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ふしぎな友達 ~社会人
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私は社会人になった。仕事はハードだったけれど、周りの人達と上手く人間関係を築くことができて充実した毎日だった。何より、会社に好きな人がいるということが私の活力だった。彼は違う部署のリーダーで長年勤めているベテランだった。話をしたことは全くなかった。でも、誰かと話しているのを見て一目惚れした。見た目は強面なのに笑顔がとても優しくて可愛いのだ。私は何とか彼と接点を持とうと必死になった。彼と知り合いの人に飲み会のセッティングを頼んだり、自分でも社内で彼と接触を図った。まるでストーカーのようだった。
しかし、私の恋は呆気なく終わってしまった。私は恋をすると相手の反応などそっちのけで全力アピールをするタイプ。猪突猛進というやつだ。どうやらそれが彼を怒らせてしまったらしい。共通の知り合いを通して「やめてほしい」と言われてしまったのだ。私はショックだった。彼を怒らせてしまったこともだったが、何よりも「相手の気持ちを汲まずに行動してしまった」そのことを恥じた。
「またやってしまった……私は誰とも恋愛できない。知らない間に相手を怒らせて嫌われて、このまま人生が終わるんだきっと」
気づいたら海にいた。職場からすぐ近くの波止場。仄暗い海面を覗き込む。飛び込めばきっと楽になれる。私は意を決して足を踏み出そうとした。その時だった。
「待って!早まらないで!」
いきなり腕を掴まれた。咄嗟に振り向くと、そこには彼女がいた。今にも泣きそうな顔で私の腕を強い力で掴んでいる。
「またあなたですか……もう放っておいてください!私なんて生きていたって仕方ないんです!」
腕を振り解こうしたが、グッと掴まれて身動きが取れない。
「ちょっ、離してください!」
「いいえ、絶対に離さない!この腕も心だって!例え周りの人があなたを見放したって私は絶対に見放さない!」
「……っ」
私は全身の力を抜いた。彼女は私が落ち着いたのを見てゆっくりと腕から手を離した。
「はぁ~良かった!ねぇ、お腹空いたでしょ?何か食べに行かない?」
「……は?」
あまりに突拍子もない言葉に固まっていると、彼女は私の手を優しく引いて、良い店があるんだから!と、初めて会った時と変わらない笑顔を浮かべた。
「何で私が波止場にいるって分かったんですか?」
「言ったでしょう?私はあなたのこと全部知ってるって」
返答に困って黙り込んでいると、彼女が言葉を続けた。
「私、ヤケ酒してたとこなんだ。実はこれで二軒目なんだよ」
「何かあったんですか?」
「ちょっと旦那と喧嘩しちゃってさ~まぁ私が地雷踏んじゃったからなんだけど」
そう言って彼女は肩をすくめた。
「そうなんですか。なんか大変そうですね……恋愛下手で彼氏いない歴ウン十年の私には分かりませんけど」
「やけに自虐的じゃないの」
彼女の言葉に私は大きくため息を吐き、一部始終を語った。
「私、普段は相手のこと気にし過ぎるぐらい気を遣うんです。なのに、恋愛になると周りが見えなくなっちゃって。相手に引かれるんです。はぁ~ダメだなぁ」
すると、彼女はにこりと笑って言った。
「大丈夫だよ!そういうあなたを受け入れてくれる人、絶対現れるから!」
私は思わず彼女の顔を凝視した。
「……本当なんですか?その根拠は?あるなら教えてください」
「待て待て。そんなにがっつかないの!今は焦る時じゃない。あなたがその相手に出会えるのはまだまだ先の話。それまでに……あと2回ぐらいかな?恋愛を経験するけど、何があっても落ち込んじゃダメだよ」
「その感じだと私はその相手に出会えるまでにまたなんか色々やらかすんですね……」
すると、彼女は少し苦笑いをして言った。
「う~ん。まあね。でも、どっちも縁がない相手だから。終わった後は落ち込むけど、気にすることないよ」
「そうなんですか?」
彼女は確信に満ちた笑みを浮かべると、大きく頷いた。そして、ジョッキで来たビールを豪快に飲んだ。
「あの……何でそんなに私のこと知ってるんですか?」
私は不思議で堪らなかった。きっと教えてはくれないだろうと思いながらも、私は尋ねた。
「それは今は言えないよ。いずれ分かる時が来るよ。私があなたに言えるのはひとつだけ」
そして、あの時と同じ真剣な眼差しで私を見つめると言った。
「私はいつもあなたの幸せを祈っている。いつも見守ってるからね。もしまたあなたが命を絶とうとしたら必ず助けに来るから!」
にこりと笑うと彼女は店を出て行ってしまった。
「なんなんだ一体……」
何が何だか分からないけれど、私の中で確実に彼女に対しての好感度や信頼度は上がっていた。
私はその後、何度か転職をした。その間に2度ほど恋愛を経験した。どちらも相変わらず私からアピールして玉砕。実ることはなかった。またしても彼女の言った通りになった。
「あの人、一体何者なんだろう……?」
考えれば考えるほど気になって仕方がなかった。でも、尋ねたところできっと教えてはくれないだろう。彼女は「いつか分かる時が来る」と言った。その「いつか」は一体いつ訪れるのだろう。
しかし、私の恋は呆気なく終わってしまった。私は恋をすると相手の反応などそっちのけで全力アピールをするタイプ。猪突猛進というやつだ。どうやらそれが彼を怒らせてしまったらしい。共通の知り合いを通して「やめてほしい」と言われてしまったのだ。私はショックだった。彼を怒らせてしまったこともだったが、何よりも「相手の気持ちを汲まずに行動してしまった」そのことを恥じた。
「またやってしまった……私は誰とも恋愛できない。知らない間に相手を怒らせて嫌われて、このまま人生が終わるんだきっと」
気づいたら海にいた。職場からすぐ近くの波止場。仄暗い海面を覗き込む。飛び込めばきっと楽になれる。私は意を決して足を踏み出そうとした。その時だった。
「待って!早まらないで!」
いきなり腕を掴まれた。咄嗟に振り向くと、そこには彼女がいた。今にも泣きそうな顔で私の腕を強い力で掴んでいる。
「またあなたですか……もう放っておいてください!私なんて生きていたって仕方ないんです!」
腕を振り解こうしたが、グッと掴まれて身動きが取れない。
「ちょっ、離してください!」
「いいえ、絶対に離さない!この腕も心だって!例え周りの人があなたを見放したって私は絶対に見放さない!」
「……っ」
私は全身の力を抜いた。彼女は私が落ち着いたのを見てゆっくりと腕から手を離した。
「はぁ~良かった!ねぇ、お腹空いたでしょ?何か食べに行かない?」
「……は?」
あまりに突拍子もない言葉に固まっていると、彼女は私の手を優しく引いて、良い店があるんだから!と、初めて会った時と変わらない笑顔を浮かべた。
「何で私が波止場にいるって分かったんですか?」
「言ったでしょう?私はあなたのこと全部知ってるって」
返答に困って黙り込んでいると、彼女が言葉を続けた。
「私、ヤケ酒してたとこなんだ。実はこれで二軒目なんだよ」
「何かあったんですか?」
「ちょっと旦那と喧嘩しちゃってさ~まぁ私が地雷踏んじゃったからなんだけど」
そう言って彼女は肩をすくめた。
「そうなんですか。なんか大変そうですね……恋愛下手で彼氏いない歴ウン十年の私には分かりませんけど」
「やけに自虐的じゃないの」
彼女の言葉に私は大きくため息を吐き、一部始終を語った。
「私、普段は相手のこと気にし過ぎるぐらい気を遣うんです。なのに、恋愛になると周りが見えなくなっちゃって。相手に引かれるんです。はぁ~ダメだなぁ」
すると、彼女はにこりと笑って言った。
「大丈夫だよ!そういうあなたを受け入れてくれる人、絶対現れるから!」
私は思わず彼女の顔を凝視した。
「……本当なんですか?その根拠は?あるなら教えてください」
「待て待て。そんなにがっつかないの!今は焦る時じゃない。あなたがその相手に出会えるのはまだまだ先の話。それまでに……あと2回ぐらいかな?恋愛を経験するけど、何があっても落ち込んじゃダメだよ」
「その感じだと私はその相手に出会えるまでにまたなんか色々やらかすんですね……」
すると、彼女は少し苦笑いをして言った。
「う~ん。まあね。でも、どっちも縁がない相手だから。終わった後は落ち込むけど、気にすることないよ」
「そうなんですか?」
彼女は確信に満ちた笑みを浮かべると、大きく頷いた。そして、ジョッキで来たビールを豪快に飲んだ。
「あの……何でそんなに私のこと知ってるんですか?」
私は不思議で堪らなかった。きっと教えてはくれないだろうと思いながらも、私は尋ねた。
「それは今は言えないよ。いずれ分かる時が来るよ。私があなたに言えるのはひとつだけ」
そして、あの時と同じ真剣な眼差しで私を見つめると言った。
「私はいつもあなたの幸せを祈っている。いつも見守ってるからね。もしまたあなたが命を絶とうとしたら必ず助けに来るから!」
にこりと笑うと彼女は店を出て行ってしまった。
「なんなんだ一体……」
何が何だか分からないけれど、私の中で確実に彼女に対しての好感度や信頼度は上がっていた。
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