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世界の終焉~序曲~
魔女狩り
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目が覚めたら、私はこの格好で埃だらけの部屋に横になっていた。それ以前の記憶はない。
カインが壁に掛けてあったタペストリーを持ってきて、私に歌の詩を教えた。全部知っていた。でも、欠けた歌詞があることに気が付いた。
私は歌って見た。辺り一面は静かになり、懐かしくも悲しい光景が瞼の裏に広がった。それはカインの声にかき消された。
カインは変な歌と言っていたけれど嫌な気はしなかった。だってこの詩をカインは歌にして歌っていたのだもの。
///////
審問官という人がドアを物々しく叩いて訪ねてきたのは、カインと私がくだらない話をしていた時だった。
「やば、まずいな。審問官だ、姿を見なくてもわかるぞ」
「審問官? 何それ」
「魔法使いを見つけては、片隅から捕まえて火あぶりにするやつらだよ」
「魔法使い? 何それ」
記憶の破片がまた一つの絵のように合わさった。私は思い出した。”聖書”というものを。そして散らばった記憶の欠片が一つのタペストリーとなって私の脳裏に歌となって流れた。
「魔法使いは悪い人なの? 」
「そんなことないさ、ただ悪魔様を信仰しているってだけさ」
「”聖書”では悪魔は悪い存在なんじゃないの? 」
そんなこと聞かないでもわかっていたけれど、聞かなくては私の居場所はあやふやなままだ。
「ああ、俺は”聖書”というものを読んだことはないが確かにサタン様とかは蛇に化けて人間を騙したと聞いたことがあるな。だが俺たちの先祖はサタン様は人間に自由の選択を与えたということになっている」
「というより、その役目を果たしただけだわ」
そこまで言って、また激しくドアをたたく音がしたので私は階段からその音のするほうに降りて行った。後ろから制止する声が聞こえるけれど大丈夫、私ならきっと無事でいられる。
謎の確信だった。
「そんなにドアを強く叩く人は誰? 」
ドアをたたく音がやんだ。
「審問官だ、ここに異端者が住み込んでいると聞いてな」
私はドアを開けずにまた訊ねた。
「あなたは異端者だからといって魔法を使う人たちを火あぶりにするの? 」
「当然だ、悪魔の使いだからな」
「あなたたちって、心が狭いのねー」
沈黙が続いて、しばらくしてからドアが開いた。審問官が開けたのではない。私が”魔法みたいなもの”で開けたのだ。
風が審問官の顔に当たり、審問官は面食らったような顔をしたけれど鼻をフンと荒げて私に近づいてきた。
「なんでそんなニコニコしているのだ」
「だって、あなたをからかうの面白いんだもん」
「ふん、こいつか例の不気味な歌を歌うというやつは」
そういうと、私の腕を無理やりつかんで連れて行こうとする。私は大声で叫ぶ代わりに、頭の上に大きな黒い鳥を呼び寄せて審問官を捕えさせた。大きな鷲みたいな爪で持ち上げて、翼を大きく振るう。
「なんだこれは、だ、だれか!悪魔だ!悪魔!」
私は笑った。だってこの子は私の友達だから。つまり、悪魔だから。
「久しぶりね、カミオ」
「そうだな、久しぶりに見た気がするぞ」
カミオは空高く審問官を投げ飛ばして、口ばしを動かす。審問官のうめき声が聞こえて、カミオの背中にしがみつくのが見えた。
「こいつか、天界で噂の悪魔を信仰するものを火あぶりにする輩は」
「あら、そんな噂になってたの。残念ながらここに生まれる前にずいぶんと時間がかかってしまったわ」
「そうだな、お前が落書きした石ころが地に落ちてそれが神の逆鱗に触れた」
「そうして私は異端な天使から悪魔になったのね」
昔話をしている間に、審問官はどこかへ逃げ出してしまったようだった。
「そうだ、リリン。ここでは天使のふりをしたらどうだ」
「私が天使? 面白そう」
「もとは天使だったんだから、簡単だろう」
そんな企みをしていると、後ろにカインがいるのがわかった。
「盗み聞き? カインたら」
振り向くとカインが顔を赤く染めていた。
「そ、そんなわけないだろ。話しかけるのに戸惑っただけだ。ところで、そいつは.......? 」
「カイムよ、これでも序列53番の大総裁なんだから」
「こいつは、われらの信仰者のようだなリリン」
悪い顔で笑うカイムを小突くと、押し殺すように彼は笑う。それより、カインが私のほうを見て驚愕している。
「リ、リリン? 」
「何よ、そんなに足をガクガクさせて。そうよ、私はサタンの娘リリン。内緒だからね」
笑うと、カインは地面に顔を伏せた。
「リリン様、数々の御無礼をお許しください」
「頭をあげて頂戴、カイン。貴方は友達なんだから」
カインは慌てて両手を横に振った。
「滅相もない、俺なんかがそんな立場には」
「いいえ、貴方は私に気に入られた特別な人よ。私の婚約者なんだから。そういえばカイン、あなたは私を見たとき天使と言ったわね」
「なんかいろいろと話が展開されてるけど......、とりあえず許してください。俺の目は節穴でした」
私は地面に伏せるカインの前にしゃがみこんで、じっと見つめた。
「ううん、謝ることなんてないの。貴方は私を天使だと言ってくれた初めての人だもの」
私は生まれてきてから今まで異端の子と言われて誰も私を天使と呼ぼうとはしなかった。私は善を智とする天使とは全く正反対の性格をしていたからだ。私は人に善い行いをしようとする天使の姿が醜く見えた。人を見下しているように見えたから。一人でさみしくしている子を見れば可哀相だなんていう天使が嫌いだった。そんな私は創造主である神に愛されなかった。悪魔と呼ばれるのはむしろ好きだったけれど、忌み嫌われるのは寂しかった。そんな私を、悪気なく天使と言い表わしたカインが尊い存在だということは言うまでもない。
「エバ......いやリリン様。俺なんかで良いんですか」
「同じことを言わせないでカイン。貴方だからこそいいのよ」
カインが壁に掛けてあったタペストリーを持ってきて、私に歌の詩を教えた。全部知っていた。でも、欠けた歌詞があることに気が付いた。
私は歌って見た。辺り一面は静かになり、懐かしくも悲しい光景が瞼の裏に広がった。それはカインの声にかき消された。
カインは変な歌と言っていたけれど嫌な気はしなかった。だってこの詩をカインは歌にして歌っていたのだもの。
///////
審問官という人がドアを物々しく叩いて訪ねてきたのは、カインと私がくだらない話をしていた時だった。
「やば、まずいな。審問官だ、姿を見なくてもわかるぞ」
「審問官? 何それ」
「魔法使いを見つけては、片隅から捕まえて火あぶりにするやつらだよ」
「魔法使い? 何それ」
記憶の破片がまた一つの絵のように合わさった。私は思い出した。”聖書”というものを。そして散らばった記憶の欠片が一つのタペストリーとなって私の脳裏に歌となって流れた。
「魔法使いは悪い人なの? 」
「そんなことないさ、ただ悪魔様を信仰しているってだけさ」
「”聖書”では悪魔は悪い存在なんじゃないの? 」
そんなこと聞かないでもわかっていたけれど、聞かなくては私の居場所はあやふやなままだ。
「ああ、俺は”聖書”というものを読んだことはないが確かにサタン様とかは蛇に化けて人間を騙したと聞いたことがあるな。だが俺たちの先祖はサタン様は人間に自由の選択を与えたということになっている」
「というより、その役目を果たしただけだわ」
そこまで言って、また激しくドアをたたく音がしたので私は階段からその音のするほうに降りて行った。後ろから制止する声が聞こえるけれど大丈夫、私ならきっと無事でいられる。
謎の確信だった。
「そんなにドアを強く叩く人は誰? 」
ドアをたたく音がやんだ。
「審問官だ、ここに異端者が住み込んでいると聞いてな」
私はドアを開けずにまた訊ねた。
「あなたは異端者だからといって魔法を使う人たちを火あぶりにするの? 」
「当然だ、悪魔の使いだからな」
「あなたたちって、心が狭いのねー」
沈黙が続いて、しばらくしてからドアが開いた。審問官が開けたのではない。私が”魔法みたいなもの”で開けたのだ。
風が審問官の顔に当たり、審問官は面食らったような顔をしたけれど鼻をフンと荒げて私に近づいてきた。
「なんでそんなニコニコしているのだ」
「だって、あなたをからかうの面白いんだもん」
「ふん、こいつか例の不気味な歌を歌うというやつは」
そういうと、私の腕を無理やりつかんで連れて行こうとする。私は大声で叫ぶ代わりに、頭の上に大きな黒い鳥を呼び寄せて審問官を捕えさせた。大きな鷲みたいな爪で持ち上げて、翼を大きく振るう。
「なんだこれは、だ、だれか!悪魔だ!悪魔!」
私は笑った。だってこの子は私の友達だから。つまり、悪魔だから。
「久しぶりね、カミオ」
「そうだな、久しぶりに見た気がするぞ」
カミオは空高く審問官を投げ飛ばして、口ばしを動かす。審問官のうめき声が聞こえて、カミオの背中にしがみつくのが見えた。
「こいつか、天界で噂の悪魔を信仰するものを火あぶりにする輩は」
「あら、そんな噂になってたの。残念ながらここに生まれる前にずいぶんと時間がかかってしまったわ」
「そうだな、お前が落書きした石ころが地に落ちてそれが神の逆鱗に触れた」
「そうして私は異端な天使から悪魔になったのね」
昔話をしている間に、審問官はどこかへ逃げ出してしまったようだった。
「そうだ、リリン。ここでは天使のふりをしたらどうだ」
「私が天使? 面白そう」
「もとは天使だったんだから、簡単だろう」
そんな企みをしていると、後ろにカインがいるのがわかった。
「盗み聞き? カインたら」
振り向くとカインが顔を赤く染めていた。
「そ、そんなわけないだろ。話しかけるのに戸惑っただけだ。ところで、そいつは.......? 」
「カイムよ、これでも序列53番の大総裁なんだから」
「こいつは、われらの信仰者のようだなリリン」
悪い顔で笑うカイムを小突くと、押し殺すように彼は笑う。それより、カインが私のほうを見て驚愕している。
「リ、リリン? 」
「何よ、そんなに足をガクガクさせて。そうよ、私はサタンの娘リリン。内緒だからね」
笑うと、カインは地面に顔を伏せた。
「リリン様、数々の御無礼をお許しください」
「頭をあげて頂戴、カイン。貴方は友達なんだから」
カインは慌てて両手を横に振った。
「滅相もない、俺なんかがそんな立場には」
「いいえ、貴方は私に気に入られた特別な人よ。私の婚約者なんだから。そういえばカイン、あなたは私を見たとき天使と言ったわね」
「なんかいろいろと話が展開されてるけど......、とりあえず許してください。俺の目は節穴でした」
私は地面に伏せるカインの前にしゃがみこんで、じっと見つめた。
「ううん、謝ることなんてないの。貴方は私を天使だと言ってくれた初めての人だもの」
私は生まれてきてから今まで異端の子と言われて誰も私を天使と呼ぼうとはしなかった。私は善を智とする天使とは全く正反対の性格をしていたからだ。私は人に善い行いをしようとする天使の姿が醜く見えた。人を見下しているように見えたから。一人でさみしくしている子を見れば可哀相だなんていう天使が嫌いだった。そんな私は創造主である神に愛されなかった。悪魔と呼ばれるのはむしろ好きだったけれど、忌み嫌われるのは寂しかった。そんな私を、悪気なく天使と言い表わしたカインが尊い存在だということは言うまでもない。
「エバ......いやリリン様。俺なんかで良いんですか」
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