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番外編
初めてのホワイトデー Side 司 01話
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三月半ばを前にしてケンと優太に詰め寄られた。ホワイトデーはどうするのか、と。
ふたりに訊かれるまで、ホワイトデーという存在をすっかり忘れていた――というよりも、認知していなかった。
バレンタインデーとホワイトデーがセットであることは知っていたものの、それに自分が関与することはないと思っていたため、ついうっかり何事もなく過ごすところだった。
しかし、今になってその日の存在を認識したところで、どうリアクションしたらいいのか戸惑うわけで……。
ネット検索したところで自分の参考になりそうなものはない。
菓子をもらったのなら菓子を返せばいい。物をもらったのなら物を返せばいい。でも、それらが手作りだった場合、何を返すのが妥当なのか……。
焼き菓子、マフラー……作ろうと思えば作れないわけじゃない。
そこまで考えて頭に邪魔な人間が割り込んだ。それは御園生兄妹に難なく溶けこんだ人間――唯さん。
「……このルートは間違いなく唯さんとかぶる気がする」
それだけは避けたい。
……食べ物はきついかもしれない。
唯さんが菓子を作り、御園生さんがアンダンテの苺タルトを用意するともなれば、翠はしばらく甘いものに囲まれることになるだろう。
食べ物じゃないもの――
御園生さんによって培われた翠情報を頭の中にずらりと並べると、いくつかのアイテムが浮上した。
ひとつは栞、もうひとつはオルゴール。
翠が本を読んでいるところは見たことがない。けれど、栞なら邪魔にもならず、困ることもない気がする。
翠はちょっとしたコレクター癖があるようで、ハーブティー、ガラスアイテム、オルゴールを収集しているという。
ハーブティーは自分でブレンドするくらいだから、ある程度の種類が揃っているのだろう。ガラスアイテムといえば、とんぼ玉をあげた手前、また同じものになるのは避けたいところ。残るオルゴールはいい選択肢だと思ったが、翠が今まで集めてきたオルゴールの曲を知らない。
「……栞、か?」
栞といえば、紙製のものから皮製、金属と種類は豊富にある。劣化を考えるのなら、皮か金属。手作りをしようと思うのなら皮か金属か……。
そこまで考えをまとめると、電話帳からひとつの番号を呼び出した。
藤宮のお抱え宝飾デザイナーに相談したところ、栞本体の金属を作って送ってもらえることになった。
後日オーダーしたものが届いたわけだが、入っていたものに面食らう。
--------------------------------------------------------------------------------
司様
栞パーツのほか、装飾品のパーツも入れておきましたので、
作り方をご覧になりながらお作りになられてはいかがでしょうか。
司様は幼少のころ頃から手先が器用でいらっしゃいましたので、
一時間とかからず完成させることができるでしょう。
ご健闘をお祈りいたします。
篠宮誠
--------------------------------------------------------------------------------
装飾品のパーツと書かれているものはビーズの類だった。
「シトリン、ペリドット、水晶……」
ペールイエロー、ペールグリーン、透明な石。それらが球体にカットされ、中に紐を通せるように穴が開けられていた。
作り方と完成図が描かれて紙を前にひとつため息をつく。
――「イメージされる色はございますか?」。
篠塚さんに訊かれ、「柔らかい光と新緑の緑」と答えたのはほかでもない俺だ。
あれはこのためだったのか……。
まさか、この年になってビーズアクセサリーと呼ばれる類を作ることになるとは思いもしなかった。
完成図を頭に描きながら作業を進めれば、三十分とかからずに出来上がる。あとは栞本体に取り付ければ完成。
ラッピングのことまでは考えていなかったため、これといった包装はない。
特別なプレゼントじゃない。もらったから返すというイベント。ならばラッピングなどなくてもかまわない。
ボトルシップほど神経を使う作業ではないものの、目の奥がひどく痛んだ。
サプリを飲んだら今日は寝よう……。
単なるイベントと思いながらも、目を閉じ、翠の喜ぶ顔を思い浮かべる。
あの色味なら気に入ってもらえるだろう。
そんなことを考えながら眠りについた。
まさか、翠が風邪で学校を休むとも知らないで――
ふたりに訊かれるまで、ホワイトデーという存在をすっかり忘れていた――というよりも、認知していなかった。
バレンタインデーとホワイトデーがセットであることは知っていたものの、それに自分が関与することはないと思っていたため、ついうっかり何事もなく過ごすところだった。
しかし、今になってその日の存在を認識したところで、どうリアクションしたらいいのか戸惑うわけで……。
ネット検索したところで自分の参考になりそうなものはない。
菓子をもらったのなら菓子を返せばいい。物をもらったのなら物を返せばいい。でも、それらが手作りだった場合、何を返すのが妥当なのか……。
焼き菓子、マフラー……作ろうと思えば作れないわけじゃない。
そこまで考えて頭に邪魔な人間が割り込んだ。それは御園生兄妹に難なく溶けこんだ人間――唯さん。
「……このルートは間違いなく唯さんとかぶる気がする」
それだけは避けたい。
……食べ物はきついかもしれない。
唯さんが菓子を作り、御園生さんがアンダンテの苺タルトを用意するともなれば、翠はしばらく甘いものに囲まれることになるだろう。
食べ物じゃないもの――
御園生さんによって培われた翠情報を頭の中にずらりと並べると、いくつかのアイテムが浮上した。
ひとつは栞、もうひとつはオルゴール。
翠が本を読んでいるところは見たことがない。けれど、栞なら邪魔にもならず、困ることもない気がする。
翠はちょっとしたコレクター癖があるようで、ハーブティー、ガラスアイテム、オルゴールを収集しているという。
ハーブティーは自分でブレンドするくらいだから、ある程度の種類が揃っているのだろう。ガラスアイテムといえば、とんぼ玉をあげた手前、また同じものになるのは避けたいところ。残るオルゴールはいい選択肢だと思ったが、翠が今まで集めてきたオルゴールの曲を知らない。
「……栞、か?」
栞といえば、紙製のものから皮製、金属と種類は豊富にある。劣化を考えるのなら、皮か金属。手作りをしようと思うのなら皮か金属か……。
そこまで考えをまとめると、電話帳からひとつの番号を呼び出した。
藤宮のお抱え宝飾デザイナーに相談したところ、栞本体の金属を作って送ってもらえることになった。
後日オーダーしたものが届いたわけだが、入っていたものに面食らう。
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司様
栞パーツのほか、装飾品のパーツも入れておきましたので、
作り方をご覧になりながらお作りになられてはいかがでしょうか。
司様は幼少のころ頃から手先が器用でいらっしゃいましたので、
一時間とかからず完成させることができるでしょう。
ご健闘をお祈りいたします。
篠宮誠
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装飾品のパーツと書かれているものはビーズの類だった。
「シトリン、ペリドット、水晶……」
ペールイエロー、ペールグリーン、透明な石。それらが球体にカットされ、中に紐を通せるように穴が開けられていた。
作り方と完成図が描かれて紙を前にひとつため息をつく。
――「イメージされる色はございますか?」。
篠塚さんに訊かれ、「柔らかい光と新緑の緑」と答えたのはほかでもない俺だ。
あれはこのためだったのか……。
まさか、この年になってビーズアクセサリーと呼ばれる類を作ることになるとは思いもしなかった。
完成図を頭に描きながら作業を進めれば、三十分とかからずに出来上がる。あとは栞本体に取り付ければ完成。
ラッピングのことまでは考えていなかったため、これといった包装はない。
特別なプレゼントじゃない。もらったから返すというイベント。ならばラッピングなどなくてもかまわない。
ボトルシップほど神経を使う作業ではないものの、目の奥がひどく痛んだ。
サプリを飲んだら今日は寝よう……。
単なるイベントと思いながらも、目を閉じ、翠の喜ぶ顔を思い浮かべる。
あの色味なら気に入ってもらえるだろう。
そんなことを考えながら眠りについた。
まさか、翠が風邪で学校を休むとも知らないで――
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