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6、唯一後悔していること
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結婚したことを後悔していない、ということは違う項目で書いた。しかし、そんな私にも唯一後悔していることがある。それは10年来の友人を失ったかもしれない、ということだ。
彼女とは10年以上前に年末の短期アルバイトで知り合った。私はそこで先輩からいじめに遭ってしまい、期間を満了する前に退職してしまった。しかし、同じ歳の同じ趣味で意気投合した彼女との関係はそれ以降も長く続いた。だから「いじめに遭った最悪なバイトだったけど、彼女に会うためだったんだ。きちんと意味があった」と思うようになった。友人が少ない私にとって彼女は唯一何でも話せ、一緒にいて楽しいと思える「親友」のような存在だった。後に発達障害を持っていることをカミングアウトした時も全く驚かず(もしかしたら彼女は薄々勘づいていたのかもしれない)今まで通り接してくれた。
彼女との関係性に変化があったのは私が結婚してからである。彼女にも恋人がいたが、結婚願望はなかった。破天荒な夫のことをよく思っていなかった彼女は度々私に「気をつけた方がいい」などと忠告をするようになった。私は彼女の忠告を真剣に聞き入れることができなかった。口では「そうだね」と言っておきながら、心の中では全く反対のことを考えていたのである。
最後に会った時、障害年金を申請しながら障害者雇用で働ける仕事を探しているという私の近況を聞いた彼女は「旦那に頼らずに自立した方がいい。社労士に依頼してまで障害年金を受給するなんて」というようなことをはっきりと口にした。てっきり背中を押してくれると思っていた私はショックを受けたが、それは顔には出さずにいつものように「そうだね」と笑って肯定した。心の中では「結婚しているのに自立した方がいいってどういうこと?」と思っていたのである。その後、彼女とは改札の前でいつものように「また遊ぼうね」と笑顔で別れた。
それから約半年。離婚が決まったことをメールで報告したが、一か月経った今でも返事は来ていない。彼女は元々返事が遅いタイプなので、もしかしたら忙しくてただ返事ができないだけなのかもしれない。あの時、私は自分の本当の気持ちを彼女には言わなかった。だから特に喧嘩をした訳でもないのだ。
それでも、私の中から不安は消えていない。「失望」「ショック」という感情ではなく、ただただ「悲しい」という感情だ。私はそのメールに以下のようなことを綴った。
「あの時、あなたが『自立しなさい』とはっきり言ってくれた意味がようやく分かった。本当にごめんね」
私は彼女の忠告を素直に聞き入れなかったことを悔やんだ。約3年間しか一緒にいない夫と、約10年も一緒にいる友人を無意識に天秤に掛けて夫を選んでしまったのである。結婚していたら仕方のないことなのかもしれない。しかし、一人の大切な友人を失ってしまったのかと思うと残念でならない。
例え私が本音を隠していても、長い付き合いの彼女には私が本当はどう思っているのか分かってしまったのかもしれない。結婚願望がないのに結婚した私と価値観や考え方が違ってしまったと思ったのかもしれない。戻れることならあの時に戻りたい気持ちだ。
思えばあれ?と思う事はあった。彼女からは毎年、心のこもった手書きの年賀状が届く。が、今年は届かなかったのだ。その時から何となく嫌な予感はしていたが、不安が現実になってしまうとは思いもよらなかった。
もしも本当にこれで彼女との友情が終わってしまったとしても、私は彼女のことを恨むような気持ちは一切ない。楽しい思い出を一緒に作ってくれて、色々な悩みを聞いてくれた。今でも大切な友人だと思っている。彼女に改めて感謝の気持ちを持つと共に、彼女の幸せを心から祈るばかりである。
彼女とは10年以上前に年末の短期アルバイトで知り合った。私はそこで先輩からいじめに遭ってしまい、期間を満了する前に退職してしまった。しかし、同じ歳の同じ趣味で意気投合した彼女との関係はそれ以降も長く続いた。だから「いじめに遭った最悪なバイトだったけど、彼女に会うためだったんだ。きちんと意味があった」と思うようになった。友人が少ない私にとって彼女は唯一何でも話せ、一緒にいて楽しいと思える「親友」のような存在だった。後に発達障害を持っていることをカミングアウトした時も全く驚かず(もしかしたら彼女は薄々勘づいていたのかもしれない)今まで通り接してくれた。
彼女との関係性に変化があったのは私が結婚してからである。彼女にも恋人がいたが、結婚願望はなかった。破天荒な夫のことをよく思っていなかった彼女は度々私に「気をつけた方がいい」などと忠告をするようになった。私は彼女の忠告を真剣に聞き入れることができなかった。口では「そうだね」と言っておきながら、心の中では全く反対のことを考えていたのである。
最後に会った時、障害年金を申請しながら障害者雇用で働ける仕事を探しているという私の近況を聞いた彼女は「旦那に頼らずに自立した方がいい。社労士に依頼してまで障害年金を受給するなんて」というようなことをはっきりと口にした。てっきり背中を押してくれると思っていた私はショックを受けたが、それは顔には出さずにいつものように「そうだね」と笑って肯定した。心の中では「結婚しているのに自立した方がいいってどういうこと?」と思っていたのである。その後、彼女とは改札の前でいつものように「また遊ぼうね」と笑顔で別れた。
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それでも、私の中から不安は消えていない。「失望」「ショック」という感情ではなく、ただただ「悲しい」という感情だ。私はそのメールに以下のようなことを綴った。
「あの時、あなたが『自立しなさい』とはっきり言ってくれた意味がようやく分かった。本当にごめんね」
私は彼女の忠告を素直に聞き入れなかったことを悔やんだ。約3年間しか一緒にいない夫と、約10年も一緒にいる友人を無意識に天秤に掛けて夫を選んでしまったのである。結婚していたら仕方のないことなのかもしれない。しかし、一人の大切な友人を失ってしまったのかと思うと残念でならない。
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もしも本当にこれで彼女との友情が終わってしまったとしても、私は彼女のことを恨むような気持ちは一切ない。楽しい思い出を一緒に作ってくれて、色々な悩みを聞いてくれた。今でも大切な友人だと思っている。彼女に改めて感謝の気持ちを持つと共に、彼女の幸せを心から祈るばかりである。
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