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「文章を書くことが好き」というだけでは「文章を書く仕事」はできないのだということ。
しおりを挟むスポットライトという映画を見た。これはアメリカの新聞社「ボストングローブ」が、カトリック教会の神父による小児性的虐待事件の実態を暴く様子を描いた社会的な作品だ。信じられない事件だが、全て実話である。
この映画と虐待報道のことはネットの記事で既に読んでいたので知っていたのだが、実際に映画を見ると、報道現場の過酷さが臨場感たっぷりにとても伝わってきて非常に考えさせられた。映画の感想、事件について思うことは色々とあるが、ここには「文章を書く者」としての生き方というか、そういう部分に焦点を当てて思いを綴っていきたいと思う。
私は去年の夏頃に某副業サイトでwebライティングの仕事をしたことがある。「文学賞に応募してみたい」というのは昔からの夢だったが、「ライターの仕事をしてみたい」という気持ちもあったからだ。これは夢、というよりも「どのような仕事なのか興味がある」という感覚だった。
なかなか良い案件とは巡り合えなかったものの、始めた当初は「こんな感じなのか」と新鮮な気持ちでひたすら文章を打ち込んでいった。ただ文章を打つだけではなく、ある疑問があってそれを解決する為の記事を書いているので「調べて自分なりにまとめる」という作業が必要になってくる。私は元々、地域の小さな集会で研究発表等をしていたことがあったので「調べてまとめる」という作業はわりと得意だった。だから、最初はその経験を生かしていける、と喜んで仕事をしていた。
しかし、こんなご時世もあって在宅ワークが増加している現在、パソコンさえあれば気軽に始められる「ライティングの仕事」はとても人気で、急激にライター人口が増加している。噂には聞いていたが、実際にやってみて、私はそれを凄く感じた。「自分の特技は文章を書くことです」とアピールしたところで、所詮は実績のないただの素人であり初心者だということを嫌でも痛感した。どう考えても金額に見合わない記事を書き続けることに疲弊した私は「webライター」の仕事をきっぱりと辞めた。
「夢」ではなくてあくまでも「やってみたいこと」のひとつだったので、辞めようと決意するまでにさほど時間はかからなかった。もしもこの仕事が自分に合っていると感じたなら、それで将来は生計を立てるのも良いだろうと思っていたが、それは到底無理だということも同時に実感した。ただ文章が好きとか上手いだけでは「ライター」になるのは到底無理な話である。「自分にはこういう得意分野があってそれなら誰よりも詳しい記事が書けます」と胸を張って言えるようでなければダメなんだということを痛感した。何故なら、高額な案件=専門的な知識を必要とする記事、だからである。ただし、小遣い稼ぎと考えるなら気軽に続けられるのではないかと思う。
添削によれば、私は「ライターよりもブロガー寄り」とのことだった。テーマに沿った専門知識を元に記事を書き上げるライターと違い、ブロガーはテーマに沿って主観を交えた記事を書くことが特徴的だ。私は様々な分野のブログを運営した経験があるのだが、どうやらその癖が出てしまっていたらしい。気をつけてはいたのだが、長年積み重なった癖を直すのは容易ではない。案件をこなしていけば要領を覚えてライターらしい記事が書けるようになるのだろうが、たかが副業でそこに全力投球するのは何か違うと思った。
あくまでも私が一番にやりたいのは「文学賞応募に向けた小説を書くこと」である。webライティングの仕事に心血を注ぐあまり、一番のやりたいことが疎かになるのは納得できなかった。しかし、小説以外の分野で文章を書くことは続けたかった。私はどうするべきか考えた。そして出た答えはふたつ。
・エッセイや日記等を書きながら小説を書く
・比較的小説家に近い、シナリオライターや脚本家の仕事をする
なので、現在はこの二つを同時進行している。シナリオライターの仕事はWebライティングの仕事で登録した副業サイトの方でお世話になっている。自分には合わなかったけれども、今思えばWebライティングの仕事をしたことは良かったのかもしれない。
映画の話に戻る。最近、そういったことを経験したばかりだったので映画の中で「真実を追求する為にひたすら奮闘する新聞記者」の姿を目の当たりにして、尊敬と感動の念が湧いた。文章を書く仕事は色々あるし、中でも「ライター」という仕事は更に細かい分野に分けられるのではないかと思う。
新聞記者というのは「文章力」はもちろん、取材のスキルや根性、忍耐力、そして仕事の速さといったものが求められる。それはまさしく私が「ライター」の仕事をやってみて痛感した「文章を書くことが好き」というだけでは到底務まらない仕事だということだ。
映画を見ていて特に感じたのは「取材に対しての熱意と粘り強さ」という部分。被害の状況を話すことを躊躇う被害者に対しての気遣いと、どんな悲惨な内容でも真実を伝えたいという熱意と粘り強さを同時に発揮しなければならない。これはとても高度なテクニックが必要になると感じた。消極的で人見知りな性格の私にはとても真似できないと舌を巻いた。
有名人のスキャンダル記事などを見ても思うが、記者というのはある程度の図々しさというのも必要だと感じる。人のプライベートに土足で踏み込み、荒らす行為が良いとは思わないが、誤解を恐れずに言うと、ある意味ではそういった図々しさがないと真実は追求できないと思うのだ。
特に映画の中で記者達が相手にしていたのはカトリック教会という巨大な、また世界的な組織である。果敢な勇気と粘り強さと正義感を武器に行動し、沢山の人々の心を動かしたボストングローブの記者達に心から敬意を表したい。
先程も書いたが「文章を書く仕事」と言っても色々ある。私がすぐに思いつく仕事をピックアップして役割を書き出してみる。
作家、脚本家→自分のアイデアを元に物語を創作する
webライター、記者→取材や調査で得た知識を元に客観的な記事を書く
ブロガー→取材や調査で得た知識を元に主観を交えながら記事を書く、または自分の好きなテーマを元に主観的な記事を書く
同じ「文章を書く仕事」と言っても内容にはこれだけの違いがある。「文章を書くことが好き」そう思うことは決して悪いことではない。現に、こうして小説やらエッセイやらを書いている私も元を辿ればきっかけはそこに行き着くからだ。
しかし、本気で「文章を書く仕事がしたい」のであれば、「文章を書くことが好き」ということ以外に自分の武器となる特技や性格を把握し、その仕事に自分が向いているのか向いていないのかを見極めることが何よりも重要なのだということを、私は今回の経験で学んだのだった。
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