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1、引っ越しを決意したキッカケ
しおりを挟む引っ越しを決意したキッカケは都会暮らしによるストレスではなく、実は夏の暑さだった。温暖化の影響により年々夏場の最高気温が上昇傾向にあって体調を崩す人も増えているが、障害を持っているとその症状は更に顕著になる。
私は北海道育ちだからなのか暑さにめっぽう弱い。冷え性ではあるが、重ね着などをすれば寒さは対策がしやすい。だが、暑さはそうはいかない。
去年は5月のGWが終わった辺りからジワジワと気温が上昇し、6月の梅雨から蒸し暑くなり、7、8、9月は猛暑と酷暑の連続だった。10月辺りから緩やかに気温は下降していったが、11月に入っても20度を超える日が続き、秋を本格的に感じる暇もなくあっという間に冬になってしまった。改めて振り返ってみると、去年は約半年間も夏だった訳である。暑さにめっぽう弱い私に耐えられるはずがなかった。
暑すぎ、寒すぎ、は自律神経が乱れやすい体質の人間には大敵である。特に暑さに弱い私に去年の夏は非常に辛かった。自律神経が乱れると当然ながら体に支障が出る。ちょうどその時ダイエットをしていた事もあり、栄養バランスには気をつけていたにも関わらず体調を崩して夏風邪を引いてしまったのだ。
年が明け、新しい一年をどうやって生きようかとぼんやり考えている時にふと思った。
「今年もあのクソ長くて忌々しい夏を過ごさなきゃならないのか……」
また半年間夏を過ごすのはうんざりだった。そこで私は「北欧に移住したら楽なのでは?!」と思ったが、さすがにそれは無理なのですぐにその考えは却下した。
次に考えたのは日本の中で夏が涼しい地域に移住する事だった。早速、調べてみると信州、千葉の勝浦、北海道、東北などが出て来た。どこも魅力的だったが、北海道以外は土地勘が全くないのと障害者雇用を導入している会社が全くと言っていいほどない。
となると、残るは北海道である。しかし、北海道も年々夏場の気温が上昇傾向にあり、札幌は30度を超える日が続いた事もあった。そんな中一番夏が涼しいのは道東だそう。具体的に言うと釧路と根室。調べたところ釧路には障害者雇用もそこそこある。
北海道育ちなので道内への移住は良いかもしれないと思った。が、私が住んでいたのは札幌などがある西の方だ。東の方には殆ど行ったことがなくて土地勘が全くない。では県庁所在地であり、障害者雇用も豊富な札幌の気温はどうなっているか調べたところ、やはり夏場の昼間の気温は高い。が、暑いといっても昼間だけで夜は気温が下がるので熱帯夜になる事はない。しかも梅雨がないため夏はたった2、3か月で終わる。
「よし!札幌に移住しよう!」
某市のCMで有名なキャッチコピーの如く私は決意した。だが、神奈川県から北海道に移住するという事は今の生活を全て捨て、家族や友人、パートナーとの関係も薄くなる事を承知で全く新しい人生を送るということだ。さすがに一人で決断する勇気がなく、ひとまず私の一番の理解者である母に相談する事にした。私が北海道に移住したいと言うと、母は電話口で固まった。
「……今どこって言った?!」
「北海道だよ!札幌!」
「ええっ?!」
母は驚くと甲高い声が出る。私が子供の頃は家族でよくそんな母を真似してからかったものだが、大人になるにつれその機会は減った。久々に母のそんな声を聞いた気がして「懐かしいなぁ」などと呑気な事を考えていたが、そんな事を言っている場合ではない。母はそれだけ私の言葉に衝撃を受けたのである。
母はいつも私の考えや意見を全て聞いてくれて「決めるのはあなただよ」と背中を押してくれる。だが、そんな母が珍しく「それはやめて!」と反対して来た。少し驚いたが「向こうで何かあったらどうするの?!」と必死に説得を試みる母の切羽詰まった声を聞いていると「さすがに今回の話は無謀過ぎたか~」と冷静さを取り戻して深く反省した。
「こう!と決めたら真っ直ぐに突き進む」
「猪突猛進」
「怖いぐらいの行動力」
これまでそんな自分に私は何度も助けられ、また何度も振り回されて失敗した。私の長所でもあり短所でもある部分だ。今回の母のように誰かにストッパーになってもらわないと歯止めが効かない。我ながら恐ろしい人間である。
結局話し合いの結果、北海道への移住計画は中止となった。その後、私は今の自分の生活を見つめ直し、もう一度よく考えてみる事にした。様々な問題が露見したが、そのひとつが前回の記事で挙げた「謎都会人」から受けた様々な迷惑行為だった。そこで初めて私は、自分が都会暮らしに疲れ切ってしまっている事に気づいたのだ。それは今まで田舎で暮らしていた事ももちろんだが、一番の原因は間違いなく障害によるものが大きい。
前回の記事でも書いたが、主治医も「都会は人が多くてそれだけで自律神経をやられるので引っ越しするのは良い考えだと思いますよ」と言ってくれたように、ストレスが溜まると自律神経が乱れ、疲れやすくなったり体調を崩してしまうのだ。
「私はもうこの街にもこの家にも居られない……」
「寛げない家なんてクソ!普通に歩いてるだけでストレスになる街もクソ!全部クソ!」(言葉が悪くて申し訳ないが本気でそう思っている)
そう悟った。そして「一生涯快適に暮らせる街と家に住む!」と、改めて引っ越しをする事を決意したのだった。
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