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第十四章 三叉路
06話
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翌朝、私は手提げ袋に秋斗さんのジャケットを入れて家を出た。
日中はロッカーに入れておき、病院へ行く前に秋斗さんのところへ寄ろうと思っていた。
病院へ行く前なら引き止められたりはしないだろう。
そう考えていた私は少し甘かった――
体感時間は不思議だと思う。
楽しい時間はあっという間に終わるし、苦痛な時間は永遠にも感じられる。
楽しみなことは待ち遠しく思うのに、来ないで欲しい時間はあっという間にやってくる。
いつ、どの一分一秒も、決して変わることはないとういうのに――
気が重いといつもに増して動作がゆっくりになる。
それでもジャケットは返しに行かなくてはいけない。
秋斗さんが図書棟にいるのかは行ってみないとわからない。
事前に行くことを伝えておいたほうが良かったのかもしれないけれど、連絡をする勇気が私にはなかった。
連絡すらできないのに本人に会いに行こうとしているのだから、どう考えても無理がある。
でも、もし秋斗さんがいなかったとしても、「返しに行った」という行動を取った自分になら言い訳ができる気がしていた。
そんなの、また返しに行かなくちゃいけないのだから、同じことの繰り返しになるのに。
効率の悪さとかそういう部分にまで頭が回っていなかったと思う。
図書室の指紋認証をパスして中に入ると、秋斗さんの仕事部屋のドアが開いた。
「いらっしゃい」
まるで来ることがわかっていたかのように出迎えられて驚く。
どうして……?
その疑問に答えるように秋斗さんが口を開いた。
「仕事部屋から、翠葉ちゃんがこっちに向かって歩いてくるのが見えたんだ」
その答えにひとり納得していると、秋斗さんの視線は私の持つ手提げ袋に移動する。
「ジャケット、かな?」
「はい。お返しするのが遅くなってしまってすみません……」
「そんなことないよ。まだ持っていてもらってもかまわなかったんだけどね」
「……え?」
「ほら、そしたら俺が翠葉ちゃんを尋ねる口実になったでしょ?」
秋斗さんはいたずらっぽく笑ってこう続けた。
「今お茶を淹れたところだからよかったら飲んでいかない?」
「……私、このあと病院へ行かなくちゃいけなくて」
「それ、誰かが迎えに来ることになってる?」
「いえ……行きは藤山の私道を通らせていただいて、歩いていく予定です」
「それなら行きは俺が送っていくよ。だから、ティータイムに付き合って?」
「でも、秋斗さんお仕事……」
「ティータイム、つまりは休憩時間。それに、病院までなら行って帰ってきても十分とかからないよ」
断る理由をそれ以上に見つけることができなくて、私は秋斗さんとお茶を飲むことになった。
仕事部屋に入ると、ダイニングテーブルにはふたつのカップが仲良く並んでいた。
ひとつは秋斗さんがいつも使っているマグカップ。もうひとつは、私用の耐熱ガラスのティーカップ。
ふたつのカップからはほわほわと湯気が上がっていた。
お茶はすでに注がれていたのだ。
「今日二回目のどうして、って顔」
秋斗さんがクスクスと笑いながら、
「翠葉ちゃんはずいぶんと時間をかけてテラスを歩いてきたからね」
「っ……!?」
「……ここに来るのはそんなに来づらかった?」
テラスを歩いている途中、何度も足が止まった。そのたびに手提げ袋を見つめため息をついた。
それをすべて見られていたうえでのストレートな質問に言葉が詰まる。
来づらかったとは答えにくい。でも、気の利いた言葉や取り繕う言葉が思い浮かばない。
わかることといえば、「そんなことはないです」と否定したところで真実味はないだろうということくらい。
「そんなに困らないで? ほら、お茶が冷める前に飲もう」
秋斗さんに促され、ダイニングの椅子に座った。
その席は、初めてこの部屋を訪れた際に勧められた席と同じ場所。秋斗さんもそのときと同じように私の向かいに座る。
「いただきます」とカップに口をつけると、ハーブティーは少し熱いかな、という程度で、飲めないほど熱くはなかった。
慣れ親しんだ香りがふわりと香る。
カップをテーブルに置くと、コト、と音が響いた。
それは何気ない動作に付随してくる小さな音のはずだったけど、今この空間においてはとても存在感のある音に感じた。
短い残響音がなくなれば、パソコンのブゥンというファンの音と空調のわずかな音のみが残る。
何がどう、というわけではないけれど、居心地が悪い気がした。
反射的に身は縮こまり、カップを握る手に力がこもる。
次の瞬間には「翠葉ちゃん」という言葉と共に、私の手は秋斗さんの両手に包まれていた。
咄嗟に引っ込めようとしたけれど、それは秋斗さんの力が許してはくれない。
「翠葉ちゃんはそのままでいいんだ。……来づらかったなら来づらかったでいい。そんなことないって否定してくれてもかまわない。俺はどっちでも嬉しいから」
……どうして?
顔を上げると、穏やかに笑う秋斗さんがいた。
「来づらくても来てくれた……。俺を気遣って『そんなことない』って否定してくれた。その気持ちを嬉しいと思う」
秋斗さんは優しい。いつも、どんなときも――どんな私でも優しく包み込んでくれる。
秋斗さんの「わかりやすい優しさ」は蒼兄が私にくれるものにとても似ている。だから、時間が経つにつれて秋斗さんという人に慣れ始めたら、すんなりと受け入れることができたのだろう。
でも、今はその優しさがつらい。「好き」という気持ちをもらっているうえでの優しさがつらい。
それはきっと、誠意ある対応をしてくれる人に対し、自分が同じようにできていないから。
「翠葉ちゃん、もうゴクゴク飲める温度だと思うよ」
その言葉に我に返る。
考えごとをしていたら、目に何が映っているのかすらわからなくなっていて、気づいたときには私の手を包んでいた秋斗さんの手はなくなっていた。
お茶を飲み終え「ごちそうさまでした」と言うと、
「カップはそのままで」
秋斗さんは席を立ち、上着と車のキーを手にした。
「じゃ、行こうか」
「はい」
仕事部屋を出ると、そこには生徒会メンバーが揃っていた。
みんなの視線は自然と私と秋斗さんに集り、私は私でどうしてメンバーが揃っているのかを不思議に思う。
いないのは久先輩だけ。
「翠葉、帰ったんじゃなかったの?」
桃華さんに訊かれ、秋斗さんに返すものがあって図書棟へ来たことを伝えた。
「桃華さんたちはどうして……?」
その疑問に答えてくれたのはツカサだった。
「今、会長が校長室に『仕上げ』の結果を取りにいってる。ホームルームが終わった頃に会長からメンバー全員にメールが送られたはずだけど……翠、携帯は?」
「あ……ごめんなさい。かばんの中に……」
慌ててかばんを開けようとすると、鋭い視線と声にそれを制された。
「持っていても着信に気づかなかったら携帯の意味がないと思うけど?」
「ごめんなさい……」
かばんに入れていたうえ、病院へ行くからと電源まで落としていたとは言えなかった。
「司、やけに突っかかるな?」
話に加わったのは秋斗さん。
「そう? いつもと変わらないと思うけど」
「そんなに俺と翠葉ちゃんが一緒にいたことが不満?」
秋斗さんはクスクスと笑いながら、まるで挑発でもするように話す。
「……不満といったら不満だな」
「そうだな。俺が司でもそう思うだろうな。好きな子が、その子を好いている男とふたりでお茶してたなんて知りたくもないよな?」
「秋斗さんっ!?」
どうして秋斗さんがツカサの好きな人を知っているのっ!?
その場で慌てているのは私ひとりだけ。ほかのメンバーは何を言うでもなくふたりのやり取りを静観している。
「あぁ、面白くないな。秋兄の言うとおり、翠と秋兄が一緒にいるのは面白くない。そう言ったらやめてくれるわけ?」
ツカサは絶対零度と呼ばれる笑みを添えて言葉を返す。
「まさか。誰にお願いされてもやめるつもりなんてさらさらないよ。翠葉ちゃんが応じてくれる限りはね」
声には抑揚を感じるものの、秋斗さんとツカサが笑顔で言葉を交わすたびに険悪さが増す。
ピン、と張り詰めた空間に異質な風が舞いこんだ。
電子音が鳴り、久先輩が「イェイッ!」と白いファイルを掲げて入ってきたのだ。
久先輩は図書室内の異様な雰囲気に気づいたのか、「ん?」とあたりを見回す。
「あっれー? 何この空気。っていうか、秋斗先生と翠葉ちゃんはお出かけ?」
「彼女、これから病院なんだ。もう時間がないから翠葉ちゃんにはあとでメールを送ってあげて?」
「了解でーす! でもちょろりと口頭で……。翠葉ちゃん、学校印もらえた! 花丸だって花丸っ!」
久先輩は満面の笑みでファイルの一番後ろを開き、よくある四角い学校印を見せてくれた。
「じゃ、詳しいことはメールでね! いってらっしゃい」
その勢いに押され、秋斗さんとふたり図書室を出た。
隣に並ぶ秋斗さんを見ると、「ん?」と優しい笑顔を向けられる。
「あの……」
「どうかした?」
訊きたいけど訊きづらい。
でも、今訊かなかったら訊くタイミングを逃がしてしまう気がする。
「秋斗さんはどうしてツカサが……その――」
「翠葉ちゃんを好きなことを知っていたのか、かな?」
「……はい」
「そうだな……本人から聞いたというよりは、司をずっと見てきたから知ってるっていうのが正しいかな」
「え……?」
「俺は翠葉ちゃんも見てきたけど、司のこともずっと見てきたんだ。それこそ、小さい頃から……というよりも、生まれたときからね。その司に変化があればすぐに気づくよ。こと、他人に興味を示さなかった司が初めて関心を示した人間が翠葉ちゃん、君だったから」
その言葉にドキリとした。
「さ、続きは車の中で。翠葉ちゃんは上履きを靴に履き替えてこなくちゃでしょ?」
私は背中を押され、昇降口へと向かってテラスを歩き始めた。
日中はロッカーに入れておき、病院へ行く前に秋斗さんのところへ寄ろうと思っていた。
病院へ行く前なら引き止められたりはしないだろう。
そう考えていた私は少し甘かった――
体感時間は不思議だと思う。
楽しい時間はあっという間に終わるし、苦痛な時間は永遠にも感じられる。
楽しみなことは待ち遠しく思うのに、来ないで欲しい時間はあっという間にやってくる。
いつ、どの一分一秒も、決して変わることはないとういうのに――
気が重いといつもに増して動作がゆっくりになる。
それでもジャケットは返しに行かなくてはいけない。
秋斗さんが図書棟にいるのかは行ってみないとわからない。
事前に行くことを伝えておいたほうが良かったのかもしれないけれど、連絡をする勇気が私にはなかった。
連絡すらできないのに本人に会いに行こうとしているのだから、どう考えても無理がある。
でも、もし秋斗さんがいなかったとしても、「返しに行った」という行動を取った自分になら言い訳ができる気がしていた。
そんなの、また返しに行かなくちゃいけないのだから、同じことの繰り返しになるのに。
効率の悪さとかそういう部分にまで頭が回っていなかったと思う。
図書室の指紋認証をパスして中に入ると、秋斗さんの仕事部屋のドアが開いた。
「いらっしゃい」
まるで来ることがわかっていたかのように出迎えられて驚く。
どうして……?
その疑問に答えるように秋斗さんが口を開いた。
「仕事部屋から、翠葉ちゃんがこっちに向かって歩いてくるのが見えたんだ」
その答えにひとり納得していると、秋斗さんの視線は私の持つ手提げ袋に移動する。
「ジャケット、かな?」
「はい。お返しするのが遅くなってしまってすみません……」
「そんなことないよ。まだ持っていてもらってもかまわなかったんだけどね」
「……え?」
「ほら、そしたら俺が翠葉ちゃんを尋ねる口実になったでしょ?」
秋斗さんはいたずらっぽく笑ってこう続けた。
「今お茶を淹れたところだからよかったら飲んでいかない?」
「……私、このあと病院へ行かなくちゃいけなくて」
「それ、誰かが迎えに来ることになってる?」
「いえ……行きは藤山の私道を通らせていただいて、歩いていく予定です」
「それなら行きは俺が送っていくよ。だから、ティータイムに付き合って?」
「でも、秋斗さんお仕事……」
「ティータイム、つまりは休憩時間。それに、病院までなら行って帰ってきても十分とかからないよ」
断る理由をそれ以上に見つけることができなくて、私は秋斗さんとお茶を飲むことになった。
仕事部屋に入ると、ダイニングテーブルにはふたつのカップが仲良く並んでいた。
ひとつは秋斗さんがいつも使っているマグカップ。もうひとつは、私用の耐熱ガラスのティーカップ。
ふたつのカップからはほわほわと湯気が上がっていた。
お茶はすでに注がれていたのだ。
「今日二回目のどうして、って顔」
秋斗さんがクスクスと笑いながら、
「翠葉ちゃんはずいぶんと時間をかけてテラスを歩いてきたからね」
「っ……!?」
「……ここに来るのはそんなに来づらかった?」
テラスを歩いている途中、何度も足が止まった。そのたびに手提げ袋を見つめため息をついた。
それをすべて見られていたうえでのストレートな質問に言葉が詰まる。
来づらかったとは答えにくい。でも、気の利いた言葉や取り繕う言葉が思い浮かばない。
わかることといえば、「そんなことはないです」と否定したところで真実味はないだろうということくらい。
「そんなに困らないで? ほら、お茶が冷める前に飲もう」
秋斗さんに促され、ダイニングの椅子に座った。
その席は、初めてこの部屋を訪れた際に勧められた席と同じ場所。秋斗さんもそのときと同じように私の向かいに座る。
「いただきます」とカップに口をつけると、ハーブティーは少し熱いかな、という程度で、飲めないほど熱くはなかった。
慣れ親しんだ香りがふわりと香る。
カップをテーブルに置くと、コト、と音が響いた。
それは何気ない動作に付随してくる小さな音のはずだったけど、今この空間においてはとても存在感のある音に感じた。
短い残響音がなくなれば、パソコンのブゥンというファンの音と空調のわずかな音のみが残る。
何がどう、というわけではないけれど、居心地が悪い気がした。
反射的に身は縮こまり、カップを握る手に力がこもる。
次の瞬間には「翠葉ちゃん」という言葉と共に、私の手は秋斗さんの両手に包まれていた。
咄嗟に引っ込めようとしたけれど、それは秋斗さんの力が許してはくれない。
「翠葉ちゃんはそのままでいいんだ。……来づらかったなら来づらかったでいい。そんなことないって否定してくれてもかまわない。俺はどっちでも嬉しいから」
……どうして?
顔を上げると、穏やかに笑う秋斗さんがいた。
「来づらくても来てくれた……。俺を気遣って『そんなことない』って否定してくれた。その気持ちを嬉しいと思う」
秋斗さんは優しい。いつも、どんなときも――どんな私でも優しく包み込んでくれる。
秋斗さんの「わかりやすい優しさ」は蒼兄が私にくれるものにとても似ている。だから、時間が経つにつれて秋斗さんという人に慣れ始めたら、すんなりと受け入れることができたのだろう。
でも、今はその優しさがつらい。「好き」という気持ちをもらっているうえでの優しさがつらい。
それはきっと、誠意ある対応をしてくれる人に対し、自分が同じようにできていないから。
「翠葉ちゃん、もうゴクゴク飲める温度だと思うよ」
その言葉に我に返る。
考えごとをしていたら、目に何が映っているのかすらわからなくなっていて、気づいたときには私の手を包んでいた秋斗さんの手はなくなっていた。
お茶を飲み終え「ごちそうさまでした」と言うと、
「カップはそのままで」
秋斗さんは席を立ち、上着と車のキーを手にした。
「じゃ、行こうか」
「はい」
仕事部屋を出ると、そこには生徒会メンバーが揃っていた。
みんなの視線は自然と私と秋斗さんに集り、私は私でどうしてメンバーが揃っているのかを不思議に思う。
いないのは久先輩だけ。
「翠葉、帰ったんじゃなかったの?」
桃華さんに訊かれ、秋斗さんに返すものがあって図書棟へ来たことを伝えた。
「桃華さんたちはどうして……?」
その疑問に答えてくれたのはツカサだった。
「今、会長が校長室に『仕上げ』の結果を取りにいってる。ホームルームが終わった頃に会長からメンバー全員にメールが送られたはずだけど……翠、携帯は?」
「あ……ごめんなさい。かばんの中に……」
慌ててかばんを開けようとすると、鋭い視線と声にそれを制された。
「持っていても着信に気づかなかったら携帯の意味がないと思うけど?」
「ごめんなさい……」
かばんに入れていたうえ、病院へ行くからと電源まで落としていたとは言えなかった。
「司、やけに突っかかるな?」
話に加わったのは秋斗さん。
「そう? いつもと変わらないと思うけど」
「そんなに俺と翠葉ちゃんが一緒にいたことが不満?」
秋斗さんはクスクスと笑いながら、まるで挑発でもするように話す。
「……不満といったら不満だな」
「そうだな。俺が司でもそう思うだろうな。好きな子が、その子を好いている男とふたりでお茶してたなんて知りたくもないよな?」
「秋斗さんっ!?」
どうして秋斗さんがツカサの好きな人を知っているのっ!?
その場で慌てているのは私ひとりだけ。ほかのメンバーは何を言うでもなくふたりのやり取りを静観している。
「あぁ、面白くないな。秋兄の言うとおり、翠と秋兄が一緒にいるのは面白くない。そう言ったらやめてくれるわけ?」
ツカサは絶対零度と呼ばれる笑みを添えて言葉を返す。
「まさか。誰にお願いされてもやめるつもりなんてさらさらないよ。翠葉ちゃんが応じてくれる限りはね」
声には抑揚を感じるものの、秋斗さんとツカサが笑顔で言葉を交わすたびに険悪さが増す。
ピン、と張り詰めた空間に異質な風が舞いこんだ。
電子音が鳴り、久先輩が「イェイッ!」と白いファイルを掲げて入ってきたのだ。
久先輩は図書室内の異様な雰囲気に気づいたのか、「ん?」とあたりを見回す。
「あっれー? 何この空気。っていうか、秋斗先生と翠葉ちゃんはお出かけ?」
「彼女、これから病院なんだ。もう時間がないから翠葉ちゃんにはあとでメールを送ってあげて?」
「了解でーす! でもちょろりと口頭で……。翠葉ちゃん、学校印もらえた! 花丸だって花丸っ!」
久先輩は満面の笑みでファイルの一番後ろを開き、よくある四角い学校印を見せてくれた。
「じゃ、詳しいことはメールでね! いってらっしゃい」
その勢いに押され、秋斗さんとふたり図書室を出た。
隣に並ぶ秋斗さんを見ると、「ん?」と優しい笑顔を向けられる。
「あの……」
「どうかした?」
訊きたいけど訊きづらい。
でも、今訊かなかったら訊くタイミングを逃がしてしまう気がする。
「秋斗さんはどうしてツカサが……その――」
「翠葉ちゃんを好きなことを知っていたのか、かな?」
「……はい」
「そうだな……本人から聞いたというよりは、司をずっと見てきたから知ってるっていうのが正しいかな」
「え……?」
「俺は翠葉ちゃんも見てきたけど、司のこともずっと見てきたんだ。それこそ、小さい頃から……というよりも、生まれたときからね。その司に変化があればすぐに気づくよ。こと、他人に興味を示さなかった司が初めて関心を示した人間が翠葉ちゃん、君だったから」
その言葉にドキリとした。
「さ、続きは車の中で。翠葉ちゃんは上履きを靴に履き替えてこなくちゃでしょ?」
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