小学校時代を過ごした北海道のある田舎町、そこで経験したスキーの思い出話。

ペンションに来た居候たちの話。

当時、家族で営んでいたペンションは経営は厳しかったものの、スキーが盛んな冬になると観光客が全国から押し寄せた。そのため、人手が足りずアルバイトを募っていた。アルバイトというよりも「居候」だった。それはペンションで働く合間にスキーができることが大きな魅力だった。その魅力に惹かれて各地から男女問わず色々な人が居候に訪れた。

皆、当時、子供だった私と妹を可愛がってくれてとても良い人達だった。しかし、中にはペンションを訪れた途端、外見がチャラいと父に怒られる人もいた。頑固で職人気質な父は、茶髪、ピアスといったチャラい見た目が大嫌いだった。（中にはドレッドヘアーの人もいたような気がする）それは自分の長年の夢であった「ペンション経営」という仕事に誇りを持っているからだろうと思う。少しでもお客さんに、清潔な空間で気持ち良く過ごしてもらいたい。そういう思いだったに違いない。納得がいかない人はすぐに辞めて行ったし、父の考えを理解してくれる人はきちんと見た目を整えた上で一緒に働いてくれた。

その中に、とても愛想が良い好青年がいた。当時２０代のスキーヤーだった。他の居候はもう殆ど覚えていないのだが、彼のことは今でも覚えている。何故なら、当時働きにきた居候の中で最も印象的だったからだ。彼はピアスをしていたが、父に注意されてすぐに外した。いつも爽やかな笑顔で仕事もてきぱきとこなし、私達家族ととても良好な関係を築いていった。兄がいない私と妹は彼のことを「本当のお兄さん」のように慕っていた。交流を深めた彼は私と妹をスキーに誘ってくれ、三人でスキーをした。居候の中で、私と妹をスキーに誘ってくれたのは彼だけだった。どういうコースを滑ったのかなど詳しい記憶はもう殆どないが、とても楽しかったことは今でもよく覚えている。

お兄さんは、当時付き合っていた彼女と撮ったプリクラを私と妹にくれた。とても可愛らしいお姉さんで、子供ながら二人のことを羨ましく思ったものだった。それにお姉さんに対する嫉妬心も少しだけあった。今思えば、私はもしかしたらあのお兄さんに淡い恋心を抱いていたのかもしれない。今はどこで何をしているのかは全く分からない。しかし、あの可愛いお姉さんと一緒に雪国でスキーを楽しんでいてくれたらいいなと、私は心からお兄さんの幸せを願っているのである。

６に続く。