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番外編
初めてのバレンタイン Side 蒼樹 01話
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「ねぇ、あんちゃん」
「ん?」
「バレンタインって毎年どんな感じ?」
訊かれて少し考えた。
「それ、俺が、っていうんじゃないよな?」
「もちろん。あんちゃんがバレンタインをどう過ごしてるのなんてどうでもいいし。リィが、だよ」
「だよな」
あまりにも想像どおりの答えに俺は笑う。
「翠葉なら、毎年お菓子を作ってくれるよ」
「マジっ!? 俺的注目はそこっ! 今年は司っちって本命がいるわけじゃん? どうかな? 家族枠でちゃんともらえるかな?」
それは考えていなかった……というよりは、もらえるつもりでいたからとてつもない衝撃を食らったところ。
「あ、あんちゃんその顔はもらえるって自負してたでしょ?」
「かなりね……。コレ、もらえなかったら結構ショックかもしれない」
何せ、翠葉が幼稚園に上がってからずっと何かしらもらってきたんだ。
それこそ、最初は折り紙で作ったチューリップやコップだったわけだけど、小学校に上がったら溶かして固めるだけのチョコレートになって、小学二年生のときにはコーンフレークにチョコをまぶして固めたもの。三年生のときにはココアのトリュフ。四年生のときにはココアとホワイトチョコのトリュフ。五年生のときに初めてフロランタンを焼いてくれた。六年生のときはガトーショコラに挑戦してくれた。中学に入るとお菓子のほかに手編みのマフラーが付随した。去年はからし色のマフラーとベイクドチーズだったわけだけど、今年は――
考えてみたら編み物をする時間はなかったはずだし、授業に遅れないようにと日々追われるように勉強をしている。今は学期末の進級テストに狙いを定めて猛勉強中といったところだろう。
編み物以前にお菓子を作る余裕があるのかすら怪しい。もっというなら、作れたところでたくさんは作れないんじゃないのか?
「カットされるのって家族からかなぁ……」
「そこだよね、そこそこ。リィならお世話になってる人みんなに配って回りたいと思うはずなんだけど、作る時間や体力的にどうなのかな、って。中途半端に配るくらいなら本命にしかあげないとか、割とザックリ分けそうな気がしてさ」
ふとカレンダーに目をやると、
「唯、大丈夫だ。いや、大丈夫だと思いたい。前日の十三日は日曜日だ」
幸か不幸か、前日が休みならそれ相応の数が作れるんじゃ……。
「でも、司っちとデートだったらどうする?」
「デートっ!?」
「ちょっとちょっと……たかだかデートで何うろたえてんのさ」
唯に呆れられようと、俺の中では驚愕の事態。
おかしいな……。秋斗先輩とも何度かデートしてるんだけど……。
おかしいおかしいおかしい……。
「相変わらずシスコン抜けないね? ま、俺もだけどさ」
あれはつい先日のこと――
学校へ向かって歩く道すがら、翠葉が口にした言葉たち。
学校が楽しいと、桜を見るのが楽しみだと、そう言って口元を綻ばせた。
空を見て、「来年もこの桜の花を見れるのだ」と言う翠葉を見て、激しく心を揺さぶられた。
なんてことのない言葉なのに、ひどく悲しくて、それと同じくらいに嬉しくて、涙が滲み出るのを回避することはできなかった。
嬉しくて切なくて、胸に針がチクッと刺さるような痛みを覚えた。
翠葉が兄離れしなくちゃいけないのも、家族離れしなくちゃいけないのもわかっていて、もちろん俺が翠葉から離れなくちゃいけないことも理解していて――けれど、いざ翠葉が自分で歩き始めた姿を見たとき、確かに切ない思いに痛みが生じた。
「俺、大丈夫かな?」
不意に出た言葉。それに唯が即答した。
「だめっしょ? だめだめっしょ? ま、それがあんちゃんだからそれでいいんじゃん? 俺は今までと変わらず司っちの邪魔するし」
「おぃ……」
「だってさぁ、リィだよ? 俺たちの妹だよ? もったいないって。俺、今から結構な自信があるんだけど。リィをお嫁にくださいって男が来たら、超ハードル高い難題叩きつけてやろうと心に決めてんの」
「なんだよそれ」
まるで父さんみたいなこと言って。……とは思いつつも、自分だって怪しいことこのうえない。
「いいじゃん。もう誰が迎えに来るのかわかってるようなもんだし。司っちになんてただじゃやらないよ。ま、付き合うくらいは認めてあげる。ここに至るまで、常に損な役回り買って出てたからね。そのくらいは譲歩します。でも、結婚は別だから」
妙にキリッとした顔で言うもんだから、思わず吹き出した。
「それ、すごい婿いびりだけど――悪い、俺も唯に一票。っていうか、俺は余裕そうに取り繕ってるから、唯ががんばって挑戦状叩きつけてよ。よろしく」
兄ふたりが反対したら翠葉は悲しむだろう。それに、兄ふたりが婿いびりしてるなんて体裁も悪い。だから、そんな役は唯に任せよう。
「あんちゃんそういうところうまいよね?」
「どうかな? いいじゃん、適任がいるならその人に任せる方向で。どんなことも適材適所だよ」
言うと、唯もにっと笑う。
「まぁね。俺もその言葉は好きかな」
翠葉は俺たちがこんな話をしてるとも知らずにバスタイムを堪能している。
翠葉、今年おまえはどんなバレンタインを過ごす?
とても楽しみでどこか切ない。
妹に好きな人ができて付き合うことになる――
とても自然な流れなのに、胸がチクリと痛む。
そうだ、この傷は桃華に癒してもらおう。
「ん?」
「バレンタインって毎年どんな感じ?」
訊かれて少し考えた。
「それ、俺が、っていうんじゃないよな?」
「もちろん。あんちゃんがバレンタインをどう過ごしてるのなんてどうでもいいし。リィが、だよ」
「だよな」
あまりにも想像どおりの答えに俺は笑う。
「翠葉なら、毎年お菓子を作ってくれるよ」
「マジっ!? 俺的注目はそこっ! 今年は司っちって本命がいるわけじゃん? どうかな? 家族枠でちゃんともらえるかな?」
それは考えていなかった……というよりは、もらえるつもりでいたからとてつもない衝撃を食らったところ。
「あ、あんちゃんその顔はもらえるって自負してたでしょ?」
「かなりね……。コレ、もらえなかったら結構ショックかもしれない」
何せ、翠葉が幼稚園に上がってからずっと何かしらもらってきたんだ。
それこそ、最初は折り紙で作ったチューリップやコップだったわけだけど、小学校に上がったら溶かして固めるだけのチョコレートになって、小学二年生のときにはコーンフレークにチョコをまぶして固めたもの。三年生のときにはココアのトリュフ。四年生のときにはココアとホワイトチョコのトリュフ。五年生のときに初めてフロランタンを焼いてくれた。六年生のときはガトーショコラに挑戦してくれた。中学に入るとお菓子のほかに手編みのマフラーが付随した。去年はからし色のマフラーとベイクドチーズだったわけだけど、今年は――
考えてみたら編み物をする時間はなかったはずだし、授業に遅れないようにと日々追われるように勉強をしている。今は学期末の進級テストに狙いを定めて猛勉強中といったところだろう。
編み物以前にお菓子を作る余裕があるのかすら怪しい。もっというなら、作れたところでたくさんは作れないんじゃないのか?
「カットされるのって家族からかなぁ……」
「そこだよね、そこそこ。リィならお世話になってる人みんなに配って回りたいと思うはずなんだけど、作る時間や体力的にどうなのかな、って。中途半端に配るくらいなら本命にしかあげないとか、割とザックリ分けそうな気がしてさ」
ふとカレンダーに目をやると、
「唯、大丈夫だ。いや、大丈夫だと思いたい。前日の十三日は日曜日だ」
幸か不幸か、前日が休みならそれ相応の数が作れるんじゃ……。
「でも、司っちとデートだったらどうする?」
「デートっ!?」
「ちょっとちょっと……たかだかデートで何うろたえてんのさ」
唯に呆れられようと、俺の中では驚愕の事態。
おかしいな……。秋斗先輩とも何度かデートしてるんだけど……。
おかしいおかしいおかしい……。
「相変わらずシスコン抜けないね? ま、俺もだけどさ」
あれはつい先日のこと――
学校へ向かって歩く道すがら、翠葉が口にした言葉たち。
学校が楽しいと、桜を見るのが楽しみだと、そう言って口元を綻ばせた。
空を見て、「来年もこの桜の花を見れるのだ」と言う翠葉を見て、激しく心を揺さぶられた。
なんてことのない言葉なのに、ひどく悲しくて、それと同じくらいに嬉しくて、涙が滲み出るのを回避することはできなかった。
嬉しくて切なくて、胸に針がチクッと刺さるような痛みを覚えた。
翠葉が兄離れしなくちゃいけないのも、家族離れしなくちゃいけないのもわかっていて、もちろん俺が翠葉から離れなくちゃいけないことも理解していて――けれど、いざ翠葉が自分で歩き始めた姿を見たとき、確かに切ない思いに痛みが生じた。
「俺、大丈夫かな?」
不意に出た言葉。それに唯が即答した。
「だめっしょ? だめだめっしょ? ま、それがあんちゃんだからそれでいいんじゃん? 俺は今までと変わらず司っちの邪魔するし」
「おぃ……」
「だってさぁ、リィだよ? 俺たちの妹だよ? もったいないって。俺、今から結構な自信があるんだけど。リィをお嫁にくださいって男が来たら、超ハードル高い難題叩きつけてやろうと心に決めてんの」
「なんだよそれ」
まるで父さんみたいなこと言って。……とは思いつつも、自分だって怪しいことこのうえない。
「いいじゃん。もう誰が迎えに来るのかわかってるようなもんだし。司っちになんてただじゃやらないよ。ま、付き合うくらいは認めてあげる。ここに至るまで、常に損な役回り買って出てたからね。そのくらいは譲歩します。でも、結婚は別だから」
妙にキリッとした顔で言うもんだから、思わず吹き出した。
「それ、すごい婿いびりだけど――悪い、俺も唯に一票。っていうか、俺は余裕そうに取り繕ってるから、唯ががんばって挑戦状叩きつけてよ。よろしく」
兄ふたりが反対したら翠葉は悲しむだろう。それに、兄ふたりが婿いびりしてるなんて体裁も悪い。だから、そんな役は唯に任せよう。
「あんちゃんそういうところうまいよね?」
「どうかな? いいじゃん、適任がいるならその人に任せる方向で。どんなことも適材適所だよ」
言うと、唯もにっと笑う。
「まぁね。俺もその言葉は好きかな」
翠葉は俺たちがこんな話をしてるとも知らずにバスタイムを堪能している。
翠葉、今年おまえはどんなバレンタインを過ごす?
とても楽しみでどこか切ない。
妹に好きな人ができて付き合うことになる――
とても自然な流れなのに、胸がチクリと痛む。
そうだ、この傷は桃華に癒してもらおう。
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