見掛けるが、大体似ていない。あの歌声を完璧に再現するのはかなり難しいということだろう。
宇多田ヒカルにしか書けない歌詞
宇多田ヒカルにしか出せない歌声
そこに彼女の曲が長い間多くの人に愛され、心を打たれる最大の理由があるのだと、私は思うのである。
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